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第1話 偶然の出会い

 零たちの周囲には人工物は全く無い。聞こえるのは川のせせらぎと小鳥のさえずりぐらいだった。


 「どこなんだ?ここは・・・」


 ハチが立ち上がって周囲を見渡す。


 『ぐりゅるるるるるる~~~~~・・・』


 突然、何かの唸り声のような音が響いた。得体のしれない音に零たちは周囲に警戒した。


 「今の音は・・・」


 「近くのようなって・・・ん?」


 タマは忠也が顔を赤くしてうつむいているのを見て、ある予想にたどり着いた。


 「ねぇ、今のって・・・」


 「ごめんなさぃ・・・おれのおなかの音・・・タマお兄さんが無事で安心して・・・」


 音の正体は、忠也の腹の虫だった。その事で零は警戒を解いた。


 「そういう事か・・・ハチ、ナビは使えるか?」


 ハチはすぐさま運転席に戻り、エンジンをかけてナビを起動しようとする。しかし


 「くそ・・・エンジンがかからねぇ。駄目です兄貴、この車完全に壊れてます」


 「そうか、動かせれば今の場所も分かるだろうし、なにか食べれるところでも探せたんだがな・・・他の手を考えるか」


 零はどうしようか悩んでいた。そんな中、タマが何やら機械らしきものをいじっているのを見つけた。


 「タマ、何やってんだ?」


 「う~ん、俺のスマホで位置検索をしようと思ってたんですけど、全く反応しないんですよ。地図も読み込まないし、完全に圏外みたいですねここ」


 タマはスマホを使って場所を特定しようとしたが、それでもやはり自分たちがどこにいるのかは分からなかった。それより零は、タマの使っている物が気になった。


 「それは分かったが、だけどタマ、その機械はなんだ?ケータイか?」


 零はあまりテレビをじっくりと見る事がないせいか、流行には疎い。その為時代遅れと組員から言われることがある。


 「え、あ、これ?スマートフォンですよアニキ、最近はもうガラケーじゃなくてこのスマホの方が主流ですよ?え、まさか、知らない?」


 タマは零がまた不思議な事を言っていると感じて、出来る限り分かりやすく説明をしたつもりだが、分かってもらえなかった。


 「世の中便利になったことだけは分かった。だが、それでもここがどこなのかは全くの不明か・・・」


 結局何も進んでいない。気が付けば零たちも空腹を感じ始めていた。


 「ここで考えてても埒が明かない。しかなねぇ。近くに川があるみたいだからな、そこまで移動するぞ」


 川があるのなら、魚がいる。水もある。食料の何もないこの状況ではとりあえずそこを目指すしかなかった。


 案の定。川は車から100メートル程の所に流れが穏やかな、澄んだ水の川が流れていたので特に心配事はなかった。


 「濁った変な水じゃなくてよかったです。それに、イワナのような魚も見かけました。心配事は一つは解消と言ったところですか・・・」


 ハチが水を少し口に含み、問題ないか確かめている。これで水の確保は出来た。次は食料になり得る魚をどう捕まえるのかだった。零たちは釣りなどはやったことがない完全な素人だ。

 

 零は靴を脱ぎ、腕をまくり裾を上げて川に入った。手掴みで獲るしかないのだ。零は息を殺して岩の近くで泳いでいた魚に狙いをつける。


 「ふん!!」


 零は魚を掴んだ。だが、滑って逃げられてしまった。


 ハチもタマも、魚を捕まえようと川に入るが、ヌメヌメした体に悪戦苦闘していた。


 「あと少しなのに・・・もー!魚のくせに!」


 「ま、魚も生きている。そう簡単には捕まりたくないんだろ」


 タマとハチはそんなやり取りをしていた。そして10分程たった。


 「ぶち殺したくなってきた」


 「俺も同感だ」


 タマとハチはだんだんイラついてきた。全く取れない。下手糞な自分に嫌気がさし始めてきた。


 「精神がブレると手元もブレる。無心になった方が良いのかもな。やっと一匹だ」

 

 零は両手でがっしりと一匹の魚を握りしめている。ようやく一匹獲れた。


 「さすがアニキ!」


 「ようやく一匹獲れましたね。無心になるか、俺も少し心を乱してました。意外と良い修行になりそうですね」


 二人は今度こそ獲ろうと、意気込んだ時だった。


 「とれたよー」


 能天気な声が二人を止めた。


 「おさかなさん、みんなの分とれたよ?」


 忠也は、陸地に既に五匹ほど魚を置いていた。しかもどれも零が獲った魚よりも大きい。


 「これは・・・忠也、君が獲ったの?」


 「うん、おさかなさんはいつもおとーさんが持ってきてくれたの。でもこのおさかなさんがなんてお名前なのかは分からないなぁ」

 

 三人は忠也に関心の目しか向けられなかった。そんな中ハチは忠也の獲った魚をじっくり見た。


 「魚には詳しくはありませんが、どうやら、ニジマスみたいですね。特徴が一致してます。すこし大きい気もしますが・・・因みに兄貴のは恐らくイワナですね」


 「ありがとうな忠也。助かった」


 零は忠也のボサボサの頭を撫でた。


 忠也は不思議そうな顔で零を見ていた。そしてちょこっと首を傾げた。


 四人は早速食べる事にした。しかしそこで忠也が思いがけない行動に出た。


 「じゃあいただきまーす」


 忠也は魚をそのまま食べようとしていた。三人は一斉に止めた。


 「うぇっ!?そのまま!」

 「まて!忠也!!」


 だが、忠也は何のことか分からないらしい。


 「な、なにか変なことした?おれ・・・というか、何してるの?はやくたべよ?」


 「ま・・・まさか、こいつ」


 零は勘づいた。忠也は今まで生魚を食べさせられてきたみたいだ。


 「忠也お前、今まで食べ物は何を食べてた?」


 「おれの?いつもおとーさんがしゅみで釣って来るバスかフナってやつだよ?でもこんなおさかなさんは見たことないからなんだか楽しみだなー」


 三人は同時に頭を抱えた。流石に全員毎日の食事が生魚という事はなかった。


 「ねぇ忠也。コレは火を通して食べたほうが多分何倍も美味しいと思うんだ。忠也も出来る限り美味しく食べたいでしょ?」


 「ひをとおす?よくわからないけど、おにーさんがそうしたいのならそうしよ?」


 タマが忠也に説明してる間にハチはいつの間にか薪を集め持っていたオイルライターで火を点けていた。


 「さっき車から持ってきた塩だ。塩焼きにして食べる。偶然車の中にあった」


 更には車の中から塩を持ってきていた。


 「はぇー、流石ハチだ!」


 「おいタマ、呼び捨てにしていいって言った覚えはないが?一応お前は後輩だ」


 「あ、あれ?すいません。なんか、いつもよりテンションが高いみたいで・・・」


 「遠足じゃねぇんだ。まぁいい。一旦食べようか。その後で今後の事を考えよう」


   




 ニジマスが焼き上がり、タマが忠也に渡した。


 「熱いから気を付けて食べるんだよ」


 「うわっふぅあふ!」


 忠也は興味津々な顔でかじりついた。しかしあまりの熱さに味が分からなかったが、徐々に慣れてきて焼き魚の味をようやく理解できた。


 「なにこれ・・・おれ、こんなの食べたことない。こんなにも食べられるところがおさかなさんがあるんだ・・・それに、もっと食べたくなる」


 忠也は一心不乱に食べ始めた。タマは少し安堵した顔で彼も食べ始めた。そして彼もまた驚いた。


 「なにこれ・・・めっちゃ美味しい。魚だよなこれ、素材そのものも凄いけど、この絶妙な塩味、最高」


 「そういえばタマ、ハチの料理食べるのは初めてだったな。こいつはこう見えて料理が上手い。昔、組の連中に振る舞ったらあいつ等、間違えてハチの事をおふくろって言ってたぐれぇだ」


 「兄貴、恥ずかしいですから、その話はしないで下さい」


 「ふっ・・・悪いな。だが、お前の料理の腕前はこの状況には役に立つ。済まないが、頼んだぞ」


 ハチは無言で頷き、食べた。


 

 そして食べ終わり、今後どうするか話し合った。


 「今はまだ昼過ぎですが、どうしましょうか。この場所は全く持って不明、空を見ても航空機は飛んでいない。この焚火でも誰も気が付いていないみたいだ。保証はないがここで救助を待つのが賢明かと」


 「車が動かせないんじゃそうするしかないな。しばらくはここを拠点にして周囲の捜索をするのが得策だな。

 俺はこれから少し下流の方を見に行く。お前らはここで休んでな」


 「兄貴こそ休んでいてください。様子なら俺が行きますよ」


 「俺はまだ何もしていない。これ位の事はさせろ」


 簡単に相談は終わった。零は車から使えそうなものだけを持って下流へと歩いていった。




 「しかし、ここはどこだ?奥多摩にでも間違えて来たか?」


 下流へ30分ほど歩いたところだった。前に小さい子供が二人、河原で遊んでいるのを見かけた。


 「とれた!とれた!とれた!」

 「いっぱい!いっぱい!」


 どうやらこの子供も魚を獲っているらしい。零は出来る限り優しく話しかけた。


 「なぁ、すこし話を聞きてぇんだが・・・」


 子供は同時に零の方を見た。全く同じ顔をしたまだ4歳程にしか見えない女の子の双子のようだ。


 双子はしばらく零の事を見つめたと思ったら同時に声をそろえた。


 『あーーーーーーーーっ!!!』


 双子は驚いた顔で同時に零を指さした。


 「アマナだ!アマナだ!アマナだ!」

 「ほんとだ!ほんとだ!」


 「あ、あまな?」


 零はいきなり訳の分からない事を言われて困惑していた。そんな中、更に奥から女性の声が聞こえた。


 「サナ、ルナ、いきなりどうしたの?そんなにはしゃいで、面白い魚でもいた?」


 奥から現れたのは二十代そこそこの保母さんのような可愛らしいエプロンを着けた女性だった。その女性も零を見た瞬間、固まって呟いた。


 「え・・・アマナ?」

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