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第13話 殺す依頼、守る依頼

 マリリンは再び忠也の元へと戻って来た。


 「あ、戻って来たー。じゃあ戻ろー」


 「・・・うん!そうしよ!」


 マリリンは明るく振る舞った。忠也はさっきまでの違いを感じたが、口には出さなかった。


 「じゃあ、かくれんぼ続きねー」


 「あなたには負けないわ!最後に残るのはわたしよ!」


 忠也とマリリンは公園に戻った。タマはサナとルナを見つけ、遊具の下などを探していた。


 「じゃ、ここからは勝負よ。先にあのお兄さんに見つかったら負けね」

 

 「いいよー」


 こうして二人のかくれんぼ対決は開始された。




 「見つかったぁ・・・」


 一分もしないうちにマリリンはタマに発見された。


 「君、なかなか隠れるの上手だね。俺がここまで手こずるなんてさ、凄いよ」


 「でも、チュウちゃんは見つかってないわ」


 「そうなんだよねぇ。どこに隠れてるんだ?まさか外に行ってないよな」


 マリリンはさっきの忠也の話を思い出し、ほくそ笑んで、タマにアドバイスをした。


 「隠れるのなら、探す人を見失ってはいけない。常に見える位置にいる事が重要」


 「ん?なにそれ」


 「さっきチュウちゃんがそう言ってたの。だからきっと今もどこかで見てるんじゃない?」


 タマはその事を聞き、自分の愚かさに気が付いた。子供だからと忠也を舐めてかかっていたことを後悔した。忠也の存在はあの年になるまで誰にも気付かれなかった。それは、忠也の父親の深夜が逃亡を繰り返す生活をしていて、逃亡に関しては天才的だったからだ。


 「くっそ、マジか。だったら・・・俺も本気だそ」


 タマは本当に真剣になった。


 「今の情報、常に見える位置・・・相手の思考を読め、相手を子供と思うな・・・ここだ!ありゃ?」


 タマが決めた場所には忠也はいなかった。いや、読み通りいるにはいたが、忠也は一瞬の隙を見つけタマの後ろの木に回っていた。


 忠也は手をマリリンたちに手を振った。


 「うーん、ここじゃないとすると・・・」


 忠也は常にタマの後ろ十メートルほどに隠れ、行動した。勝負は忠也の圧勝だった。


 



 「あ、そろそろ戻るよー」


 タマはそろそろ住民の登録が終わる事を見越して、忠也を呼んだ。


 「分かったー」

 「うおっ!」


 タマは突然後ろに立っていた忠也に声をかけられ飛び上がった。


 「まさか、最後まで見つけられないなんてね。俺の完敗だ」

 

 「えへへー」


 「さて、マリリンちゃんだったね。俺たちそろそろ行くから、気を付けて帰るんだよ」


 「分かりましたわ」


 タマとマリリンが分かれる直前に、零が公園に現れた。


 「あ、アニキ。どうしたんです?」


 「あぁ、ここらへんで女の子を見かけなかったか?黒い髪で、その中に赤い髪がまざっ・・・た・・・」


 零は視線を落とした。目の前に特徴が一致した人物を見つけた。予想外過ぎて言葉が無くなった。


 「おいタマ。この子は?」


 「この子?マリリンちゃんですよ。さっきまで俺たちとかくれんぼしてたんです。この子がどうしたんです?」


 「はぁ・・・どうやら、俺の早とちりだったみたいだな・・・」


 零は事情をタマにだけ聞こえるように言った。




 「えっ!?マリリンちゃんが昨日のゾロアス家の子なの!?」


 「あ・・・バレてしまいましたか。嘘をついて申し訳ありません。実は、わたくしマリリン ゾロアスと言います。シャイニー ゾロアスの娘です」


 マリリンは観念したかのように、丁重な挨拶を零たちにした。


 「にしても、珍しいですね。アニキがこういった他人の事情ですぐ動くなんて、俺は考えなしに動いて良く迷惑かけますけど・・・何かあったんで?」


 タマは零の行動の速さが気になった。いつもの零は、本当に動くべきかしっかり考えて行動する。しかし今回は行動に移すまでが異常に早かった。零が息を少し切らしていたのが、タマにとって証拠となった。


 「あぁ。さっき妙な男とすれ違ってな。あいつは恐らく殺し屋だ。しかも、超が付くほどの凄腕の奴だ。何か関係があるかもしれねぇと思ったんだ」


 マリリンは零の話が耳に入り、思わず体が跳ね上がった。


 (ちょっと、この男なに!?一目で青薔薇を見抜いたの!?)


 「ん?どうした?」


 零はマリリンの反応を見逃さなかった。マリリンは何とか誤魔化そうと考えた。


 「い、いえ。殺し屋がいると聞こえて驚いてしまいまして・・・それなのにわたくしは勝手に家を飛び出てしまい、申し訳ないと・・・」


 (うん、この説明なら誤魔化せそうね)


 マリリンは自分の嘘に確信を持てた。

 

 「・・・」


 「な、なんですか?」


 「いや、何でもねぇ。とりあえずさっさと帰りな。ゾロアスの奴ら以外にも大勢があんたの捜索に出ている。これ以上は迷惑をかけるな」


 零はしばらく黙っていたが、マリリンに戻るように促した。


 「はい、見ず知らずのお方にも迷惑をかけてしまったみたいですね。申し訳ありません」


 少しもしないうちに、シャロウとハチがやって来た。


 「お嬢様、ようやく見つけましたよ。でも一体なぜ突然家を飛び出したのですか?」


 「一度だけ、やってみたかったのです。シャロウがいない今日なら抜け出せると思いまして・・・でも、もう二度といたしませんわ。わたくしの勝手がここまで迷惑をかけてしまう事がよく分かりましたから」


 「そうですか・・・私から咎めは致しませんが、お父様にはしっかりと謝りに行きますよ。多分私も含め反省文ですね」


 シャロウは冗談交じりに笑った。その姿を見てマリリンも少し笑った。




 しばらくしてから、ゾロアス家の面々がこの公園にやって来た。


 「では、お嬢様をお連れして下さい。私は少しこの人たちと話す事があるので」


 シャロウはマリリンを別の人物に渡した。マリリンはそっちへと向かおうと思ったが、その前に忠也たちの方へと振り返った。


 「かくれんぼ、楽しかったわ。今日はありがとうね、チュウちゃん」


 「また遊ぼうねー」


 忠也はマリリンに手を振った。マリリンも小さく手を振り返し、そしてそのまま帰った。


 



 「さてと、またあなたたちに助けてもらいましたね。なんとお礼を申し上げていいのか」


 「いや、それはいい。ところで話ってなんだ?」


 零の質問にシャロウは真剣な顔つきになった。


 「実は今日、脅迫状が届いたのです。明後日のパーティにて、マリリン様を殺すと、それがあったのでウィング家もひっくるめての捜索になっていたのです」


 「それは、穏やかじゃないな。タイミングも妙だ・・・兄貴、どうします?」


 零は考えるまでもなかった。既にやる事は決まっている。


 「どうにも、俺たちは相当デカい事件に首を突っ込んでるのかもしれねぇな。ここまで来たら最後までやらねぇと。この件と昨日の件、関連は薄そうだが引っかかるところもある。シャロウ、協力させてくれないか?」


 「ありがとうございます!実は、話というのは昨日の一件であなたたちに関心したシャイニー様が、この件にあなたたちの協力を仰ぎたいとの事なのです」


 流石にこの事は予想しなかった申し出だった。


 「あぁ、だが、俺たちだけで行動させてくれないか?俺たちにも少し事情があってな」


 「構いません、協力してくれるのならばどのような形でも良いとの事ですので」


 零とシャロウは互いに握手をした。


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