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第28話 その右腕に刻む血染めの決意

 ゾロアス邸の外の森、二人の男の戦いは普通の人間では想像できない熾烈な戦いを繰り広げていた。地面はあちこち抉れ、木々はなぎ倒され、それに加え二人の周囲はとてつもない冷気に覆われ、ゾロアス邸からその外にあるこの森には竜巻が通った後の様な傷が残されているだけだった。


 「しつけぇんだよ!!」

 「てめぇがな!!」


 零は戦いの中で新たな戦い方を試し始めていた。こっちの世界に来て出来るようになった魔法、それを試していた。だがまだあまり上手くはいかない様だ。魔法は集中力がかなりいる。この一進一退の攻防で既に数時間は経っている、とても魔法に意識は向けられない。だが、それを使わなければ勝てそうにないと零は実感している。


 零のドスは次第に刃がこぼれはじめている。格闘をメインに戦っているがリバーの魔法に使わざるを得ない状況だ。  


 (奴の使う氷、奴はそれをこの戦いに当たり前に組み込んでいる。どうやってんだ?どうやって当たり前のように攻撃に組み込める...)


 零は戦いながらも、リバーの戦い方を研究していた。そして魔法を当たり前に使うリバーと零の違いを考えていた。


 ・


 ・


 「はぁ...ぜぇ...いい加減、くたばるか、消えるかしろよ...こんなとこまで来ちまったじゃねぇか」


 更に数時間が経ち、零とリバーがいる場所はセイアン村近くの森の中にまで来てしまっていた。最初に零たちがこの世界に着いた場所の近くだ。


 「てめぇの逃げ足が遅すぎんだ...いやでも追いついちまうんだよノロマ」


 「まぁいいか、受けてる傷はあんたの方が多い。このまま戦ってりゃ先にくたばんのはあんたしかいねぇ」


 リバーの言う事は正しい。零の傷は確かに最初は素早く傷を治すことが出来ていた。だが、疲労しきったこの体では、傷を素早く治す集中力も徐々になくなってきていた。だから今もあちこち傷まみれになってしまって、正に満身創痍と呼べる状態だ。


 「ほんと、なんでそこまでして戦うのか理解できねぇな、あんた自分の命は惜しくねぇのか?あのガキ一人に全くの他人のお前がなんで戦う? 


 あ、もしかしてあいつの為か?ホシ」


 零はその名前を聞き、思わず体が反応してしまった。


 「やっぱそうか!いや、納得だぁ。やっぱある程度は読まれてたかぁ...」


 リバーは高笑いした。だがすぐその後その表情を険しくも不敵に笑った顔になった。


 「なぁ、アマナ。大方あんたの目的は、俺を捕えて真の首謀者を聞きだす魂胆だったんだろ?その為にあんたはここに来た。ホシだけじゃない、サナとルナ、あの三人を助ける為にな。


 俺たちの真の目的はあんたらが考えている通り、あの双子のガキだ。俺がこの力を手にしたのは、偶然にも俺の弟のバリーがあいつらの細胞を手に入れれていたからだ。だが成功例は俺だけ、他は全部壊れちまった」


 「あ?壊れた?てめぇら、一体何をやろうとしてんだ?」


 零はもう既に大体の予測はついた、が、肝心な首謀者がまだ分からない。いい気になって喋っているリバーの話を聞くことにした。


 「魔法族の血ってのはな、普通の人間に輸血すると数分から数十分の間その魔法を使えるようになるが、その後は血液が不安定になって血管が膨張して内側から血管が破裂しちまう。


 俺たちはその力を安定させることは出来ないか考えていた。それで実験を繰り返したのさ。そしてようやくある結論に行き付いたんだよ。それがあの双子だ。


 超神経解放つってな。ナナ族の魔法の一つだ。ありとあらゆる神経を強制的に研ぎ澄ました状態にする魔法。魔法ってのは精神に大きく作用してな、ブレが大きいとまともに魔法は出せねぇ。安定して魔法を扱うには精神状態の安定だ、普通の魔法族の血を輸血された者はこぞって好戦的になったりしてその精神は強制的にブレた状態になる。


 だがあの双子の魔法を使えば精神は安定する。研ぎ澄まされた神経の究極、無心の状態。それが今の俺だ」


 零はこの時ある事を思いついた。そして実戦に移そうと考える。だが、まだ動きはしない。このまま喋らせればきっと言うはずと考え、じっと留まった。


 「だが、あの魔法を手に入れるのはちょっと難しくてなぁ。あのガキを強引に奪ってその血を使っても意味はねぇ。だからこそのホシがいたんだよ。ホシの奴をあのガキどもは慕っている。あいつの為なら自分の命だって張る、俺たちの調べではそうすると信じてる...」


 リバーが突然、話を一旦止めた。そして突然笑い出した。


 「そうだよ...あいつはお前の事を信じてるんだ、ははは、なぁアマナ、今日ゾロアス邸に行ってある事に気が付かなかったかぁ?


 昨日までいたはずなんだけどなぁ、あそこには明日の為にもう一つの家が来てたんだよ。そういや今朝からどこかに行くって言ってたっけなぁ。確か場所は...」


 零はリバーが言葉を言い終える前に前に踏み込んで逆手に持ったドスを突きおろしていた。


 「これ以上はもう言う必要はねぇぜ、ありがとよ、おかげで全部繋がったぜ」


 そしてその後更に一歩踏み込んだ。


 「ん!?」

 

 突然リバーが上空へと放り出された。と言うよりリバーの足元の地面が突き出し上に押し上げたのだ。


 「今のは、土の魔法?聞いてねぇぞ、アマナは只の人間のはずだ...」


 リバーは上空で体勢を立て直し、距離を取って着地した。


 「成程、精神の安定か...どうりでうまくいかない訳だ。俺は戦うときは結構熱くなって戦うタイプだからな、逆をしてたんじゃ使えるはずもねぇわな...」


 更に零は踏み出した。その地面から槍の様に岩がつきだし共にリバーの元へと飛んでいった。


 「っ!!」


 リバーに喋る隙は与えない。攻撃をしつつ今度は零がしゃべり続けた。


 「サナとルナの魔法、そしてさっき話してた輸血、魔法が使える奴の血を輸血するって事はそれはかなり危険だって事は分かった。てめぇらはそれを利用するつもりだな?その為にホシがいた。


 てめぇらはホシに魔法が使える奴の血を輸血する、サナとルナはそれを助ける為に協力せざるを得ない状況になる。てめぇの言う通り、サナとルナはホシの事を本当の親の様に慕っていた。あいつ等は恐らく協力するぜ。そうなれば、てめぇらの目的は達成だ。違うか?」

 

 「っはは、大正解だ!そんでもって冥土の土産に持っていきな、それの計画を考案、実行に移した人物は!!」


 零は既に真の首謀者は誰なのか、もう完全に答えは出ていた。


 『ゲイル ウィングだ!!』


 2人がその名前を同時に叫んだ瞬間に、零は踏み込んだ足でリバーの腹に強力な岩の一撃をかまし、少しよろけたところで顔面を殴り飛ばし、後ろに飛んだリバーの腹にドスを突き立て押し倒し、止めに抜いたドスを喉に突き刺した。


 「いい加減くたばりやがれ、クズ野郎」


 立ち上がった零は、リバーを眺める、動く様子はない。零はよろめきながら歩きだした。


 ・


 ・


 「...やっぱ、死なねぇのか。けど、死んだふりするって事は、奇襲攻撃をしないと勝てないと見込んでか?何しても死なないてめぇがか?分かったぜ、てめぇも死ぬときは死ぬって事か」


 「ふっふふは、確かにそうだ。俺はまだ完全な不老不死じゃない。俺にも弱点はある。だが、あのガキどもが手に入れば、それは完全になくなる。


 けどな、てめぇのそのなまったるい攻撃じゃぁ俺は死なねぇんだよ。いくら魔法が使えるようになっていたとしても、俺の魔法の足元にも及ばない。てめぇじゃ俺を殺す事は不可能なんだよ!!」


 リバーが一瞬で作り出した氷の槍が零の腹部を貫いた。


 突き刺さった槍を零は抜く、血反吐が出る。傷の治りが異常に遅くなっている。連続でまだ慣れない魔法を駆使した戦いをしたせいで、零の体は限界まで来ていた。


 (ちっ...腹が立つな。精神面もまともに鍛えられてねぇ、チュウちゃんどころかタマにも劣る幼い精神の野郎に、俺がここまでやられるなんて。奴の体は人間を超えた。それに対抗するには俺も人間を超えなきゃいけねぇ。だがどうやってやるか...仕方ねぇ、俺はこの世界の人間じゃねぇ。別の世界の人間だ。俺は俺のやり方で()()()()()()()を超える事にするか、こっちの世界には無いアレを使う)


 零はおもむろにリバーを背に走り出した。


 「ん?逃げるのか?いや、誘ってんのか。いいぜ別に、てめぇはゲイル様から要注意人物って言われてたし、弟の敵って名目もあるからな、最初に言った通り、てめぇを首だけにしてホシたちの元に晒してやるよ」



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