第15話 俺たちの秘密を探しに行こう
「よっしゃ、じゃあやるか!ってのは良いんですけどアニキ、結局どうするんです?」
「青薔薇ってのは相当な殺し屋なんだろ?予告の明後日までに現れる可能性は極めて低い。今は慎重に動かねぇといけねぇ。俺たちが表だって行動するのは明後日だ。それまでは、俺たちを調べる」
「ん?と言うと?」
ハチの疑問を遮るように零は軽く足元を踏み込んだ。するとコンクリートだった地面は一気の盛り上がり一つのちいさな岩山を造り出した。
「この、魔法とか言うやつだ。ハチ、お前にも出来るんじゃないか?」
ハチは昨日のタマの様子を思い出したが、どういう感覚か分からなかった。
「なんとなくだが、魔法は出来て当然だ、存在して当然だって感じで、意識を集中させれば使えた」
ハチは手元に意識を集中させてみた。
「魔法はこの世界にある。常識を捨てろ。俺も出来るはずだ・・・」
するとハチの手元に僅かに風が巻き起こり始めた。そしてすぐにその風は部屋中を揺らした。ハチはとっさに魔法を止めた。
「こ・・・これが」
「あぁ、タマは水を操っていた。ハチ、お前は風らしいな、俺はどうやら地面を動かすことが得意みたいだ」
「得意?兄貴まさか、魔法はこれ以外にも使えると?」
「そうだ、少し苦労したが、こんな感じのも出来るみたいだ」
零はそう言って手に炎を灯して、すぐに消した。
「これは・・・いつの間に」
「昨日寝る前に少しな。どうやらこの魔法ってのは相当精神力を削るみてぇだ。魔法を使った後は凄まじい疲労感が襲う。少し使う分には問題なかったが、使い続けるのは負担が大きいみてぇなんだ。だから、今日珍しく早起きしてなかったろ」
ハチは今朝の事を思い出した。元の世界で零は早起きで有名で組の事務所には真っ先にいた。だが今日は時間にルーズなタマとどっこいどっこいで、ホシに叩き起こされるように起こされていた。
「珍しいと思ってはいましたが、そういう事ですか。確かに、今のだけでも少し体が重い気がしますね。では、調べると言うのはこの魔法を?」
「明日はアダムスに向かう。魔法ってのはアダムスにしかないらしいからな、そこで魔法について調べようと思う。青薔薇も氷の魔法を使うらしい、その事も調べたいしな」
「つまり、この世界の事も調べて、尚且つ事件の事も調べられる。一石二鳥ですね」
「そういう事だ」
その2人の話にタマは少し水を差した。
「でもアニキ、ホシやサナちゃんとルナちゃんはどうするんです?ここにおきっぱは心配ですよ」
「あ~、それは・・・そうだ、こうしよう」
零は少し考えてから、ホシたちのいる方へと向かった。
「え!?明日アダムスに旅行に行こう!?」
「駄目か?調べてぇ事があるんだが・・・」
「えーーっと、明日の仕事休みに出来るかなぁ・・・ちょっと待ってて、聞いてくる」
ホシは孤児院を飛び出した。
すぐに帰って来た。
「マスター、良いってさ。何なら昨日の事もあったから三日ほど休んでていいみたい、それでさ・・・これ・・・」
ホシは何とも言えない微妙な笑顔で一つの封筒を取り出した。その中には札が結構な束で入っていた。
「昨日の事のお詫びって事でウィング家とゾロアス家、そんで村長からのお金、百万円。もらっちゃった」
零たちはしばらく固まった。今の数分でなんでこんな状況になった?
「これなら泊りで行けるね!サナとルナも連れて行けるし、買い物も行けるし、一石二鳥~~、いや、レイたちの事も考えれば一石何鳥だろ~~~~!早速準備しなきゃ!」
ホシの表情はどんどんぐにゃぐにゃに崩れてきた。普段の殺伐とした態度とはまるで違う。ホシは早速荷造りを始めていた。ホシは結構金にがめつい所があるのだ。
貰えるものは貰っておく、感謝の気持ちなどを断る事は絶対にしないのがホシのポリシーだ。
「おでかけ!おでかけ!おでかけ!」
「りょこー!りょこー!」
サナとルナも走り回り、鞄に荷物を突っ込んでいった。
「あんたが騙されてた理由が分かった気がするな」
「あ?どういう意味だよそれ?」
零の小言に文句を言いながらも、荷造りをするその手は更にスピードを上げた。
「とりあえず、俺たちも準備しましょうか。車の中の方にまだ何か使えそうなのがないか見てきますね。そうだ、チュウちゃん、一緒に行くか?」
「行くー」
タマと忠也は二人で森の中にある車の中を調べに行った。
「あ、そうだタマ。害獣は火を点けたり明るい場所があるとそこには絶対に何かいるって考えるらしくてね、そう言った場所に寄って来る習性があるから、行くのなら日のあるうちにな。因みにあいつらの苦手なのは口笛だ。あいつ等にとっちゃ嫌な音らしいから、万が一遭遇する事があったらそうすれば逃げてくよ」
ホシの助言を聞き、タマたちは出かけた。
「俺たちも準備しましょうか」
「あぁ」
零たちは、とりあえずこの孤児院にあるもので荷造りを始めた。
タマは車の元にたどり着いた。
「そういえばさチュウちゃん。君の親ってどんな人だったんだ?」
タマは忠也に聞いた。忠也の母親は行方をくらまし、父親には自宅で監禁され、生魚ばかり食べさせられていた。それなのにも関わらず忠也には親に対して憎しみを募らせた言葉は発せられなかった。それどころか、感謝している様な事ばかりだ。
「ん?おとーさんとおかーさん?おかーさんはね、よくおれの面倒を見ててくれてたんだ。おとーさん、お酒飲んでると凄い暴力的になるから、よくかばってくれてた。おれ、なんとかおかーさんを助けようと思って頑張ったの。おかーさん、おれがいるから家を出られないって言ってたから。だからおれ、おかーさんがこれ以上殴られないように、おかーさんに家を出るように言ったんだー」
「ひどい話だな・・・チュウちゃん、まだ子供なのにお母さんの為にそこまで・・・ほんと、深夜の奴は・・・」
タマは忠也の話を聞き、深夜に対する怒りがより大きくなっていた。だが、忠也はそれを止めるように話し続けた。
「でも、おとーさんも悪い人じゃないよ。ただぶきようなの。お酒を飲むのは止められない、でも飲んだら周りに暴力を振るっちゃう。おとーさんずっとその事で苦しんでたんだー。でもお酒の入ってないおとーさんはよくおれと一緒に部屋の中で遊んでくれたよ。おとーさんもおかーさんも、俺の事を真剣に考えててくれたんだ、だからさタマ兄、おれは怒ってなんかいないよ。
悪いのは、おとーさんたちじゃないの、一番悪いのはおれ。おれが、おとーさんとおかーさんを閉じ込めてた。タマ兄、タマ兄がおとーさんを探してきた時におれを置いていなくなった本当の理由はね、おれがおとーさんを逃がしたからなんだ。おれはもう一人で生きられるから大丈夫って、おれがただ一人、あそこに残ってたの・・・ごめんねタマ兄、ずっと黙ってて」
タマは何気なく聞いた自分を悔いた。
忠也を苦しめていた親をいつか懲らしめてやると心の中で誓っていたタマの意志は忠也のとてつもなく大きい心で粉々に砕かれた。
「謝るのは・・・俺の方だ。直前の物事しか見ていない。よくアニキに言われてた。チュウちゃん、ごめんよ」
タマはゆっくり忠也を抱きしめた。それ位しか謝る方法が思いつかなかった。忠也は相変わらず、何のことだろうと言った感じで首をかしげた後に、にっこり笑った。
「なんでタマ兄が謝るのー?おれはこれで良かったっておもってるもん。だってそれがあったからおれはタマ兄たちに会えたんだよ?おとーさんもおかーさんもきっと幸せになれてる。タマ兄もおとーさんを殴らなくて済んだんだもの、おわりよければすべてよしじゃないけど、おれはこの形で良かったと思うから、おれは今幸せだよ?だからタマ兄、落ち込んじゃダメだよ」
今度は忠也がタマを慰めるように抱きしめた。
「あれ・・・なんで俺が慰められてるんだろ。ごめんチュウちゃん、ちょっと涙出てきた」
タマは自身の不甲斐なさを責めたのと、忠也の心に涙を流した。
「さてと、荷物はこれ位かな?」
その後、車の中を調べ使えそうな物、返り血を浴びた時用にハチが入れていた下着と服、何故かあったトランプを持って孤児院へ戻ろうとした。しかし最後に忠也がバックスペースの下を見ていたらとんでもないものを発見してしまった。巨大な鉄製の箱があった。忠也はそれを開けていた。
「タマ兄、これ何?」
「うん? は? はぃ!?」
タマは忠也の取り出したモノに心底震えがった。
「ハ・・・ハジキィィィィ!?」
忠也が持っていたのは、自動拳銃だった。
「これ、大きい音がバーンってなるやつだよね。昨日ハチさんが持ってた。あとさ、こんなのもあったよ」
忠也が更に取り出したモノに完全にタマは肝を抜かれた。
「オートマチック、サブマシンガンに、アサルトライフル、グレネードと、グレネードランチャー・・・そう言えば、ハチさんが言ってたな。最近燃費が異常に悪くなったとか、車高が低くなった気がするとか・・・まさか、これが?」
タマがぶつくさ言ってる中、忠也は不思議そうに武器を眺めて、手に取ろうとしていた。
「ダメダメダメ!!危ないから触っちゃ駄目!!」
タマは慌てて忠也を止めた。忠也はビックリして手をどけた。
「ねぇタマ兄、これって何なの?」
「チュウちゃん、いいかいよく聞くんだ。これらは鉄砲って言ってね、人を傷つけるどころか殺しちゃうかなり危ない物なんだ。日本じゃ持ってるだけでもいけないようなとーーっても危険なね。とりあえず、アニキの相談しよう!」
「そ、そうだね・・・なんだか怖そうだもんコレ。アニキに聞こ?」
タマたちは足早に孤児院へと帰った。




