第10話 全ての始まりを告げる
もうここまで来たらどうしようもない、いつかはバレるかもしれないが、とりあえずはアマナとして生きていこうと、零は決心したのだった。
「仕方ねぇ、ハチ、タマ、忠也もちょっといいか」
零は3人を呼んで内緒話を始めた。
「とりあえずは俺はアマナという事にしておけ、それと別の世界がどうこうといった話はややこしくする。一旦はここで情報を集める事にするか」
「それしかないでしょうね兄貴、つまりは、今日一泊するどころか、しばらくお世話になる事になりますよね・・・」
「さすがにホシさんに迷惑じゃないですか?」
「うちはいいよ」
気が付いたらホシは会話に参加していた。
「あんた達には感謝しきれないくらいさ。孤児院はいつでも使っていいよ、困った時はお互い様だ。それに、サナとルナ、相当あんたに懐いたみたいだしね」
サナとルナは今も零の肩から降りずに張り付いていた。
「うん!うん!うん!」
「おじちゃんすきだよ!おじちゃんすきだよ!」
「はぁ・・・」
零は少し溜息をついた。その直後だ
「アマナさん!!後ろ!!」
シャロウが突然叫んだ。
「アァマァァナァァァッ!!!」
凄まじい怒りの籠った叫び声を上げた。バリーは目を覚まし、頭が上手く回らない中一つの感情だけが噴き出した。バリーは手に持っていた瓶の欠片を零が振り返るよりも早く突き刺した。
零の背中から血が噴き出した。だが、零は表情を一切崩さなかった。
「バリー、最後はそれを選んだのか・・・」
零はそのまま左手でバリーの腕を掴んだ。そしてそのまま振り返った。
「ある意味見直したぜ。てめぇの正直さが、ボロを出さずに済んだことをな」
零はバリーの額を右腕で掴んだ。
「だから俺は最後に一発かます。この右腕でこの祭りは終わりだ!!!」
右腕を引き、最後に強烈な一発をバリーの顔面にくらわした。バリーはそのまま壁に激突し、今度は完全に気を失った。
『うおおおおおおお!!!』
周りが歓声に包まれた。
「アマナすげぇ!」
「あんた、そんなに喧嘩強かったんだな!!」
「この村の英雄の誕生だなこりゃ!」
「で・・・でも、怪我大丈夫なの?」
本当ならそこを気遣う所だが、そこを心配したのはホシだけだった。
「あぁ、わざと刺させた。少し気になる事があってな。俺たちがここに来た時から気になってたことだ、この世界に来た時、忠也やタマは大怪我を負っていた。だが、その傷は数分で元に戻った。俺も同じか確かめてみたんだ。答えは案の定、もう治っているみてぇだ。
刺された痛みは本物だった。だが、気が付くころにはその痛みは消え去っている・・・全く、訳分かんねぇ」
「そっか、良かった。その事とかも調べないとね。それこそここにしばらくいなよ。ここはアダムスとの国境近くだ。今なら結構簡単に行き来が出来る。拠点としては便利だよ」
「・・・はぁぁ、お世話になるしかねぇか。済まないが、しばらく頼む」
「あぁ、こっちこそ。よろしく、レイさん・・・いや、アマナ」
零は最後に一度大きくため息をついた。
「ところで、結局あんたは何者なんだ?」
ハチが思い出したかのようにシャロウに詰め寄った。
「そういえば、申し遅れましたね。私は代々ゾロアス家にお仕えしております執事、シャロウ ナローと申します。以後、お見知り置きを。
此度は、彼の悪事を暴くことにご協力いただき、心より感謝いたします、そして我らの無礼をお許しください・・・」
シャロウは丁寧に挨拶を申し上げた。
「そういう事か・・・なるほど、結局のところ、俺たちが行動しなくても解決は出来たのか。俺たちの早とちりだな」
「それは違いますよ。確かに、バリーがこのパーティを利用して悪事を働いているというところまでは行けました。でも、それだけでは根本的な解決は不可能でしょう。証拠が少なすぎた。だからこそアマナさん、あなたの存在はうれしい誤算だったのです。これで心置きなく事件を解決させ、ゾロアス家の名誉も守れると判断したのです」
零たちはようやく納得がいった。つまりは、シャロウは零たちよりも前に行動を開始していたのだ。だが、零たちが現れた事によって、シャロウは計画を変えた。それだけだ。
「シャロウは昔から鼻は利くのだが、どうにも問題の解決の為に周りを利用することも厭わない所があるのだ。今回もその様だったみたいだ。今一度、そなたらには礼を申し上げなくては、ありがとう」
シャイニーは再び礼を述べた。零たちは一同頭を下げたのだった。
しばらくしてバリーは拘束され、地元の警察に連行された。
一件落着、そう思いたかったがそうもいかなかった。まだ腑に落ちない所があったからだ。
シャロウは零たちを呼んだ。なにやら重要そうな顔つきだったので、サナとルナ、そして忠也をホシに少し預けた。
「先ほどはああ言いましたが、私の本当の目的をお伝えします。この事件はバリーの単独の事件という事になってしまいましたが、実際はそうではないのです。私は、その裏を調べておりました」
「シャロウ、もしかして裏ってのは、サナとルナの事か?」
ハチもそこまでは行き着いていた。この事件はホシではなく、実際はサナとルナを狙った周りくどく行われた事件だと。
「やはり、お気づきでしたか・・・ハチさん、でしたね。あなたの言う通りです、この事件はあの双子を狙ったものです。
バリーは昔からホシに気があった。歪んだ愛情でしたけどね。そしてその彼の心を利用し、彼を首謀者に仕立て上げ、サナさんとルナさんを奪う算段を立てていた。
私はバリーと共に行動すれば真の首謀者にたどり着けると踏んでいたのですが、結局、分からずじまいでした。ただ、手がかりを手に入れれたとすれば、この事件はもしかしたら、我々ゾロアス家、そしてウィング家が関与しているかもしれないという事です」
「ん?首謀者は分からなかった?シャロウ、お前はバリーと一緒に誰かと話していたが、そいつは?」
シャロウは少し考えたが、誰の事か思い出した。
「あぁ、彼ですか、あの人ならあそこにいますよ。シャイニー様の隣におられる方、名前はアサヒと言います。アサヒは、私の協力者でして、彼には真の首謀者の仲介役になっていこうと思っていたのですが、どうにも、首謀者は相当深い所にいるようで、あぶりだす事はできませんでした」
「この事件、簡単には終わらないって事か」
「そうなりますね、だから気をつけてください。しばらくは手を出さないでしょうが、いつかまたこの子たちを狙って動き出すはずです・・・やはりアマナさん、あなたはここにいなければいけないのかもしれませんね」
シャロウは冗談交じりで笑って見せた。対する零は溜息をするだけだった。
「それにしても、こんな回りくどい方法を使ってあの子たちを手に入れたいって、一体サナとルナの正体って、何なんでしょうね」
「さぁな、だが分かるのは、貪欲な大人どもの争いに子供が巻き込まれたって事だ」
「そうですね、だったら守らなくちゃいけないですね。アニキ」
零は、やれやれと頭を振った。
「そうだ、せっかく村の全員が集まったのだ。ここは、アマナさんの帰還記念として、仕切り直しましょうか。貴族と一般市民が交流しあう事も、これからの時代大切な事です。マスター、村長殿、よろしいか?」
シャイニーは仕切り直しを提案した。村長は快く承諾し、事件の中、グルっと店の周りを回って入り口に来ていたマスターも、乗り気になっていた。
この日の夜は、貴族と庶民が一つになって盛り上がっていた。これは単なる偶然だったが、その立役者は紛れもない零だ。この日以来、零は・・・アマナは、一つの伝説として語られることになった。
ここから始まったのだ。平和を願いし者たちの闘いは、ここから始まった。




