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第30話 未来へ繋がる決意、受け継がれた意志

 零は今ひたすら走り続けている。とある目的の場所に向けてまっしぐらだ。


 (奴を殺す方法、何かあるはずだ。だが心臓を潰そうが、喉仏を切り裂こうが、頭を潰しても死ななかった。あとやれる方法としたら奴を粉々にするしかねぇ。だが今の俺では奴をバラバラにするのは無理だ。だが、現代兵器を使えば・・・この近くだ)


 零は先日埋めておいた銃器を使う気でいる。銃弾が湿気っていないか心配だったが、今はそれよりも早急にリバーを片付ける方が優先だ。


 「どこまで逃げんだよ!」


 リバーは氷の魔法を使い、零を追い詰めていくが、零はしっかり見極めかわし、誘導する。


 「見つけたぜ、あそこだ」


 零はあまり大きくない滝の前にたどり着いた。


 「行き止まりだなぁ、アマナ。さぁて止めと行きますか!」

 

 リバーは零に向けて氷の槍を投げつけた。


 「何言ってんだてめぇ。戦いはこっからだぜ?」


 そう言うと零は飛んできた槍を掴んでそれを滝つぼに刺しそれを足場に勢いをつけて滝の裏に飛んでいった。


 「あれま、滝の裏の洞窟か・・・こんな場所があったなんてな。我々が知らない場所だ・・・後々調査しなければな・・・今はあいつを追う事にするか」


 リバーは少し滝を眺め、零の後を追った。


 ・


 ・


 「うん、成程夜の洞窟か。この暗闇から俺を襲う為にここに誘き出したって訳か、作戦としてはいいぜ。だがよアマナ、さっきも見ただろ?不意を突いても俺は殺せねぇぜ・・・それに俺は、臭いでてめぇの場所は手に取るように分かんだよ!!」


 リバーは氷の剣を暗闇に投げ飛ばした、そしてそれは零の左わき腹を貫通した。零も同様に暗闇のせいで完全な位置は把握できていなかった。


 (ちっ・・・この暗闇なら多少は誤魔化せると踏んでいたんだが、それも無理か・・・俺が武器を埋めた所まではあと数メートルだ。だが、今武器を手にしたところで銃には弾が入ってねぇ。出来る限り隙を作らねぇとな)


 「こっちだぜウスノロ。ずれてんじゃねぇか・・・本当に見えてんのか?」


 「目の前に出てくるとはな・・・諦めたか?それとも何か考えているのか?俺としては前者しか考えられねぇな。死ね!アマナ!!」


 リバーは人一人を潰せるほどの巨大な氷柱を出現させ、零の上から落とそうとした。


 「やっと、隙が出来た」


 零は両手を地面につけた、すると猛スピードで零の周囲を岩が覆いかぶさった。その岩が氷柱を防いだ。


 「何!?」


 「てめぇをバラバラに吹き飛ばせば、流石にてめぇでも死ぬだろ?」


 零の手元には、真ん中からポキンと折れたような太い鉄パイプのような物にパイプの太さとほぼ同じ大きさの塊を突っ込んだ。そして折れたパイプをポンっと引っ付けた。


 「まさか、それは!?」


 「グレネードランチャーって言うんだとよ!!」


 零は、パイプに付いた引き金をグイっと引いた。その後はほんの一瞬だった。リバーは吹っ飛び岩山に激突した瞬間に弾薬が炸裂し、激しい轟音と衝撃が零にも襲い掛かった。洞窟が揺れ、巨大な岩があちこちから落ちてくる。しばらくして揺れは収まった。


 「はぁ・・・ここまでやりゃ、流石の奴も・・・」


 零は周囲を見渡す、リバーの影は形すら見えない。


 「今度こそ、やったな・・・っ!?」


 零がリバーの血痕らしきものを見て、流石に少し安堵し、集中を切らしてしまっていた。だが、この乾いた音、腹部に走った激痛が、まだ終わっていない事を、そして新たな謎を生み出した。


 「マジで危なかったぁ。まさかグレネードランチャーとは、流石に驚いたぜ。それを隠し持っていたことも、我々は知らなかった。だが、それでも俺は殺せねぇよ。何故かって?俺は知ってんだよ。それをな」


 リバーの右手に握られていたのは、自動拳銃だった。


 「・・・どういう事だ。何故、そいつをてめぇは知ってんだ?この世界には・・・」


 「ん~、教えることは出来ねぇんだよな~。けど、ここじゃ誰も見てねぇし、ヒントだけやるか。俺はお前を知ってんだぜ?アマナ、いや、神崎 零さんよぉ」


 零はこの時に気が付いた、このリバーという男は零と同じ、別の世界から来た。


 「まさかてめぇのその力・・・そいつは・・・」


 「正解だ」


 零がしゃべりきる前に、リバーは引き金を引いた。それを察知して横に飛び、かわした。


 リバーは喋りながら、引き金を何度も引く。


 「俺が魔法をここまで制御で来てんのは、さっき言ったこと『プラス』俺自身が特別だからなんだよ。俺の役目はゲイル様に・・・じゃねぇな。こっちの世界で生きてる奴に俺と同等、それ以上の力を身に着けさせる実験中なんだよ。おっと、これ以上言うのはまずいか・・・


 けどよアマナぁ、これだけは言っておくぜ。無駄なんだよ。てめぇが敵に回そうとしてんのは、このエイドも、アダムスも、この異世界の総力あげても勝ち目のねぇ奴らだってことを自覚しな。てめぇごときが俺をここまで追い込んだのは褒めてやるが、それが仇となっちまったなぁ。てめぇがゾロアスの事にここまで干渉するのは想定外だった。てめぇがおとなしくしてりゃ、ホシもあのガキ共も、ここまで巻き込まれることはなかったんだぜ。全部、てめぇのせいなんだよ!」


 目の前にリバーが立った。リバーは照準を零の心臓に目がけて、引き金を引いた。


 ・・プチン。


 この時零は事もあろうか、それよりも早く前に踏み出していた。完全に無意識だった。零はリバーに向けて拳を振るっていた。銃弾と拳、早いのは圧倒的に銃弾だった。リバーの銃弾は零の左胸を貫く。


 だが、零は全く止まらない。痛みと言った感覚はもう彼の中から消え去り、リバーを殺すという執念のみが体を動かした。さらに勢いをつけた拳は、リバーの顔面にめり込んだ。


 リバーの体は回転しながら、吹き飛んでいった。


 「がっ!!ごっ!!」


 リバーは地面に何回もバウンドし、岩の壁激突するもその勢いはすさまじくその壁が粉砕した。


 洞窟が大きく揺れた。


 「なんだ・・・今のは、ナナの魔法を応用したのか?だが、それでもここまでの威力には・・・!?」


 リバーは体にのしかかった岩をどけた。そして自分を吹き飛ばした零の方を見る。だが零はもう既にリバーの目の前に立ち、見下ろしていた。


 「なんだよこれ・・・これは一体なんだ!?こんなの、知らねぇぞ!?」


 衝撃で崩れた洞窟の壁の向こう側、そこには広い空間があり、外に近いのか僅かに月の光が部屋に差し込んでいた。真っ暗で何も見えなかった零の姿を、リバーははっきりとその目に焼き付けた。


 『やっと、理解できた・・・どうして俺がてめぇと真剣に戦ったのか、どうしてこんなに焦っていたのか・・・やっと分かった』


 先ほどまでとは違う、唸るような声が洞窟に響く。


 『俺は、怖かったんだ・・・怖ぇ・・・俺のせいで、あいつ等が傷つくのは・・・させねぇ・・・もう、二度と・・・俺は・・・俺は!!』


 零はビリビリと引き裂きながら上着を脱ぎ捨てた。


 「鬼・・・コレはそう形容するしかない。こいつはまさか・・・」


 零の姿、右腕は少し大きくなり、手には尖った爪。そして顔の右半分の口元は鋭い牙が生え、額の右側から角が生えていた。リバーの言う通り、零の右上半身は、鬼そのもののと化していた。


 『忘れかけてた・・・俺がこの背中に刻んだ刺青。不動明王の刺青、そして左腕の櫻の刺青。その理由を・・・思い出したぜ。戦う理由を、てめぇを殺す理由を!!』


 ・


 ・


 ・


 ・


 ・


 二十年前。


 「こいつは、誰です?」


 一人の若い男が、ガタイの良い三十路ほどの男に問いかけた。


 「神崎の・・・子だ」


 ガタイの良い男は、口ごもった口調で答えた。


 「あの裏切り者の!?何故連れてきたんです!あいつのせいで、俺たちの組はこんに小さくなっちまったんですよ?組員も大量に消された。奴を沈めたのは良かったですけど、まだうちの連中の怒りは収まっていません!一刻も早く消さないと・・・正直に言います、俺今、あいつの子と聞いただけでもう、怒りが収まりません!!」


 男は自動拳銃を取り出し、一人の少年に向けた。


 「止めろ!!」


 「な、何故ですか狭山さん!こいつは!」


 「知っている・・・だが、よく考えろ。何故あいつは俺たちを裏切った?この子は港の倉庫に拘束されていた。それを意味する事は・・・一つだけだ」


 「・・・神崎は、この子を助ける為に組を裏切った?だとしたら、俺たちのやったことは!」


 「只の、人殺しだ。俺は、なんてことを・・・」


 狭山は、膝をついて地面を殴った。


 「いいよ別に、俺は何にも感じてないから」


 少年は口を開いた。生気の籠らない、死んだような声で狭山に語り掛けた。


 「捕まった俺が悪いんだ。俺がいたからみんな死んだ。俺を捕まえてたやつは言ってたよ。俺は死神だって、みんな俺を憎んでるんでしょ?だったら殺しなよ。もともと偶然出来た子供なんだ。生きてる価値は元から無い」


 そう言うと少年は男から無理やり拳銃を奪い、自分の頭に突き付けた。


 「なっ!?」


 男は少年の早業に成す術がなく、拳銃を奪い取られ、姿勢が固まっていた。だが、


 「止めろ、少年」


 狭山は更なる早業を持って少年から拳銃を奪い返した。


 「俺はあんたを見てからずっと後悔ばかりしていた。だが、それでは意味がないとようやく知った。この歳になって初めて考えるという事をしたよ。これは俺にとっての罰・・・少年よ、俺の組に入ってはくれないか?」


 「!?何言ってんですか!?そんなことしたらうちの連中黙ってませんよ!?それにこんな子供を組に入れるなんて!!」


 男は、狭山の思いがけない発言に苦言を呈した。


 「あぁ、いくら事実を話したところで、信用する者が多いとは限らない、むしろ混乱を招く。だが、これは俺のせめてもの罪滅ぼしだ。俺のせいでこの子を裏の社会に無理やり引きずり込んでしまった。だから俺は決めた、俺はこの子の親となる。この子の為に俺は命を捧げると決めた」


 狭山の言葉に少年も男も唖然としていた。そして狭山は少年に語り掛けた。


 「だが、決めるのは君だ少年。君にとって生きることは俺の罪を背負わせることになる。死んだ方が、かえって天国なのかもしれない。君にこんな選択しか与えられなくて済まない。生きるか、死ぬか」


 「生きるよ」


 少年は即答した。


 「俺は、生きることにする。あんたの息子として。あんたの言葉を聞いて少し考えた。あんたは言った【裏の社会に無理やり引きずり込んだ】って、俺はあんたのせいで裏社会から抜け出せなくなったって言うのなら。俺のやるべきことは、二度と俺の様な存在を生み出させない事。もし裏に落ちそうな人がいるのなら俺は鬼となってでも表を守る。生き地獄上等だ」


 「ありがとう、少年・・・本当に、済まない」


 「いいよ別に」


 「そうだ名前、まだ聞いていなかったな」


 「無いよそんなの、言ったでしょ?俺は偶然出来た子、戸籍もなければ国籍も存在しないんだ、名前すらね。強いて言えば、俺にケンカふっかけてくる奴は結構いてみんなボコボコにしてたから【名無しの喧嘩屋】とかは言われてた」


 「名無し・・・か、戸籍も何もかもが無い少年・・・そうだ、【レイ】ってのはどうだゼロと書いてレイ。ゼロは世界の基盤だ。ゼロがあるから世界は成り立っている。ゼロは世界を支える目に見えない存在、【神崎 零】どうだ?」


 「いいんじゃない?俺に丁度いい」


 ・


 ・


 ・


 ・


 ・


 現在


 『俺は生まれながら裏の人間。表など存在しない者。俺は裏を見張る番人だ。そう言い聞かせてた・・・だが、そうじゃない、俺はただ見たくねぇんだ。逃げたかった、だからガムシャラに戦っていた。俺をまた作らない為に・・・だが、逃げるのは、もうやめだ。


 俺はこの世界に来てから何かが目覚めた。そしてその何かをようやく理解できた。恐怖だ、俺の中に恐怖が目覚めた。今のままではまた失う。あの時俺が何とかしていれば、誰も傷つかなかった・・・今度こそ、失わせはしねぇ。ハチ、タマ、忠也、サナ、ルナ・・・ホシ!今度こそ傷つかせねぇ!!』


 零は、肥大化した腕を大きく後ろに引いた。


 「来る!」


 殴る瞬間を見極め、リバーは零の拳を避けた。だがその拳の風圧がリバーの腕をかすり、腕が抉れた。


 「・・・こいつは、とんでもねぇ威力だ。一旦任務は中止。これは報告しねぇと」


 リバーは、脱出を試みた。だが、スピードも跳ね上がった零の前には逃げ切る事は不可能だった。


 『逃がさねぇ!』


 更なる攻撃がリバーを襲う。


 「クソ!! 仕方ない・・・こうなったら俺も本気でやるしかないな。この場所なら誰も見ていないんだ。どんな手を使ってもコイツを殺す・・・」


 リバーはまるで別人のように、静かに零を睨んだ。


 「まさか、こんな形でソイツを制する奴が現れるなんてな」


 勢いをつけた零の拳が再びリバーを振り下ろされる。しかし、その寸前で零は後ろに飛ばされた。


 リバーは拳を前に突き出し、その拳にはまだ炎が燻ぶっていた。


 「終わりだ・・・アマナ」


 零の腹部には焦げた穴が空いていた。勝手に口から血が噴き出す。力を込めるが体が動かない。


 『ハァ・・・ハァ・・・まだ、だ。俺は、守って見せる』


 「・・・何故だ、てめぇはどうして戦い続ける。ホシの為か?出会って間もないあいつに何故そこまで肩入れする?しかも別世界の人間にだぞ?」


 『てめぇには、理解できねぇよ。俺にもまだ、理解で来てねぇんだからな・・・だが、少しは分かったんだよ。俺は出会ったあの時から、あいつに惹かれた。その理由は俺にも分からねぇ。だが理由なんてどうでもいいんだよ。今俺は、あいつをあいつの守る全てを守ると決意しただけだ!!』


 零は腹部を大きな手で押さえながら立ち上がった。


 その時、零の決意に呼応するかのようにバラバラと岩が崩れてきた。


 「ん?なんだあれは・・・」


 零たちの頭上、そこには石でできた祭壇の様な物体が姿を現した。


 『墓?』


 そして揺れと共に、零の足元に何かが落ちて、地面に突き刺さった。


 『これは、日本刀?白い刀身の・・・だが、折れてる』


 零の足元に落ちたのは、真っ白な刀身を持った一振りの日本刀だった。だがそれは、中心から真っ二つに折れていた。


 「おい、なんだそれは・・・」

 

 零はそれを拾い上げた。


 『なんだ・・・こいつは、手に吸い付くみてぇだ。これは、刀の意志?いや・・・』


 零は、ゆっくりと折れた刀をリバーに向けた。


 『分かった・・・お前の意志、確かに受け継いだぜ』


 零は刀を握り、リバーへと振り下ろした。


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