第17話 一緒に旅行を楽しもう
零たち一行はアダムス王国とエイド王国の国境で、いわゆる入国審査を受けていた。
「アダムスへは何しに?」
「旅行です」
「そうですか、さぁどうぞ、ようこそアダムス王国へ」
「え!?そんだけ?」
「えぇ、なにが?」
一つの質問だけで簡単に通された。あまりの簡単な入国審査に零たち一同は口があんぐりだった。
「あんたらの国じゃ隣の国に行くのってそんなに難しいのか?」
「ん~、少しな」
ホシも不思議そうに零たちに聞いた。アダムスとエイドは元より仲が悪いという訳ではなかったが、アレクサンドラ アダムスの息子アレックス アダムスと、エイド ルピナス イブ六世の息子、エイド ルピナス イブ七世が偶然、同じ学校へと通っていた事で二つの国は急接近し、今となってはお使い感覚で国を移動できるようになったのだと、道中でホシが零たちに教えていた。
因みにアレックスとイブ七世は今でも仲が良いらしい。
そんなこんなで、一行は西ボーダー地区へと無事たどり着いたのだった。
「いやーー!ついたー!」
「ついた!ついた!ついた!」
「どこいく!?どこいく!?」
ホシたちは早速テンションがかなり上がっていた。ホシは旅行と言うものを相当久しぶりに味わえたのと、サナとルナに至っては旅行は初めてだ。
「そうだね・・・ホテルで休む!」
ホシの答えに一同スッ転んだ。
「遅い時間とはいえ、まだ夕方だよ?どこにも行かずホテルはないでしょ・・・」
タマは呟きながらツッコミを入れた。
「でもまぁ、荷物ぐらいは置きに行ってもいいんじゃねぇか?」
零はなんとかホシに合わせた。
「だよねー、んじゃ早速ホテルに行こう!」
・
・
・
「申し訳ありません、本日は満室となっておりまして・・・」
断られた。次、
「すいません、本日は重鎮がおいでになっているので・・・」
次!
「ごめんなさい、今日から明後日までここは貸し切りなのです」
「なんで、どこも空いてないのーーーーー!?」
ホシは町の中心で叫んだ。
「ノープランで予約もなしに来たのが駄目だったんじゃないか?賛同した俺も馬鹿だったな・・・」
零も少し軽いノリで判断しすぎたと後悔した。そしてどこか開いていないか探してみた。
「それにしたっておかしいでしょ!?普段ならどこもかしこも満室なんてあり得ないのに!特に連休じゃないでしょ今日!
どこの誰だオラァ、うちを陥れる気だな?分かってんだよコルァ!!」
「ホシ、どんどん口悪くなってない?」
タマはホシの口が悪くなっていく様に少し引き気味だった。
「ちょいちょいそこのお姉さん」
「あ゛ぁ!?」
ホシたちのやり取りを聞き、住民の一人が優しくホシに話しかけたが、ホシに威圧されて腰が引けていた。
「い・・・いやね、多分だけどさ、アダムスの王子がここに来てるって噂があってね。なんでも明後日のゾロアス家のパーティに急遽出ることにしたとか・・・」
ここでホシは思い出した。明後日はゾロアス家主催のパーティが開かれることを。
「まさか、それの警備の人たちがここで泊ってるって事?」
「う、噂だけどね。でもこんだけいきなり満室になるなんてね、よほどの事がない限りないでしょ」
「はぁぁぁぁ・・・どうしよ。せっかく来たのに」
ホシは肩を落としてガックリとしていた。そんな中、零は考えていた。
「それだけじゃねぇ、総動員で青薔薇を捕らえる気だ。ゾロアス、ウィング、そして王子か・・・本当にとんでもねぇ事になって来たな・・・」
零はこの事態を冷静に分析していた。もしかしたら、例の事件との関係があるのではないかと。そんな中、一行に後ろから堂々と声をかける人物が現れた。
「もし、そこの方」
零は振り返るとそこには、まだ若いがそれに似合わない程の貫録のある女性が佇んでいた。穏やかであるが、威厳に満ち溢れていると零は感じた。
「誰だ?あんた」
零はその威厳に押されることなく普通の態度で接した。だが、ホシは完全に固まっていた。さっきの親切な男もだ。
「レ・・・アマナ!こ、ここここのお方をどなたと心得る!恐れ多くもアダムスの王子が妻、エリザベート アダムス王太子妃であらせられるぞ!!」
「はぁ・・・」
「頭が高ぁい!!」
(どこの御老公だ?)と、少し零は内心でツッコミを入れたが、それは特に関係なかった。
「はい、アレクサンドラ アダムスの実子、エリザベート アダムスです。あの、夫のアレックスを見ませんでしたか?はぐれてしまいまして。どのお方に尋ねても固まってしまって・・・」
「済まねぇが、力にはなれねぇ。俺はこの国の王子の顔なんて知らねぇんだ。悪い、えっとエリザベートさんでしたか?」
零はあまり人付き合いが得意ではない。なので相手がどんな立場であろうと、上だろうと下だろうと同じように接してしまう所がある。
「そうですか・・・ならば仕方ありませんね。ではもう一つ聞いてもよろしいですか?」
「なんだ?」
「ここ、どこですか?」
流石にこれには零も固まった。探していたら自分が迷子になっていたパターンだ。
「せっかく明後日用の服を縫ったので、着てもらおうと思ったのですが、アレックスはここに着いたら否や、友達に会いに行くと言って出て行ってしまって、後を追ったのですが今度はわたくしが道に迷ったのです。せっかく旅行を楽しみにしておりましたのに・・・」
エリザベートはふら~っと歩いてどこかへ行こうとした。
「だったらさー、おれたちと一緒にここの町まわろー」
この雰囲気をぶち壊したのは、子供たちだった。
「いっしょにい!いっしょにいこ!いっしょにいこ!」
「いっしょにみよ!いっしょにみよ!」
サナとルナはエリザベートの服を引っ張った。
「あら、よろしいのでしょうか。お言葉に甘えさせてもらおうかしら」
『わーーーい!』
大人たちが置き去りのまま、話が勝手に進められた。
「あにきー、困ってる時はお互い様ってやつでしょー?」
「もう・・・どうにでもなりやがれ」
零も、誰もかも、考える事を放棄した。
子供たちに連れられて、楽しい?旅行が始まった。
「あそこって何なのー?」
「う、ん。あそこね、居酒屋ね」
ホシが一応この町の事は知っている。なので彼女が案内をしているが、固まってしまって、ろくな回答が出来ない。
「そういえばアレックス。ここで一番有名な居酒屋に友人と行くと言って見えました。あそこにいる気がします。行ってみましょうか」
「いこ!いこ!いこ!」
「はいろ!はいろ!」
「そう言えばおなかすいたねー」
もはやこの自由人たちを止める人間はいない。仕方なく零たちもついていった。
そして中に入った。
「おう!もう一杯!」
「まんだいけるわ!!」
「うりゃー!」
「ほんへ~」
色んな料理の匂いを消し去るかのように、酒の臭いと、男の臭いで店内は満ちていた。
「あら、随分と賑やかな食事会なのですね」
「いらっしゃい!!って、子供はここに入っちゃいけないよ!?帰りなせー!!」
元気に出てきた店員に早々に退場を申し付けられた。
「そうですか。それでは仕方ありませんね。他に場所へ行きましょう」
エリザベートは特に取り乱すこともなく、店を後にしようとした。が。
「あ、あれ? エリザベート様?」
店員の一人が気が付いてしまって。思わず名前を言ってしまった。その瞬間に周りは停止した。
「あらら、どうされました?」
「い、いや・・・」
穏やかな笑顔のエリザベートと、酒の酔いも一気に消えた客の間に妙な空気が長い間流れた。
その中、凄まじい慌て方で一人の男がエリザベートに向かってきた。
「エリザベート!?なんでここに!?」
「あ、アレックス。ここにいたのですか。探したのですよ?」
慌てた様子のこの若い男こそが、アレックス アダムスだ。スーツ姿の良く似合う男性、エリザベートに比べると、その威厳はあまり無いように見える。
「探したって、さっき言ったじゃないか。僕はここに行きたいから部屋にいてって・・・聞いてなかった?」
「あら?そう・・・いえば。でもまぁいいじゃないですか。わたくしもご一緒したいですもの。だめでしたか?」
アレックスは頭を抱えた。エリザベートは普段から少し頭がフワフワした様な性格なので、気が付いたらどこかで迷子になっていることが多いのだ。のでアレックスは、このまま帰すわけにもいかなかった。
「はぁ・・・店長。少しの間だけ、エリザベートと、あと、この親切な方々を入れてくれませんか?謝礼金は出します」
「いやアレックスの頼みなら断らねぇけどよ・・・大丈夫か?」
「うん、しっかり見ておく」
「やったー!アレックス、わたくしも一度このような食事会に来てみたかったのです。ようやく願いが叶いましたわ」
エリザベートはアレックスに後ろから抱きついた。アレックスは余計に頭を悩ませた。
「エリザベート・・・頼むからお酒は飲まないでよ?」
「はい」
エリザベートはにっこり答えた。アレックスは肩を落とし先ほどまで自分のいた席に戻った。
そこの席には2人の男が座っていた。1人は零たちも知る人物、ビーンだ。そしてもう一人、ビーンの上司となる男がそこにいた。
「よ、エリザベート姫。お初にお目にかかる。ご機嫌麗しゅうございまっす」
「あら?そうでしたか?あなたスチュワートさんでしょ?中央でもたまに見かけておりましたのよ。挨拶はしておりませんが。アレックスの友人とはあなただったのですね。アレックスがよくお世話になっております」
スチュワートは自分がしっかり知られていた事に驚いた。
「そうでもねぇよ、この若年ジジイとは腐れ縁なだけだ」
「若年ジジイってなんだコラ、スチュワート。腐れ縁は認めるけどな」
スチュワートがしれっとアレックスの悪口を言ったのを聞き逃さなかった。
「二人とも落ち着いてくださいよ」
ビーンは少し困った様子で話していた。
「あなたは確か、ビーン・ムゥさんでしたね。あなたの事はよくアレックスから聞いておりましたのよ。噂通り、まるで兄弟みたいですね。アレックスに少し似ている気がします。軍に入られたのでしたね。その甲冑とてもお似合いです」
「え!?あの、こ 光栄であります!」
ビーンはテンパっていた。
「ってアマナ!?ホシ!?なぁんで姫様と一緒にいるんだよ!?」
ビーンは零たちにようやく気が付いた。
「ん~、なんというか・・・成り行き?」
「そうとしか言いようがねぇな」
零は溜息を吐いた。ビーンも吐いた。アレックスもホシもここにいた常識人は全員吐いた。
「仕方ねぇな・・・アマナだったか?会うのは初めてだな。俺はスチュワートだ、アダムス国民防衛軍の要人護衛隊でそこのビーンの一応上司ってやつをやってるもんだ。よろしくな」
空気を切り出すことに成功したのはスチュワートだった。自己紹介で事を切り抜ける気だ。それを察し零も対応した。
「アマナだ。こっちこそよろしく頼むぜ、スチュワートさん」
「フッ、ここで会ったのも何かの縁だ。さんはいらねぇよ。
てめぇらもいつまで固まってんだ?一国の姫がなんだ?いつもの荒々しさはどうした?ここは身分なんて関係ねぇ所だろうが。だから一国の王子も当たり前にいるんだぜ?ここに来たのは只のエリザベートだ。一緒にもてなしてやるのが礼儀ってもんだろうが!!」
『うおおおぉぉぉぉぉ!!!』
スチュワートはここを仕切り、一気に先ほどの雰囲気を取り戻して見せた。
「じゃあ!酒だ!」
「あ~、そいつは駄目だ!子供もいるしな。おい店長!ジュースあったろ!それと牛乳だ!」
「だな!スチュワート!お客さん!今すぐお持ちします!『西ぼ~だ~』特製のアルコール無しのカクテルだ!!あと焼き鳥でもどうぞ!!」
店の雰囲気は完全に元に戻って、どんちゃん騒ぎになった。
「やるなスチュワートさん。いや、スチュワート。助かったぜ、この状況を切り抜けるのは容易じゃなかったからな。感謝する」
「だろうな、アレックスのジジイからエリザベート様の事はよく聞いてたかんな。それに、アマナにホシ、あんたたちの事も一応知ってる。ビーンの奴、よく国を抜け出して昼飯食いに行ってたろ、そん時あいつの後つけてたんだ」
スチュワートはビーンがよく国を抜け出していることはもうとっくに知られていた。
「すげぇな、今日の昼もか?」
「あぁ、今日の事件の事も知ってる。アマナ、ここに来た理由はなんだ?」
スチュワートは見透かしていた。




