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第14話 かくれんぼの綻び

 零たちは孤児院へと戻り、ホシにこれまでの事を伝えた。


 「なんだか凄い事になってるね。まだあんたたち自身もここの世界の事を何にも知らないってのに、次から次に事件が起こる・・・奇妙ね。ここ最近ずっと穏やかだったのに」


 「あぁ、奇妙だ。昨日の事、今日のこの事、どうにも引っかかるんだ。そうだホシさん、アオバラって知ってるか?シャロウがマリリンを殺そうとしてる殺し屋の名前らしいんだが・・・」


 零の質問にホシは目を見開いた。


 「青薔薇!?まさか嘘でしょ?あいつが動いてるなんて!」


 「何か、知ってるのか?」


 「さすがに知ってるよ。依頼があればこの国だろうとアダムスだろうと現れて確実に仕留める殺し屋。その名前が出てきたのは数年前だったな、この国の議員が青薔薇に殺されたんだ。


 上流階級の奴らにも問答無用だって、貴族とかは青薔薇にビビりまくりなんだよ」


 「何故そいつがやったって分かったんだ?何か痕跡でも残すのか?例えば、予告状を送るとか」


 「いや、それがないんだ。だけど青薔薇に殺された奴は全員決まって心臓に氷でできた青い薔薇が咲いてんだ。それが青薔薇の名前の由来、噂だと不謹慎にも美しさを感じる程らしいよ」


 「そうか、ありがとうホシさん」


 零は聞きたい事が聞けた。


 「あ、そうだ。うちの事は呼び捨てでいいよ、元々そういう感じで呼ばれるの好きじゃないんだ。それに、その顔でその呼び方は違和感ありまくりだ」


 「そ、そうか、じゃあホシって呼ばせてもらうぜ」


 「あぁ、じゃあうちは、ここの中じゃレイって呼ぶようにするよ。外じゃアマナって呼ばれまくるだろうしね」


 「そうしてくれるとありがたい。なぁホシ、少しハチたちと話したい事があるんだ。少し外してもらっていいか?」


 「ん?分かった。サナとルナとチュウちゃんの面倒は見ておくよ」


 「すまんな」


 ホシは子供3人を連れて奥へと向かった。

 

 「兄貴、何か分かったのですか?」


 「いや、むしろ分からなくなった。青薔薇は予告状は送らないのに予告状が来た。さっきのシャロウの話だとその予告状が届いたのは今朝だと言っていた。そして、マリリンがいなくなったのは昼前かららしい」


 「そりゃ確かに変ですねアニキ、変に時間差がある」


 「タマ、俺が一番奇妙に思っていることはそこじゃねぇ。この件の、マリリン ゾロアス殺害の依頼人は恐らく、マリリン自身だ」


 タマは零の予測で固まった。さっきまで一緒に遊んでいた元気な女の子が自分から死のうとしているなんて思わなかった。


 「なっ!?それはいくら何でもないでしょ!だってアニキ!」


 「タマ、さっきかくれんぼしてたって言ってたな。お前はマリリンを見つけられたか?」


 「はい、探すのに10分ぐらいかかりましたが、最後は意外とすんなり・・・あれ?」


 タマはここで一つの違和感を覚えた。マリリンは忠也の使う隠れ方を知っていた。それを使っていたのなら遊具の下に隠れていたなんて、簡単に見つかる状況にはならないはずだ。


 だが、タマは10分間はマリリンを見つけられなかった。その10分に違和感を感じていた。


 「ろくにかくれんぼをした事のない貴族のお嬢様にタマ、お前は10分も手こずった。その間、マリリンはどこにいた?その間に青薔薇に接触した可能性もある。もし、マリリンが家を出た本当の目的は青薔薇に接触する事だったとしたら?」


 「でもアニキ!それは流石に無理がありますよ!」


 「タマ、お前はマリリンの目をしっかり見たか?あいつの目、子供のする目じゃねぇ。あの目は死と、その中には激しい憎しみだ。そして『殺し屋』って単語に過敏に反応を示した。だから俺はそう考えたんだ。マリリンは、殺されることを望んでいるのかもしれねぇってな」


 タマはそれを見抜けなかった自分自身を悔やんだ。そして腑に落ちない単語が頭の中でいっぱいになった。


 「じゃあ、予告状は、一体誰が?」


 「問題はそこだタマ。マリリンのその意志を利用して、本当にマリリンの命を狙う者がいるって事だ。シャロウは昨日言っていただろ?昨日の事件の真の首謀者はゾロアス家かウィング家かもしれないと・・・今日、この混乱で動いたのはこの2つの家だ・・・つまり」


 「もう既に真の首謀者は動き出しているかもしれない・・・」


 タマはようやくその答えに行き付き、零は大きく頷いた。


 「そういう事だタマ、首謀者の目的をサナとルナだとするのなら、当然俺たちが邪魔になる。その為の偽の予告状と本物の依頼だ。俺たちをサナとルナ、そしてホシから引きはがす事だという事だ」


 「くそ・・・繋がった。それなら納得できる。だけど、人の命を奪ってでもどうしてサナちゃんとルナちゃんを・・・許せないな。こればかりは・・・」


 タマはその仮定に行きつくことで怒りを胸に新たに決意した。


 「しかし兄貴、マリリンはどうやって青薔薇に接触を図ったのでしょうか?タマもいて、しかも周りの捜索していた連中はかなりいた。それを子供一人でどうやって・・・」


 ハチが新たな疑問に悩んでいた所に後ろから声をかけられた。


 「おれが、連れてったの・・・」


 「忠也?」


 突然後ろに忠也が立っていたことに零もろとも素早く振り返った。


 「どういう事だ?忠也、連れて行ったって」


 ハチの質問に忠也はうつむいて答えた。


 「マリリンちゃん、かくれんぼしている間に、誰にも見つからないで公園の路地裏に行きたいって言ってたんだ。すぐ戻るって言ってたからおれ、連れてっちゃった、ごめんなさい、おれ、気が付けなかった・・・」


 忠也は事態を大きくしてしまった原因は自分にあると思った。自分がしっかり止めていれば、マリリンは青薔薇に合わなくて済んだのにと、悔やんでいた。


 「チュウちゃんは悪くないよ、悪いのはマリリンちゃんをそんな風になるまでに追い込んだ奴と、もっと悪いのはその苦しんでいる心を自分の目的の為だけに利用する汚い奴だ。だからさチュウちゃん、そんな顔しないで、一緒にマリリンちゃんを助けてあげよ?」


 タマは今にも泣きそうな忠也の頭を撫でた。忠也はうつむいたまま小さく何回か頷いた。


 「あの時マリリンちゃん、辛そうだったのに・・・なんでおれ、止められなかったんだろ。おれが、止めてれば・・・」


 忠也は止めなかった自分を責めていた。深く考えなかった自分を後悔していた。


 「忠也、後悔するのは勝手だ。だがな、いつまでも後ろを見てるだけじゃ道は見えねぇ。後ろを見たらその後見るのは前だけだ。


 取り返しのつかない事をしたら誰だってどうしてこうなってしまったのか、あの時こうしていればと考える。だが、そこで止まったら何も変わらない。誰も助けられない。


 今何をすべきか、次、二度と起こさない為にはどうするのか、それを考えるんだ。忠也、マリリンを助けたいのなら、過去の自分を胸に刻め、その心に刻んだものを糧に前に進むんだ。同じことはもう起きない、もっと酷い事が起きる。それを阻止できるのは忠也、お前が前に進むしかないんだ」


 零はそう言って忠也の頭をゆっくり撫でた。忠也は不思議な気分になった。いままで頭を撫でられたときは心が安らぐ気分になっていた。それなのに今はまるで逆の気分へと変わった。感情がどんどん昂っているのを忠也は何となく感じていた。忠也は、決意を胸に抱いた。


 「わかった。もう失敗しない。おれ、決めたよ。マリリンちゃんを絶対に助けるから、だから手伝わせて」

 

 零はしゃがんで忠也の目を見た。長くて隠れた前髪の奥にその決意はしっかりと零の目に届いた。マリリンとは別の目つき、生きる事への貪欲さに満ち溢れたその目は、マリリンを死という文字から救い出せる。


 「忠也、いや、チュウちゃん。なかなかいい目をするな、それこそ、子供のする目じゃない。だがお前のそれは、憎しみではなく怒りだ。己自身へのその怒りが、マリリンを必ず死から救い出す。


 俺からも頼もう、チュウちゃん。俺に協力してくれ、子供には子供の世界がある。俺では殺し屋を止めれても、マリリン自信を止められる保証がねぇ・・・頼む」


 忠也は、零が自分に頭を下げている状況にどうしていいのか分からなくなった。そのせいか、忠也からでた言葉はあまり関係のない言葉だけだった。


 「あのさ、あにきって呼んでいい?みんなそうやって呼んでるから、俺もそう呼びたい」


 「あ?あぁ・・・あまり俺たちの世界に首を突っ込むのは好きじゃねぇが、好きなように呼べばいい」


 「やったー」


 忠也はかつてのノリを思い出した。のんきで明るい・・・だが、その心は確実に成長していた。あのかくれんぼは、忠也にとっても、マリリンにとってもとても重要な出来事になった。


 かくれんぼは子供のお遊び、その固定概念が綻びとなり、この全ての事件の足元を崩し始めていた。


 

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