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第20話 家族旅行な初デート

 朝になった。


 「あら、随分お早いお目覚めなのですねアマナさん」


 「あんたの方こそ、まだ5時前だぜ」


 「年寄りは早起きしてしまうものです」


 朝5時前、零とエリザベートは先に起きて、ホテルの最上階であるこの部屋から外を見ていた。


 「青薔薇・・・お前も気が付いているのか?」


 「何かおっしゃいました?」


 「いや、なんでもねぇ」


 零がボソッとつぶやいた一言をエリザベートは聞き返したが、特に詳しく詰め寄ろうとはしなかった。


 「・・・どうか、お気を付けて」


 「ん?」


 「なんでもありません」


 エリザベートも小さな声で呟いた。その言葉に零は聞き返すことはしなかった。




 時間が過ぎ、ホシが起床して子どもたちを起こし始めた。


 「サナ、ルナ!起きなさいよ!」


 「むにゃむにゃむにゃ」

 「ふにゃ、ふにゃ」


 忠也も目を覚ました。昨日まではサラサラの綺麗な髪だったのに、一気に元のボサボサの髪の毛に戻っていた。


 「あらら・・・戻ってしまったのですか」


 「あれ、ほんとだー。まぁいいやー」


 「くぅわ~~・・・アニキ、おはようございます~」


 寝ぼけ眼でタマも起きたが、彼は起きたと言えるのだろうか。フラフラしながら洗面台に歩き、その途中でも若干寝ている時間がある。


 「タマ、お前は昔から他人の家だろうが遠慮はしない性格なのは知っているが、一国のお姫様の前でそれはやめろ。恥ずかしいだろうが」


 「あ~?あるはずのお菓子?俺知りませんよハチさん」


 駄目だ、完全に寝ぼけている。


 一方ハチはしっかりと身支度を整え、更には寝ていたベッドも綺麗に整頓されていた。


 「やぁおはようアマナ君、ところで今日はどこかに行くところがあるのかい?」


 「ん?昨日あのスチュワートって奴がもう一度会おうって言ってたな」


 アレックスは既にきっちりとスーツに着替え、寝起きとは思えないほどサッパリとした笑顔で出迎えた。


 「そうですか、ならば一緒に行きましょう。私もスチュワートに用事がありますので、でも昼過ぎまでは王子としての仕事がありますので、それまではエリザベートと一緒にここを観光なさって下さい」


 「そうか、だがこの町、何か見るところってあるのか?ここには詳しくねぇんだ」


 「ん~、言われてみれば特にないな。この町は物流の拠点だから、荷馬車の往来とかしかないんだよね。後は、蒸気機関車かな?でも、私は好きだけど女性にとってはどうなんだろう、言ってしまえば鉄の塊だからね」


 「あ、それうち見てみたいんだけど、ここに旅行に来た理由はそれが見たいが為なんだよね。一回生で走ってるの見たかったんだ」


 ホシが旅行先にここを選んだ理由は、零たちの為でもあるが、ただ純粋にセイアン村にはない蒸気機関車を一回見てみたかったからだ。


 「きしゃ!きしゃ!きしゃ!」

 「みたい!みたい!」


 サナとルナも行きたいようだ。


 「あ、そうなんですか、それはよかった。吐き出す煙に耳が痛くなる程大きな汽笛、そして何より走り出すときのあの音、たまらないですよ」


 ホシが機関車を見たいと言った直後からアレックスは、少し前のめりで語りだした。その姿は一国の王子というより・・・


 「なんだか、会社の役員みたいに見えてきましたね」


 「むしろ、将来は社長やってそうだな」


 零たちには、この様に見えた。


 アレックスの語りに、ホシはノリノリで聞いていたが、流石にサナとルナは飽きてエリザベートの元で一緒に遊んでいた。


 「じゃあ私は行ってくるよ、アマナ君たちもどうか好きに見て回ってくれ。ではまた後で」


 アレックスはそう言って先にホテルを出て、ここでの仕事に入った。


 「ホシ様、わたくしも暇ですから、ご一緒させて頂けますか?」


 「ん?良いですよ。アレックス王子にも言われてますしね。でもそれこそお姫様が機関車見たってなにかありますか?見慣れているでしょう?」


 「ただ皆さんと一緒に見て回りたい、それだけじゃ駄目ですか?」


 「ん、あぁうん」


 エリザベートは見かけによらず、年相応の雰囲気だ。ホシは今はいない祖母を何となく思い出した。


 「じゃあ俺たちもそろそろ行くぜ、準備は出来て・・・るみたいだな」


 零が自分の荷物を持つ前にホシとサナとルナはもう準備万端だった。むしろ零が遅いと言っているみたいだ。


 『しゅっぱーつ!!』


 サナとルナが真っ先に駆け出した。後ろから零たちは続く。その更に後ろでエリザベートの護衛たちが付いた。


 


 こうして一行は、西之境にしのさかい貨物駅と呼ばれる貨物ターミナルに着いた。


 そこにはコンテナを乗せた貨車が大量にあり、ごちゃごちゃと重なったポイントから様々な方面へと線路が伸びている。そしてその線路を通り、蒸気機関車はゆっくりと貨物を運んでターミナルに入って来た。


 「コレ!コレが見たかったんだよ!この、なんというかガチャガチャした感じのこの感じ!分かる!?アマナ!?」


 ホシは興奮気味に目を輝かせて零に絡んでいた。


 「ホシ、こういうの好きなんだ」


 タマは少し引き気味だ。


 「兄貴?」


 零が全く喋らないことに違和感を感じたハチが零に質問した。すると。


 「感動した・・・」


 「はい?」


 「ハチ、分かってんのか?蒸気機関車だぞ?それがこんなに大量に・・・俺たちの世界じゃ世界中探してもこんなに一斉に動いてるところなんて見られねぇんだぜ?」


 「ア・・・アニキ?どないしたん?目、輝いてまっせ?」


 普段見る事のない零の興奮した表情にタマは訛ってしまった。


 零は幼少の頃、頭の狭山と一緒に一度だけ蒸気機関車に乗ったことがあった。それ以降乗る事はなかったがその時の興奮が今でも心のうちに渦巻いており、今、再び出会ったことでその時の感情が解放されてしまったのだ。


 「ホシ、ここに来て正直正解だったな・・・最高だ」


 「でしょ!?あ!あれ出発するよ!!」


 ホシは出発間近の汽車の近くにサナとルナと共に走っていった。


 零も並走していた。


 「おい何やってる!行っちまうだろうが!」


 零はハチたちを急かしたが、それの意味はなく待たずにホシたちと共に走っていった。


 「・・・アニキには趣味がないって思ってましたけど・・・アレかなりのマニアですよハチさん」

 

 「あぁ。兄貴との付き合いは長いが、こんな趣味があったとは知らなかったな・・・」


 「ひとはみかけによらないって言うのかな?これー」


 「子供みたいで可愛らしいですね」


 この4人は、ゆっくりと先を走る零にそれぞれ感想を言いながら追いかけた。


 【ド・ド・ド・ド・・・・】


 汽車は心臓に直接響く程大きい排気音をリズミカルに出しながら貨物を引っ張りゆっくり出発した。


 「うをー!スゲー!この音サイコーだー!!」


 「うごいた!うごいた!うごいた!」

 「すごい!すごい!」


 「しかも4重連じゃねぇか!!」


 こちらもそれぞれが感想を言っているが、恐らく誰が何を言ってるのか聞こえてはいないだろう。だが、 謎の一体感がそこにはあった。


 「ついてけませんわ・・・」


 タマの訛ったツッコミもかき消された。


 「出発してからの・・・」


 『連結器のこの音、そしてこのジョイント音!!』

 

 「いいよねーこの音」


 「だよな、この何とも言えないこの音。ホシ、分かってんな」


 「アマナこそ」


 マニアックすぎる二人のやり取りに、タマやハチ、忠也はおろかサナとルナも少し引いていた。

 

 「二人ともマニアだ」

 「マニア!マニア!」


 


 「俺としたことが・・・はしゃぎすぎたな。だがいいものは見れた」


 「うちもさ。久しぶりに大はしゃぎしちゃったよ。あ~なんだか喉乾いてきたな」


 ようやく2人は落ち付いた。


 「では、そこの喫茶店で休みましょうか。そこで休憩してからアレックスの元に行きましょ?」


 エリザベートの提案で、一行は喫茶店に向かった。


 「いらっさーい・・・って、エリザベート姫!?」

 

 入ったら案の定の反応だった。


 「八人ですが、お席空いていらっしゃいますか?」


 「いや、この時間いつもガラガラなんで・・・お好きにどうぞ・・・」


 適当に席に着いた。店の人が水を持ってきた。


 「ご、ご注文は、後ほどで?」


 「みなさんはお決まりになられました?」


 「アイスコーヒー」

 「俺もだ」

 「アニキ俺も」

 「あ、うちもそれで」

 『リンゴジュース!!』

 「うーんと、牛乳ちょーだい?」

 「ではわたくしもアイスコーヒーで」


 一斉に注文した。


 「アイスコーヒー五つにリンゴジュースが二つ、アイスミルクが一つですね・・・かしこ、まりました」


 注文を終え、ようやく一息が付ける。


 「あの、昨日からお尋ねしたかったのですが、ホシ様はアマナ様とご結婚なされているのですか?」


 『ブッフーーーー!!』


 2人同時に水を噴き出した。


 見事なまでにタマにだけ命中した。と言うのもハチが噴き出す瞬間にタマを引っ張ったからだ。


 「なにすんのハチさぁん・・・」


 「みんなにかかったら迷惑だろ。俺も嫌だったから、お前しかいないだろ」


 この会話とほぼ同時に2人は反論した。


 「い、いやいや!!それは無いですよ!!冗談言わないで下さいよ姫様~。アマナの事なんてこれっぽっちも何とも思ってなかったんだからさ」


 「大体俺とホシは一昨日出会ったばかりなんだぜ。そんな訳ねぇよ」


 「だよねー!この前偶然会っただけだの初対面の人ですよ」


 ホシは零の反論に相槌をうった。


 「あら?アマナ様とは昔からのお知り合いだったのでは?」


 「あ・・・」


 ホシは口を滑らした。今の発言は零はアマナではないと言っているようなものだ。


 「お、俺は記憶がねぇからな。ホシの顔を見ても何も思い出せねぇんだ。だから初対面からやり直そうってな」


 「お、おう、そんな感じなんだよ」


 ホシは今度は口を滑らせないように零の必死のフォローにただただ頷くだけだった。


 「ウフフ、冗談半分だったのですが、むしろ息ピッタリで逆に驚きました」


 零は少し焦ってしまった。だからエリザベートのボケを簡単に受け流せなかった。


 「エリザベートさん、天性のドSですね」


 「アレックスさんも、あれにやられているみたいだったしな」


 ハチとタマは矛先が今度は自分に向くのではと少し警戒していた。


 


 「お待たせしました。アイスコーヒー五つに、リンゴジュースが二つ、アイスミルクがお一つ、以上でよろしかったでしょうか?」


 「問題ありません、ご苦労様です」


 「では、ごゆっくりどうぞ」


 飲み物が運ばれてきた。みんなそれぞれのペースで飲む、ホシと零は目を合わせずに一気に飲み干した。


 「ふぅ・・・落ち着いた」

 

 この動作、再び息の合った動きをしていた。それを見たエリザベートはまたクスクスと優しく笑っていた。

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