第16話 良い旅を・・・
タマたちは孤児院へと帰って来た。
「あぁ、早かったな。何かあったか?こっちは準備出来ている。明日行くつもりだったがどうにもホシたちがすげぇ今にも行きたいって感じだから、もうすぐ出るぞ?」
「早すぎんでしょ・・・じゃなくてですねアニキ、着替えとかは持ってきたんですけど、これ、見てください」
タマは一丁だけ持ってきたオートマチック拳銃を零に見せた。反応は予想通りの反応だった。
「おいおい・・・こいつぁ・・・」
「これだけじゃないんです。車のバックスペースの下に大量に、銃弾も100発以上は確実にありました」
「なんだかおっきいやつもあったの」
零はしばらく考えてハチを呼んだ。
「ハチ、お前のハジキ、どっから持ってきたんだ?」
「ん?こいつですか?こいつは昔から常に携帯してたじゃないですか」
ハチは昨日使っていた自動拳銃を取り出した。
「ステンレス製、コピーのガバメント、ハードボーラーとかって言われてる銃です。一応、銃刀法違反はしてましたが、こいつに入ってる弾は空砲だけですよ?鉛はありません」
「ハジキの名前は良く知らねぇが、それ以外に持っていたって事はねぇよな」
「はい、一体どうしたんです?兄貴」
零はタマの渡した拳銃をハチに見せた。
「タマたちが車の中で発見した。他にも大量にあるらしい」
「・・・まさか、組が武器の密売を?あり得ないですよ。タマ、武器は隠してあるよな?」
ハチは少し顔色を変えてタマに問いただした。
「はい、まずあの車もあんな森の中にあるんです。そうそう見つからないと思います」
「兄貴、アダムスに行く途中に近くを通るみたいですから、その時に隠しておきましょう。この世界には車もまだない、馬がまだ主流みたいですからね。こんな時代を間違えた武器を見られたら大変です」
「そうした方が良いな、俺たちは裏社会の人間、本来なら余りホシたちとの付き合いも極力避けたいんだが。そこは仕方ねぇ、俺が原因だからな。だが、こいつはマズイ。それで行くぞ」
話はまとまった。そしてホシたちも完全に荷物がまとまった。それどころか、多すぎるぐらいだ。
「ホシ、少し荷物を減らせ・・・」
「やっぱ多いか・・・アハハ」
今度こそ準備が完了した。零たち一行は役場近くにある駅馬車が出ている発着場に着いた。
「あら、ホシちゃん早速旅行なの?どこに行くの?」
発着場にはファルコ村長の娘のコマチが案内をしていた。
「西ボーダーまで行くやつ」
「あぁ、それならコレに乗ってきなさいな、でもホシちゃん、三日も休みがあるのなら、オーシャナでも行けばよかったんじゃない?」
「あんまり一気にお金を使うと後で大変そうだからね、今回は近場でね」
ホシは金があるからって、むやみやたらに使うわけじゃない、ただ思い立ったら即行動するだけだ。
「そなの、じゃあ気をつけてくださいな。良い旅を」
零たちは駅馬車に乗りこんだ。最後に零が乗ろうとしたときに、コマチは零に声をかけた。
「あの、アマナさん・・・」
「・・・あ、俺か。どうした?」
「い、いえ・・・なんでも、旅行、楽しんでくださいな?」
コマチは何か言いたげだったが、止めたようだ。零は追及することもないと判断した。
「そうか、お前も頑張れよ・・・コマチ・・・」
とりあえず激励の言葉を送って扉を閉め、出発した。
「ふぅああ~~~~っ!!呼び捨てで呼ばれた!呼び捨てで呼ばれましたわーーーー!!」
零たちが出発した後、コマチは悶えていた。コマチはアマナがいなくなる前からアマナに好意を抱いていた。だが、コマチが引っ込み思案だったのと、アマナとホシが二人で行動することが多く、この二人ならいいかと少し諦めていた。
しかし、先ほど呼び捨てで呼ばれた事で自分の中で激しい葛藤が始まった。ホシとは友達だ。しかし自分の恋も成し遂げたい。でもアマナの心はどっちに向いているのか分からない。
「あぁぁああぁぁあああっ!!」
「なーに叫んどんのコマチ。仕事せな」
娘の奇声を聞き、ファルコが出てきた。コマチはちょくちょく自室で暴れていたのでまたそれだろうと思っていつもの様になだめたのだった。
「わっかりましたわー!」
「レイ、アマナはコマチちゃんの事呼び捨てで呼んだこと無かったよ?」
「あ、そうなのか・・・今度から気を付けよう・・・あ、済まねぇ、少しの間降ろしてくれないか?」
零は御者に降ろすように頼んだ。
「こんな森の中で?」
「あぁ、ちょっと時間がかかるかもしれねぇが、頼めるか?」
「ええよ、どうせ今日の運行はあんたらで最後だし、向こう着いたら『西ぼ~だ~』で飲むだけだし、早く着きすぎてもまだやってないから、どんだけでもどうぞ」
「そうか、ホシ 済まねぇが待っててくれ。ハチ、ここを頼んだぜ。俺とタマとチュウちゃんで行く」
「分かりました」
3人は駅馬車を一旦降りて車に向かった。
「さて、こいつか・・・」
零の目の前に大量の銃火器が並んだ鉄の箱がある。
「何キロあるんですかね・・・というか、どこに隠すんです?」
「すぐそこに滝があった。そこの裏にある洞窟に隠す、人一人がやっと入れるほどの洞窟の入り口だ。ここはあの害獣とかが出るらしいからな、子供は遊ばないし、人もめったに通らない。そこに置いておけばまず見つからないだろ。
それにもったいねぇが、そこに置けば銃弾も湿気って銃も錆びる、すぐに使えなくなるはずだ」
「成程・・・じゃ、どうやって運ぶかですね」
「重さにすると、約50キロぐらいか・・・タマ、二人で持つぞ」
箱を零とタマ、二人で持つことにした。
「あにきー、おれは?」
忠也はやる事がないかと零に尋ねた。
「チュウちゃんは洞窟で一番見つかりにくい場所を探してくれ。だから呼んだんだ」
「はーい」
零とタマは「せーの」の掛け声で持ち上げた。重たいが、なんとか持てるようだ。
「重てー・・・」
「泣き言を言うんじゃねぇ」
零は滝にたどり着き、箱を洞窟の裏側に押し込んで入れた。
「頼むぜチュウちゃん」
零は忠也に隠し場所を頼んだ。忠也は急に暗くなったので目を凝らしている。すぐに目が慣れてきて忠也は指示を零たちに出した。
「こっちー」
忠也は少し奥に歩いていった。
「中は意外と広いですね。探検家になった気分です」
「あまり声を出すなよ、もしかしたら害獣がいる可能性もあるんだ」
「あ、はい」
零たちは洞窟を歩き、二つの分岐点に着いた。
「うーん、いい場所ないなー。あにきー、ここ左に行ってから置くだけにした方が良いと思うよー。石で覆って隠すしかないねー」
「それが一番だな、ここの洞窟は俺の予想以上に広かったな。これならどこに置いても問題なさそうだ。よしタマ、踏ん張れ」
疲れて座り込んでいたタマを起き上がらせ、左に向かった。
ある程度歩くと行き止まりにたどり着いた。
「ちょうどいいな。ここに置くか」
零は箱を適当に地面に置いた。
「アニキ、これでどうやって隠すんです?周りに覆い隠せそうな石もなさそうですよ?」
「簡単だ」
零は軽く地面を踏み込んだ。今度は箱を覆うように地面がせり出した。せり出した岩は箱を完全に覆い、一つの岩の様にした。
「おー!」
「あぁなるほどね、これならバレないな・・・流石アニキ」
「褒めてもなんもやんねぇよ、それより戻るぞ。あまり待たせるのも悪い」
零たちは洞窟を出た。そして駅馬車へと戻った。
「兄貴、終わりました?」
「あぁ、御者。出してくれいいぜ」
「あいよー、ほんじゃ行きますか。ちょうどいい時間に向こうに着きそうだな」
一行は、アダムス王国、西ボーダー地区と呼ばれる場所へと向かった。




