第18話 姫と王子と護衛隊、そしてヤクザ
料理が運ばれてきた。焼き鳥とサラダ。それに飲み物だ。
「へい!ももと皮、ぼんじり、つくねだ!!それとエリザベートさん用に試作品、牛乳ゆず割り!そして子供たちにはオレンジジュースだ!」
「わぁ、とてもいい香りですね。でも、どうやって食べるのですか?お箸すら見当たりませんが・・・」
「串を手で取って食べる。一人一本、上から順番に、焼き鳥ってのは先と手元で味付けを変えてんだ!それが焼き鳥の食べ方ってなもんだぜ!」
「随分と野蛮な食べ方なのですね。でもわたくしそういうの好きですよ」
エリザベートは豪快かつ上品に焼き鳥を食べた。今までの食事の概念が終始無言だったので何も語らなかったが、幸せそうに瞑った目が感想を語っていた。
「うまい!うまい!うまい!」
「あち!あち!」
サナとルナも小さい手で熱々の焼き鳥を食べていた。
「野菜もしっかりな!」
『はーい!』
一方が食事に夢中になっている中もう一方は、真剣な話をしていた。
「あんたには、正直に言った方が良さそうだな」
零は自身の事を語った。自分はアマナではなく異世界から来た人物である事、自分の本名にそして魔法の事も。
「どうりでな、昔ビーンから聞いたアマナとは少し違和感があったからどういう事だとは思っていたが、成程な。ここに来た理由はゾロアス家の一件と、あんたたちの魔法の事を調べる為にって事か・・・俺が知ってる限りだが教えるぜ。まずは魔法だな」
零はスチュワートから魔法の事を聞いた。この国に魔法が出来たのは数百年前の事、この世界に現れた人物が魔法と共に、この世界に文明をもたらした。
その人物は零たち同様に様々な魔法を駆使していた。そしてその力で世界をまとめ上げ、この国を創った。
そしてそのその人物の子等が、それぞれの魔法を一つずつ授かり、今に至る。
「つまりはあんたらは、初代国王の再来と言ったところなのかもな。こればかりは分かんねぇが・・・」
「十分だ、感謝する。ようやくこの訳の分からない現状を理解できた。なんとなくではあるがな・・・これでようやく本件に心置きなく取り組める」
「ゾロアス家の娘の殺害予告か・・・あ、そういや思い出したが、今日はその件でここら辺一体の宿泊施設は全部埋まってるぜ。あんたら今日は旅行で来てんだろ?泊まるとこあんのか?」
スチュワートたちがここにいる真の理由は、零たちと同じでゾロアス家の娘の護衛と、暗殺者の青薔薇の捕獲もしくは殺害を目的として動いていた。
「やっぱりか・・・だからどこもかしこも空いてねぇんだな・・・」
「・・・なぁアレックス」
スチュワートは突然アレックスを呼んだ。
「今日お前のホテルの部屋って空いてるか?どうせスイートルームだろ?アマナたち、どうやらあんたらがホテル全部抑えたせいで泊まるとこねぇんだと」
スチュワートはにやっと笑い、アレックスに詰めた。
「え・・・そんな事言われても・・・」
「まぁそれは大変!泊めてあげましょうよアレックス。護衛の方々には言っておきますから」
突然のエリザベートの介入にスチュワートも流石に驚いた。様子を見るからして、話は泊るところがないというやり取りしか聞こえていなかったようだ。
「う・・・うん、そうだね」
「アマナ、明日また会おう、そこで詳しくだ」
「あぁ・・・にしてもこの焼き鳥、美味いな」
「だろ、俺も好きだ」
出てきた料理を食べ終わった。気が付けば双子と忠也はホシの膝の上で寝ていた。
「今日はとても楽しかったです。店長さん、ありがとうございました。お勘定をお願い致します」
「いや!今日は奢りだ。アレックスの時もそうだが、初めてのお客さんには俺がいつも払ってんだ。また来いよ。エリザベートさん。いや、エリザベート、今日からここの常連客だ」
「ウフフ、それは光栄です。ではまたごきげんよう。アレックス、皆様もそろそろ参りましょう」
零たちは店を後にした。零は魔法の事も、そして今の事件の情報を手に入れることが出来、ついでに美味しい料理にホテルまで入手出来た。
「最初はどうなるかと思ったが、意外なところにヒントがあるもんだな、ハチ」
「そうですね。子供たちに感謝です。この子たちのおかげで事件を知る事が出来た。そしてここにたどり着いた。運命って言葉はあまり好きではないのですが、この子たちの出会いは運命的なものなのではないかと思いますね」
「あぁ。子供の力って、すげぇんだな」
そして一行はアレックスたちの泊っているホテルへと案内された。
『ひろーーー!!』
とても2人用の部屋とは思えない広さに子供たちは起き上がり大はしゃぎだった。
「こらこら、暴れちゃだめだよ」
タマが子供たちを止めに入った。ホシはサナとルナを抱きかかえ、タマは忠也を持ち上げた。
「いつもはなんだか広いだけで居心地が悪いけど、なんだか今日はちょうどいい位だよ」
「ふぅ、今日はなんだかとても充実出来ましたね。アレックス、わたくし先にお風呂に参ります。一緒に来られますか?」
「い、行かないよ!!」
アレックスは顔を真っ赤にして答えた。エリザベートは口を覆いクスクスと笑った。どうやらアレックスの反応をただ楽しんでいるだけの様だ。
「では、子どもたちと参ります。ホシさんもご一緒してくだされば嬉しいのですが、わたくしは世間知らずですので、色々とお話をお聞きしたいのです」
「う、うち!?うちでいいのなら・・・」
「やったー、では行きましょう。こちらです」
「あ、あ~れ~・・・」
「おふろー!!」
「じゃあおれも行くねー」
子どもたちとホシは、半ば連行されるかのように浴場へと案内された。その時、エリザベートは零たちに向けて少しウィンクをした。まるで、積もる話をするのに私たちは邪魔だから、引いておきますと言っているかのようだった。
「ホシたち、大丈夫ですかね?」
ハチは少し警戒気味に質問した。
「バリーの事件の事を言っているのかい?それなら問題ないよ。風呂場にはメイドに加え護衛も沢山いる。あの子たちは安全だ」
その質問に答えたのは意外にもアレックスだった。
「お前、知ってるのか?」
「知ってる。バリーの件も、ゾロアスの件もね。スチュワートたちと一緒に捜索してたんだ。だから私はここに来た」
アレックスが急遽この地にやってきた理由は、彼も同じく零と同じゾロアスの事件を探りに来たのだ。
「やはりこの事件・・・ただ事じゃねぇんだな」
「それはまだ私にも分からない。だがこれだけは言える。この事件はこの国の・・・いや、この世界のそのものを崩しかねない事なんだ。だから、何が何でも止めなきゃいけない。一国の王子としても、一人の夫としても、この世界に生きる人間としてもね・・・昨日の事件もただの婦女暴行の事件じゃない。そして今朝のゾロアスの一件、全部繋がってることまでは突き止めた。だが、その繋がりが何に結びついているのか、それが分からないんだ・・・だから私からのお願いだ。協力をお願いできますか?ホシさんや、あの子たちに近いのは君だ、アマナ君」
零たちとは別で、アレックスたちもほぼ同じ仮定にまでは辿り着いていたのだ。
「どうにもアマナって存在がこれらの一連の事件で重要な要素らしいな。ゾロアスにもウィングにも同じように頼まれた・・・敵は一体誰だ?もしかしたら、青薔薇すら何かに利用されているのかもしれねぇな」
「そうだね、でも逆に考えれば青薔薇はこの事件で重要な役割を持っているともとれる。彼を捕えることが出来たなら、そこに綻びが生じる。そうすればおのずと敵が見えてくるはずだ。まず重要なのは・・・」
『青薔薇を、捕らえる』
零とアレックスは互いに手を握った。
「き・・・綺麗な身体・・・」
ホシはエリザベートのスタイルに見とれていた。
「そうですか?わたくしはもう七十を越えていますから、ホシ様の方こそ美しい体つきをしておいでですよ」
ホシは自分の体を王子の妻に褒められて顔を赤らめたと同時に、ある言葉が気になった。
「な・・・七十?嘘でしょ?」
「そうでもございませんよ、わたくしたちアダムス家だけは代々寿命が他のお方より倍近く長いのです。お父様も今年で百六十歳なのです」
「はぇ~・・・そう言えば噂でアダムスは不老不死だのなんだのって言ってたな、そういう事だったのか・・・羨ましい」
「そうでもないです。わたくしの周りの友人が徐々に亡くなっていく、みなさんと一緒の様に年を取れる。わたくしからしたら、そちらの方が少し羨ましいです」
ホシは自分の発言を少し後悔した。エリザベートは只でさえ王族だ。それに加え他とは違う寿命の長さ、それは彼女は常に孤独であったかを物語っていた。
「ご、ごめんなさい。変なことを・・・」
「そうでもありません。わたくしはアレックスに出会えた。あの人はわたくしと共に死のうと誓ってくれました。アレックスがいてくれるだけでわたくしは満足です」
少し気を落としているホシにエリザベートは穏やかな笑顔で返した。
とてつもなく広い浴場で子どもたちも一緒に浸かっていた。そしてこの3人はエリザベートたちの元に向かった。
「ねぇねぇ、おれそろそろ出たい」
「あら?そう言えばチュウヤさん、まだしっかり体を洗っていなかったのでは?」
「うん?」
「それはいけませんよ、メイドさん、この子お願いします。わたくしも一緒に洗います、サナさんもルナさんもですよ」
『え~~』
サナとルナは少し嫌そうにしてメイドに連行された。忠也は特に訳も分からないままエリザベートに抱きかかえられ連行された。
「チュウヤさん、この長い髪、随分と傷んでますね。大人になったら抜け落ちてしまいますよ」
「そうなの?よくわかんない」
「ここにお座りなさい、洗いますから」
「はーい」
忠也は小さな椅子にちょこんと座った。そして丁寧にしっかりと洗われた。
「わー!あわがー!」
「目を瞑りなさい、泡が目に入っては危険です」
「はーい、なんだか安心する」
忠也は穏やかに目を閉じていた。
一方、サナとルナは、
「あわ!あわ!あわ!」
「もこもこ!もこもこ!」
「あ、暴れないでくさだーい!」
暴れまわる双子にメイドたちは悪戦苦闘していた。




