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第19話 旅行と言ったら、夜はトランプ

 「お風呂上がりましたよアレックス。お次どうぞ」

 

 「分かった。あ、そうだエリザベート、私たちには付き添いはいらないからね?」


 「そうなの、分かりました。言っておきますね」


 エリザベートとすれ違いざまに零たちはアレックスに案内され風呂場へと向かった。


 「タマ兄、お風呂すごく広かったー」


 「へぇそうだったの良かったねー・・・って誰!?」


 忠也に話しかけられたと思ったら、そこには少し小汚い彼はいなかった。一瞬女性と見間違えるほどの綺麗な髪を持った、上品なオーラを纏う少年がそこにいたのだ。


 「ん?おれだよ、タマ兄」


 「チュウちゃん!?全く分からなかった・・・」


 「チュウヤさん、少し髪が傷んでいたので、整えておいたのです、何か、問題でもありました?」


 その直後にエリザベートが経緯を説明してくれた。


 「いや・・・別に問題はないですが、別人に見えたから驚いて・・・」


 「そうですか。正直わたくしもここまでなるとは思いませんでした、わたくしがやっておいて何なのですが・・・」


 忠也の変貌っぷりは、エリザベートですら驚きを隠せないようだった。

 

 一方その肝心な忠也は、


 「あのさ、タマ兄たちが出てきたらトランプあったでしょ?それやろー」


 楽しそうにトランプの準備を始めていた。


 「あぁ・・・出来るだけ早く出るよ」


 「待ってるだけだからゆっくりでいいよー」




 零たちとアレックスは、浴場に向かった。


 「広いな・・・」


 感想はそれだけだった。ストイックな男どもの入浴の会話はこれ位だろう。


 零たちは風呂から出た。




 


 部屋に戻ると、忠也がトランプを広げて何やら遊んでいた。


 「おれフルハウス」

 

 『ツーペア!!』


 「なんもなし・・・ブタだよ・・・」


 「えっと、これは揃っているのでしょうか?」


 どうやら、ポーカーをやっている様だ。


 「チュウちゃん?ポーカーのルール知ってるの?」


 「あ、タマ兄戻って来た。知ってるよー、これってあれだよね、バレないように役を揃えるんだよね」


 「それイカサマだよ・・・むしろイカサマの仕方も知ってるのかよ・・・」


 「まぁねー、でも今は特に何もしてないよ。あ、そうだタマ兄、エリザベートおねぇちゃんの役は何だった?」


 タマは首を傾げているエリザベートの五枚のカードを見た。


 「スペードのスペードの10に?・・・スペードのジャック、スペードのクイーン、スペードのキング・・・スペード エース」


 「あ・・・」


 忠也も、タマも、それどころか後ろの零とハチも声を揃えた。


 『ロイヤル・・・ストレートフラッシュ!?』


 一同声を揃えた。


 「す、すごいのですか?」


 「すごいもんじゃないよー、さすがお姫様だねー、これはね、このゲームで一番強い奴なの。それこそいかさましないと出せない役だよー」


 『あーまけたー!』


 「うちなんて役無し・・・」


 一同は特に賭けをしないポーカーで大盛り上がりだった。


 「次はあにきたちもやろー。いかさまありでいいよー」


 忠也の言葉でハチが少し火が付いた。


 「チュウちゃん、使っているトランプは確かあの車から持ってきたんだったね」


 「そーだよー」


 「いいだろう、チュウちゃんさっきイカサマは可能だと言うような事を言ったな、俺と勝負するか?」


 「うん、いいよー」


 二回戦目、イカサマありのポーカー対決が始まった。


 「んじゃさ、おれトイレ行ってくるねー、すぐに戻るよー」


 「俺は少し手を洗ってくる」




 「・・・なんだか、変な対決が始まりましたねアニキ・・・」


 「ハチは昔イカサマカジノにいたからな。腕は相当だと思うぜ、だが、チュウちゃんも何をするのか気になるな・・・タマ、お前は普通に参加しろ、俺は見ていることにする」


 「あれ・・・アニキ、なんだかノリノリじゃないですか」


 零は二人の対決が気になったので傍観者になる事にした。少しして二人は戻って来た。


 「じゃあさっき勝ったエリザベートおねぇちゃんがカードを切ってねー」


 「はい、よいしょ・・・あららら」


 エリザベートはカードをぶちまけた。慣れていないのだ、仕方がない。忠也とみんなでカードを集めた。


 「上手に出来ませんね・・・チュウヤさん、お願いできますか?」


 「うーん、分かったー」


 今度は忠也がカードを切った。見事な手さばきだ。


 「どこで教わった?」


 「おとーさんがよく行ってた所でみてたの」


 忠也はそのままカードを5枚ずつ素早く全員に渡した。


 ハチは手元を見る、8のワンペア。そのハチの元に零が後ろから声をかけた。


 「動いたか?」


 「いや・・・分からない、だが恐らく今は5のスリーカードが行ってるはずだ」


 カードの交換が始まった。


 「これかけるものがないからベットとかレイズとかは無しねー、カードの交換は2回までだよー、じゃまずおれ2枚ね」


 ハチはこの2枚を考えた。それと同時に自分も行動開始だ。


 「2枚という事は、初心者なら絶対にフルハウス狙いで行くはず・・・」


 「見てこようか?俺は傍観者だ、隙を突いて見る事は出来るぜ」


 「・・・まさか、子どもに怯える事が来るとは・・・お願いできますか?」


 零とハチはタッグを組んだ。そしてハチもカードを交換した。


 「とりあえず4枚だ」


 回って2回目の交換。


 「役は?」


 「予想通り、5のスリーカードのままだ。お前は?」


 零はハチの手札を見た。8、9、10、ジャックのダイヤ、そしてジャックのクローバーでワンペアだ。


 「一枚交換です」


 ハチは事もあろうにジャックのクローバーを手放した。そして手元に来たのは、


 「スペードの10か・・・おいハチ、いつやるんだ?おれはイカサマは詳しくねぇが・・・」


 零はほんの一瞬気を逸らしただけだった。だが来たカードは確実にスペードの10だったのは間違いない、しかし今の手札は8、9、10、ジャック、クイーンのダイヤ。ストレート フラッシュだ。


 「いつの間に」


 「さっきの間にです、というかこうなるように仕向けておきました、ところでチュウちゃんはどうですか?おそらく役は、フルハウスです。そう来るように仕掛けました」


 零は再び忠也の手札を確認した。


 「言った通りだ。5が3枚、2が2枚のフルハウスだ」


 「では、勝ちですね・・・なんか変な気がするな・・・チュウちゃんは、いつ仕掛ける?もうチャンスは無いはずだが・・・」


 ハチは妙な感覚を味わいながらも全員が交換を終えた。


 「じゃあ出してー」


 全員が一斉に手札を出した。まずはホシ。


 「す、二のスリーカードだ!」


 次、サナとルナ


 『ゴ!ロク!ナナ!ハチ!キュウ!』

 「これってなに?」

 「わかんない」


 ストレートだ。ホシはこの時点でサナとルナに負けている。

 

 次はタマ。


 「フラッシュだ!」


 そしてハチの手札は


 「8、9、10、ジャック、クイーンのダイヤ、ストレートフラッシュ」


 そして今度は、忠也の番だったが、少し頭を抱えていた。


 「あー、間違えちゃった。おれこれ」


 忠也の手札にハチと零は口をあんぐり開けざるを得なかった。


 「8、9、10、ジャック、クイーンのハートのストレートフラッシュ・・・」


 「まさか、さっきまでフルハウスのはずじゃ!?どこで変えた!?」


 「それは秘密ー、本当だったらマークを入れ替えるつもりだったんだけどさ、間違えちゃった。これハチ兄の勝ちだねー」


 ハートの役よりダイヤの役の方が強いので、確かにハチの勝ちだが、忠也の言葉が正しいのなら、ハチの手札は既に読まれていたという事になる。忠也のドジがなければ負けていたのはハチだ。


 「正直、ここまでやられるとは思わなかった。そう言えば昨日もバリーから気が付かれずに当たり前の様に鍵を盗んでいたな・・・それもこのやり口か?」


 「あ、あれね、あれはもうちょっと単純だよー。普通に取ったもん、けどこれは難しかったなー。ハチ兄全然隙が見えないんだもの」


 ハチは敗北感と共に、満足感を得た。まさかイカサマで自分を超えられるとは思いもしなかった、しかもそれを実現したのはまだ10歳にも満たない子供にだ。それでも、自身の全力を持って挑めたこの勝負にはとても満足したのだった。


 彼女の手札を見るまでは・・・


 「あのこれ、先ほどと同じですが、今度はハートマークですけど・・・」


 エリザベートの手札、ハートのロイヤルストレートフラッシュだ。彼女はイカサマまど一切していない。天性の運の持ち主なだけだ。流石の忠也もハチも二度もこの役を揃えるとは思いもしなかった。


 勝者、エリザベート アダムス。




 その後はみんなで純粋にババ抜きをしたりして盛り上がっていた。


 「さて、もう就寝時間ですね。そろそろお休みになりましょう」


 「だね、アマナ君たち随分と面白いゲームを知ってるんだね。私も久しぶりに熱くなっちゃったよ、また今度もやろう」


 トランプのゲームはこの世界にはまだ無い、アレックスたちにはいい刺激になったようだ。


 こうして零たちは眠りについた。

 

 ・


 ・


 ・


 ・


 ・


 「なぁ、青薔薇、本当にやるのか?この依頼なんだかおかしいぞ?」


 「ケネス、俺はもうやると決めたんだ。それに言っただろ?任務は難しければ難しい程俺は燃える性格なんだ。ゾロアスやウィングが、王族が何を企んでいようとも関係ない。俺は彼女の意志に応えるつもりだ」


 「そう・・・か。だったら、行動開始はいつだい?」


 「明日は会場へと向かう。今日のうちに下見は終わらせた。そしてその前にもう一度標的に、マリリンに会う。打ち合わせがしたいんだとさ」


 「成程ね、じゃあ明日に備えて英気を養わないとね」


 「あぁ、明日からは忙しいぞケネス。それにしても、俺を利用しようとしているのは、どこのどいつだ?」


 「さぁ、只言えるのは、貴族の暗殺では済まされない事だけは分かる」


 「だな、細心の注意を払って行こう。ではおやすみ、ケネス」


 「おやすみなさい、青薔薇」


 明日へ向けて、安らかな夜がゆっくりとこの空の下にいる者たちを包んでいた・・・

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