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第22話 本物と偽物の暗殺者

 ゾロアス邸


 「ねぇルーアン。死んだ後の世界ってどんなのかしらね」


 「さぁな、興味がない」


 「ふ~ん、暗殺者さんなのに自分が殺されることって考えたりしないの?」


 「考えているさ、常にな。だからこそ死というものに興味がないんだ。それよりもマリリン、話ってのは何だ?」


 ゾロアス家の屋敷の一室、マリリン ゾロアスの自室に青薔薇はマリリンと二人話をしていた。


 「噂で聞いたんだけど、あなたを語る人物がいるって聞いて」


 「その話か・・・随分と無粋な輩がいるってだけだ。計画に支障は出さない。絶対にだ。お前は明日のリハーサルでもしたらどうだ?まぁ、殺されるためのリハーサルだがな」


 「そうね、でも意外と楽しいわよ?どんなふうに死んだ姿を見せつけるか考えるのって」


 マリリンは明日殺されるというのにその表情は健やかな明るい笑顔だった。


 「自殺をこんなポジティブに考えられる奴はそういない、変わってるなあんた」

 

 「変わっててもいい、これが本当の私なんだから。


 子供は親の栄光の為に動く道具。それが当たり前と思ってる貴族は人間ですらないもの、それこそ只のお人形さん。人形ってさ壊すときって異様に興奮しない?」


 「前言撤回。お前は変わってるってより、狂ってんだな。俺はお前が若干怖いって感じた」


 「仕方ないわ。狂わせたのは貴族の大人なのだから」


 「そうか、では俺はそろそろ行くぞ。お前の執事が近づいてきている」


 「そう、じゃあ明日お願いね」


 青薔薇はその場から姿を消した。





 「お嬢様、お父様がお呼びですよ」


 「ありがとうシャロウ、今行きますわ」


 マリリンは普段通りの、みんなが知るマリリンになり準備した。

  

 ・


 ・

 

 ・


 「ケネス、偽物の情報は掴んだか?」


 「いや、存在はするってところまでは突き止めたんだけど。誰なのかサッパリ。でも凄いよね、君の名を語るなんてさ。ここから予測できるのは偽物も氷の魔法を使うであろうって事ぐらいかな?青薔薇の名前を使う位だ。用心したほうがいいと思うよ」


 青薔薇はケネスに偽物の情報を探させていた、彼も偽物の存在に気が付き警戒していた。青薔薇は自分の名を語る存在を突き止める事と、依頼の筋書きを絶対に崩させない彼の誇りに賭けてマリリンの近くに常にいる事にしている。今も天井の裏から彼女を見張っている。


 「単なる殺しの依頼だったんだがな、いつの間にか国家ぐるみの事件になっている」


 「全く誰だろうね、青薔薇を駒に使うなんてさ。こっちとしても腹立たしいよ」


 「同感だケネス。俺たちを駒に使った事を後悔させてやる」


 青薔薇は細心の注意払い、マリリンとその周囲の動向を伺った。


 ・


 ・


 ・


 ・


 ・


 零たちは今、ゾロアス家に向かう馬車の中にいた。


 「ところでさっきから思ってたんですけどアレックスさんは?後で来るって言ってましたけど」


 タマはアレックスがいない事に疑問を持ち、スチュワートに質問した。


 「あいつか?あいつだったら後ろに居んぜ、あいつ自慢好きだかんな、見せたいんだろうよ」


 タマが後ろを振り返ると丸い電灯が左右に付き、今乗ってる馬車の様な箱に大きなタイヤが付いた大正時代の自動車のような物が後ろを走っていた。そこの中にアレックスがは乗って、大きなハンドルを握っている。


 「あれ、自分で運転するんだ・・・あの人運転手とか雇わないの?というか懐かしい車だなぁ」


 「あのじじい、『自動車が完成したから今度どっかで試走がてら走らせよ~』とか言ってたんだよな、今やるのかよって話だ」


 スチュワートも、タマも若干苦笑いだった。


 零たち一行は予定より早いが、パーティの行われるゾロアス家の邸宅にたどり着いた。着いたと同時にシャロウとゾロアス家の執事とメイドが迎えに現れた。


 「ようこそおいで下さいました王子、ゾロアス家一同お待ちしておりました。こちらへ」


 「やぁどうもシャロウ君。予定を早めてしまって申し訳ない」


 「いえ、現状が現状ですから・・・それより、シャイニー様と主がお話したいとの事ですが、お時間よろしかったでしょうか?」


 「うん問題ない。人の家に来たら挨拶はしないといけないからね」


 一行はシャロウに案内され、邸内へと入っていった。


 


 「うわ~広~・・・」


 迷いそうなほどの巨大な庭を抜け、その奥にある屋敷に入った。中に入ると大きなシャンデリアが一際目に付くロビーに着いた。


 「ここで大声出したらこだましそうですね~アニキ~」


 「タマお前、やんじゃねぇぞ?」


 「やりませんよ、信用無いですね」


 タマは口をプクーっと膨らませていた。


 「近くにいる・・・」


 「ん?何か言いました?」


 小声で零は呟き、シャロウは聞き返した。


 「いや、なんも」


 「はぁ・・・それより、この先で主がお待ちしております。王子、それにアマナさんと付き添いの方もどうぞ、私はここにおりますので」


 シャロウは中にある一際大きな扉を開けた。


 一行は中に入ると、パーティの準備が整った体育館が2つ以上入りそうな大広間の中心に、2人の男性と1人の女の子がいた。


 男性の1人はシャイニー ゾロアスだ。そしてもう一人は、


 「アングラ ゾロアス様、お久しぶりですね」


 「アレックス王子こそ、随分ご立派になられまして、本当にお久しぶりです」


 白髪が似合い、ひげも綺麗に整えた男性、この男がゾロアス邸の現在の主、シャイニー ゾロアスの父のアングラ ゾロアスだ。


 「他の皆様もようこそおいで下さいました。シャイニーからこの間の事は聞いております。この間はお騒がせして申し訳ありませんでした」


 アングラとシャイニー、そして隣の女の子は同時に頭を下げた。


 女の子は顔を上げるとついこの間知り合った男の子と目が合った。忠也だ。この女の子はマリリン ゾロアスだ。


 だが、忠也が以前あった時の様なハツラツさは無く、淑やかに上品に佇んでいた。


 忠也はマリリンと目が合ったことで笑顔を向けた、その時マリリンは一瞬顔が綻んだが、すぐに澄ました上品な顔に戻った。


 「あなたがアマナ様ですか、初めまして、ゾロアス家の主を務めておりますアングラ ゾロアスでございます。以後お見知りおきを」


 「アマナだ、こちらこそよろしく」


 零とアングラは互いに握手を交わした。 


 少しシャイニーやアングラと会話をした後、部屋に案内された。


 「アマナ様は本日こちらの部屋をお使いください」


 零はシャロウに部屋を案内された。どうやら一人一人部屋を用意してくれたらしい、忠也も個室をもらっていた。なんでもここのメイドが面倒を見るらしい。


 「にしてもアマナさん、個人で行動するとは言っておりましたが、まさか王子を呼ぶとは思いませんでした。でもこれで青薔薇も簡単には行動できなくなりますね。凄いです」


 シャロウは素直に称賛していた。


 「シャロウ、お前たちの調べはどこまで行ってる?」


 「昨日以降それほど進展はありません、強いて言えば偽物の青薔薇がいる可能性があるって事ぐらいですかね?」


 「ほぼ同じか・・・俺たちがここに来たのはその偽物を捕える為だ。俺たちの見解では偽物は存在していると踏んでいる。だが本物も行動している、その2人を捕えなきゃいけねぇんだ」


 零はとりあえず自分が今知っている事と予測をシャロウに伝えた。


 「しかし、青薔薇を名乗るぐらいならそれ相応の実力者である事は明確、青薔薇はそれほどの人物なんですよ、名前が強さと言うのですかね。けど一体誰が?この世界に彼と肩を並べる事が出来るの奴なんて想像もつかない」


 零はこの時シャロウが何気なく言った言葉である仮定に行き付いた。


 「まさか・・・偽物は、この世界に存在しなかった?」


 「何か言いました?」


 「いや・・・なんでもねぇ」


 シャロウはもう少し突っ込んでみようと考えたが、零の表情を見てそれを止めた。


 「では私は失礼いたします。今日はごゆっくり」


 「あぁ」


 シャロウは零の部屋を出た。


 ・


 ・


 ・


 ・


 ・


 ゾロアス邸近くの某所。


 「準備は出来ているか?」


 「あぁ、俺が手にしたこの力で我々の未来は開かれる」


 「しかし、こうも上手くいくとはな思わなかったな。弟も失敗して、他も全部実験に失敗したのにお前だけは成功した。天は我に味方したようだ。これで後はあの双子を手に入れる事が出来れば・・・」


 「完全な魔法を、第八の魔法を完成させることが出来る、その力があれば・・・」


 「そうだ、この世界の全てを支配することが出来る。明日はお前の力の実験だ、よろしく頼むよリバー・・・いや、もうアオバラと呼ぶべきかな?」


 「あぁ・・・俺は青薔薇、世界最強の殺し屋だ、今いる青薔薇は偽物だ・・・俺が、本物だ」


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