第12話 惑わしの行方不明者
零たちは役場に着き、住民票を受け取った。
「これが住民票になりますね。にしても、記憶喪失の人同士が出会って、ここまで共に旅をしてきたなんて、ドラマチックな話ですね」
一応村の人には全員が記憶喪失で、それで当てのない旅をしていたと説明していた。ので、零たちが別の世界から来たと知る者は、ホシ、そしてサナとルナの3人だ。
そしてアマナ以外、つまりタマやハチについての戸籍は一切ない。その為村長はかなり苦労していた様だ。目に少しくまがある。
「あなた方もいつか故郷が見つかると良いですね、何もないこの村ですが、良ければ第二の故郷と思って下さい。私たちも、及ばずながら協力いたします」
「感謝いたします」
「かたじけないってやつだねー」
それぞれ感謝の言葉を述べた。その後は色々と細かな話になっていったので、忠也とサナとルナは遊びに行った。念のためにタマが子供3人に付き添った。
「タマ兄もあそぼー」
「あそぼ!あそぼ!あそぼ!」
「はやくいこ!はやくいこ!」
「はいはい、そんなに走らないで」
「・・・という感じになりますね、はい。では、私はここセイアン村の村長、ファルコと申します。ようこそセイアン村へ!ってね。一応形だけでもやらせて下さい」
村長のファルコは、マニュアルで決まっている移住者への言葉を送り、話を締めた。
零たちは役場から外に出ようとした。その時だ。
「すみません!!シャロウはお見えになりますか!?」
一人の男が息を切らしてやって来た。
「ん?お前は確か昨日、あの店にいた・・・」
零はその人物を思い出した。昨日のパーティに出席していた男の一人だ。男は零を見て駆け寄った。
「あ、アマナさん!昨日は申し訳・・・じゃない!シャロウを見かけませんでしたか!?大変なんです!」
「落ち着け、シャロウは昨日のマスタードって店にいるが、一体何があったんだ?」
「す、すいません。わたくし、ウィング家に仕える一族の一人のトキと申します。実は、ゾロアス家の一人娘のマリリン様が今朝から行方不明らしいのです。いくら探しても見つからないとの事で、本日非番のシャロウを急遽呼んでくれと、共に捜索に出ていかれた我が主に言われたので来たのです。あぁマリリン様、何処へ・・・」
「そうか・・・仕方ねぇ、ハチ、手伝うぞ」
零の提案にハチは驚いた顔をした。
「珍しいですね。他人事に首を突っ込むなんて、兄貴、何か気になる事でも?」
「あぁ、少しばかり嫌な予感がしてな、さっきここに来るとき殺しの匂いを纏う奴とすれ違った。昨日の事件、そしてその後のこの状況、もしかしたら繋がってるかもしれねぇ」
「嫌な予感って言うのは大体当たりますからね・・・トキさん、俺たちも捜索を手伝います。あなたはシャロウの元へ向かってください。で、そのマリリンさんというのはどんな人物なのですか?」
「はい、ゾロアス家は代々、真っ黒な髪の毛の中に真っ赤な色の髪が混ざった髪をしているのですぐに分かると思います」
「赤い毛の混じった黒髪ですね。わかりました」
零たちは情報を元にマリリンの捜索を始めた。
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一方そのころ、タマたちは・・・
「サナちゃんみーつけたー」
「バレた、バレた、バレちゃった・・・」
忠也が鬼でかくれんぼを公園でしていた。その公園の茂みの中に彼女はいた。
「うーーーーーん・・・せっかく家を抜け出したのはいいけど、ココは一体何処なの?シャロウがいないからしばらくは騙せると思ったのに・・・捜索の開始が早すぎるわよ。しかも大人数で一人の女の子を探すなんてさ、迷惑もいいとこよ。おかげでこちとら身動き取れないし、道に迷うし、これじゃ遅れちゃう」
茂みで隠れていた女の子はぶつぶつと何かをつぶやいていた。この子こそがマリリン ゾロアスだ。
「みーつけた!ってあれ?」
「うひぃゃあ!!」
マリリンは突然後ろから声をかけられて変な声を上げた。
「ルナちゃんかと思ったら違った。君はここで何してるのー?」
見つけたのは忠也だ。忠也は不思議そうにマリリンに尋ねた。
「いや、あの、わたくしは・・・」
「君もかくれんぼして遊びたいの?」
「そ、そんな訳ないじゃない!そんな子供みたいな遊びだれがしますか!」
「ふーん、君子供じゃないの?おれとおなじくらいにみえるけど?」
「わたくしはあなたとは違うのです!わたくしはマリリン ゾ・・・」
マリリンは自己紹介をしかけて止めた。忠也は首を傾げた。
(しまった、わたしとしたことが。堂々と自己紹介してどうすんのよ。それにむしろ、敵意を向けるよりも、ここは社交的に接したほうが絶対にわたしの為じゃない)
「マ、マリリン!!」
「へー。おれ、忠也だよー」
「じ、実はさっきから見てて一緒に遊びたいなー、なんて・・・」
(ここはがまんよ、マリリン。この子を利用して何としてでもあの場所に向かうの)
「じゃ、一緒に遊ぼー。タマ兄!ちょっと最初からやり直しにしよー」
忠也は仕切り直しを提案した。
(なんで大人を呼んだ!ふざけるな!わたしの正体バレるじゃない!!)
「君、ここの子?良かったら一緒にかくれんぼしない?」
タマはルナを連れて隠れた場所から出てきて、マリリンに丁寧に接した。
(あ、あれ?この人、気が付いてない?というか、この町にこんな人いたっけ?これは、ラッキー)
「そ、そうなの。あなた、ここあたりでは見ない顔ですね。引っ越してきたの?」
「んー、まぁそんな感じかな?よろしく。タマって呼んで」
「わたくし、マリリンと申します。以後、お見知り置きを」
「凄い丁寧なあいさつだね。もしかして、貴族の子?」
(ギクゥ!!しまったぁ、いつものノリで挨拶しちゃった~。苗字は辛うじて防げたけど、これはマズイ)
「い、いえぇ?わたしはそこら辺の一般市民ですわねー!?」
「は、はぁ」
タマは不思議に思いながらもとりあえず納得した。全員そろったので、かくれんぼの鬼を決めることにした。
「げ、鬼は俺かよ。仕方ね、いくよー!!」
「おに!おに!おに!」
「かくれろー!かくれろー!」
今度はタマが鬼となった。全員一斉にそれぞれ散った。
(フフフ、大成功。ここの公園にはあいつらはいないみたいね。さっき外に出た時にようやく場所が分かった。後はあのお兄さんに見つからないように抜け出して・・・)
「あ、マリリンちゃんここにいたのー」
「ひゃいぃ!」
再び突然忠也に声をかけられ情けない声を上げた。
「そんな大声を出したら見つかるよー」
「わ、分かってるわよ。いきなり声掛けるからビックリしたの!」
「それはいいけど、多分そこじゃすぐに見つかるよー?」
マリリンは再び茂みに隠れていた。バレないようにひっそりと完全に隠れているつもりだった。
「ここなら大丈夫でしょ。あなたこそ見つかるわ。そんな風に立ってたら見つけて下さいって言ってるものよ」
「違うよー、おれ見てるんだ。タマ兄をね、かくれるってのはねー、探す人を見失っちゃダメなの。常に見える位置にいる事が重要なんだよー。この一定の距離がさ、見つからないひけつなんだよー」
忠也の隠れ方にマリリンは、ひどく感心した。そして、ある事を忠也に聞いた。
「ねぇ、実はあそこの裏に行きたいんだけどさ、ここの誰にもバレずに行く方法はある?」
「んー?あの裏?なにかあるの?かくれんぼはここの公園のなかだけだよー」
「分かってるわ。でも行かなきゃいけないの、ね?行ったらすぐに元の場所に戻るから」
「うーん、良いよー。ついて来てー」
忠也は少し迷ったが了承した。
(よし、これであそこに行ける。あの裏のすぐ近くが目的地)
「えっとね、ここは素早くねー」
「わわっと!」
忠也は素早くタマの目を盗み別の木に隠れた。タマはその時の物音を聞き、そこの近くを調べている。
「わざと音を立てるとさ、探す人はしばらくそこを動かななくなるよ。じゃあ次にこっちねー」
忠也はすらすらと公園内を動き回り、タマどころか、サナやルナにも見つからない道を歩き、公園の入り口にたどり着き、外に出た。
(さてと、後はあそこまで行けば)
マリリンが動こうとしたら、忠也はそれを阻止した。
「なにすんの!?あそこまで行けばわたしはそれで・・・」
マリリンは忠也を見て、言葉を止めた。さっきまではのんびりとした顔だったのに、今は真剣そのものだ。
「今はだめ・・・そこから人が出てくる、ほら」
忠也が指さした方向には、大柄の男が何かを探すように周囲を見渡しながら出てきた。
「うわ、見つかるとこだった。凄いね君・・・」
「あのさ、マリリンちゃんは一体あそこで何をするつもりなのー?」
「あなたには関係ないわ」
「ふーん、でもさ、それは本当に正しいって思ってる?すごく辛そうだよー?」
マリリンは忠也の思いがけない質問に困惑した。
「ひ、人の事に口出ししないでよ!」
「そんな事しないよー。でも、正しいって思ってないのならやめた方が良いと思うなー」
「どうしてよ」
「自分を偽って生きても苦しみしかないんだもん。その先に喜びは絶対に来ない、自分に正しく生きろって、おかーさんがいなくなる前にそうおれに言ったの。おれはそれを君に言いたかったの。君がここに行くことが正しいと思うならさ、今だよー」
忠也の声は相変わらずのんきな声をしているが、一つ一つの言葉はマリリンに突き刺さった。だけど、勝ったのはマリリンの頑固さだった。
「間違っててもいいの、ここまでありがとうねチュウちゃん。すぐ戻るわ」
「はーい。ここで待ってるよー」
マリリンは路地に入っていった。
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ある路地の奥、青薔薇はフードを深くかぶり顔を隠し、そこで依頼主が来るのを待っていた。
「えっ・・・まさか」
共にいたケネスは、依頼主の姿を見て驚いていた。
「やはりそういう事か・・・なんだか違和感があるなと思ったら、、依頼主が標的だったなんてね」
「そういう事よ。依頼は、わたしを殺す事・・・お願いできる?」
「待て待て、正気かい?自分を殺すなんて・・・」
「ケネス、少し黙ってて」
青薔薇はケネスを牽制した。
「マリリンさん、依頼は受けよう。ただし、君の言葉を聞いてからだ、何故殺したいんだ?」
「あの一族を、貴族を壊すの。貴族なんてものがあるから、わたしは全てを奪われた。その復讐よ」
「ふ~ん、じゃあ、なんで俺を雇った?わざわざ他国の、一つの殺し方しかしない俺を・・・」
「あなただからこそよ、アダムスであり、そして胸に薔薇を咲かせるその殺し方じゃなきゃダメなの。わたしの目的は貴族の壊滅よ。
わたしが死んだ、殺した犯人は青薔薇。依頼人はだれか、わたしの周りの者は躍起になって探すわ。この国も、そしてアダムスも。でもその依頼人は分からない。後はもう簡単よ。わたしたちゾロアス家は、周りの貴族を疑いだす。それを匂わす準備はしてあるわ。そして疑われた貴族は当然否定して怒る。そうなるとその疑いはどんどん膨らんで、そして最終的には互いの家の潰しあいになる。こうなれば国王も黙っていないわ。そうなれば、わたしたち貴族の終わりよ」
「へぇ、貴族のお嬢様にしては深く読んでいるじゃないか。いいだろう、その依頼は承った。だが、キャンセルなら今だ。あんたの死で本当にそこまでに至る保証は無い。死ぬか、生きるか、よく考えろ。正しい選択をしろ。どれが一番あんたにふさわしいのか・・・」
マリリンは頭に来た。忠也と同じことを青薔薇も放ったからだ。
「いい加減にしてよ!!さっきの子供も同じことを聞いたわ!正しいと思う事をしろですって?私にとってこれしかないの!間違っててもいい。正直、未来がどうなっても構わない!ただ!もううんざりなのよ!自由を奪われ続けるのは!!!」
「はぁ・・・最初は貴族のお嬢様の世間知らずなわがままと感じてたから、正直依頼は受けないつもりだった。だが、そこまで言うのなら仕方ないな・・・本当にいいんだな?死ぬことを、受け入れるんだな?」
「えぇ、だけど実行は明後日でお願い。明後日はアダムスも含めた貴族のパーティがあるの。そこでわたしは踊りを披露することになってる。大舞台で死ぬ、わがままだけど、それでお願いできる?舞台だからこそ、影響は大きくなると思うの」
「確か、王室の連中も出席するんだったな・・・それでいて舞台でか、難易度は一気に高くなるな」
「お金ならいくらでも出すわよ」
「いや、据え置きでいい。むしろ燃えてきたな。こんな依頼初めてだからかなぁ、面白そうだって思ったんだ。マリリン、俺の名はルーアンだ。この二日はその名で呼んでくれ」
「分かったわルーアン。じゃあコレ、依頼金の百万ね」
マリリンは隠し持っていた百万を青薔薇の前に出した。
「あれ?桁が違うな」
「え?百万じゃなかった?一千万だっけ?」
マリリンが少し動揺した。だが、青薔薇の思いがけない行動に更に動揺した。青薔薇は札束の中から一枚だけ抜いてマリリンに戻した。
「今決めた事だが、殺しの依頼の金額は自分自身の場合はこれ一枚だ」
「な、どうしてそんな・・・」
「俺がそれが正しいと思ったからだよ、大体子供がこんな大金を持ち歩くな」
「ぐぬぬぅ・・・」
青薔薇は素早く路地の闇に消えた。マリリンは一人取り残された、だが、少し気分が晴れた。
「さぁてと、かくれんぼしよっと」




