異世界戦争番外編~疾風が戻らなくなりました。~
兄弟達にも彼らにも恋人がいます!いや、出来ました!
「ガウ」
「………………疾風兄?」
「ガウ」
「「「………………え?」」」
目の前にちょこん、とお行儀良く座っている白虎。その白虎はまさに三兄弟、万象 四季・空雅 海・六花 左眼丸の上にいる三番目の兄・疾風が〈力〉で変化した白虎だった。疾風であろう白虎は座っているのが疲れたと言わんばかりに姿勢を崩すと、ドカッと横になり、組んだ前足に顔を乗っけた。もふもふが好きな海は今すぐその態勢の疾風に飛び付こうとウズウズしている。がそれを左眼丸が腕を掴んで止めている。
「疾風兄、どうしたの?戻んないの?」
「ガウ」
「いやガウ、じゃなくてさ?!」
「……戻らなく、なった……とか」
「いやいや~左眼丸、それはないでしょー……ないよね?!」
「オレに聞かないでくんない?!」
四季と海がギャーギャーと言い争う(?)前で一向に姿を戻さない疾風は、めんどくさそうに顔を背けた。
「嗚呼、もうそんな時期か」
「「へ?」」
そんな時期、その納得したとでも云う感じの声に三兄弟が振り返れば、一番上の兄・三日月 響と二番目の兄・桜舞 夜征がいた。響はクスクスと笑い、夜征は困ったような表情で笑う兄を見上げている。
「どういうこと?響兄」
「疾風はね、ある時期になると白虎の姿から戻らなくなるんだよ。その時期が今」
「……冬、だと?」
「ガウ!」
響の説明と左眼丸の答えに疾風が「そう!」と言うように吠えた。確かに今は冬だ。外では雪がずっと降り続いており、雪掻きをしながら昨日まで疾風と一緒に遊んでいた。かまくらも作った、良い出来だった。なのに突然?てかなんで冬?
四季と海は「なんで?」と云う疑問に満ちた表情を疾風に向け、喋れないと判断したのか兄二人の方を左眼丸と共に振り返った。
「なんで冬?昨日まで雪合戦して遊んでたのに」
「そうだよ。なんで突然?」
「耐えきれなくなったんでしょう。寒さに」
「「「寒さ?」」」
夜征の言葉に三兄弟の声がハモる。疾風はふい、とそっぽを向いた。
「疾風は冬の寒い時期になると白虎の姿になるんです。体内温度を調整するために。逆に夏の暑い時期には白虎になれなくなります」
「マスターが説明しても最初はわかんなかったんだよな。もう慣れたけど」
そう言って肩を竦めながら、響は疾風の頭を撫でた。疾風は気持ち良いのか、軽く喉が鳴っている。そう言えば、三兄弟は初めてだったかと、内心納得した。
「なんだーそういう事か。安心したぁ」
「え、じゃあさ、疾風兄ずっと今日このまま?!」
「不便……」
三兄弟が口々に言い出す。夜征がクスリとその光景に微笑ましそうに笑いながら説明する。
「海の疑問から答えますと今日一日ずっとこのままです。食事等は摂らなくても大丈夫なので明日まで疾風はずっとこの姿のままです」
「じゃあ、もふって良い?!」
目をキラキラさせて海が夜征を見上げる。夜征がチラリと頭を撫でられていた疾風を見るとパシパシ、パシパシと尻尾が畳を叩きまくっていた。嫌らしい。その返答を「だそうです」、と海に示すと彼は「えー」と明らかに落ち込んだ。それを左眼丸が慰めようとして、ぎゅーと抱き締める。滅多にそんな事を左眼丸はしないー発端はだいたい四季か海ーので恥ずかしいのか、頬が紅く染まっている。海がぎゅーと左眼丸を抱き締め返す。兄弟二人だけでズルいと感じた四季が二人一気に抱き締め、押しくらまんじゅう状態が出来上がる。三兄弟の仲の良さをはからずも見せられた気がして響も夜征も優しく笑った。と、夜征の手に疾風の白虎の尻尾が滑り込んで来た。尻尾は器用に夜征の手に巻き付く。
「?疾風?どうしました?」
「……ガウ」
「…嗚呼、なるほどなるほど。羨ましいんだね?疾風」
「ガウ!」
響がニヤニヤと維持の悪い顔で言えば、彼ー彼…?ーはそう叫んだ。響の言い分が当たったらしい。可愛らしい弟の嫉妬に夜征は一瞬キョトンとしたが、すぐに口元を押さえて笑った。そして疾風の尻尾に導かれるまま、彼の前に両膝をつくと疾風の頭を撫でた。疾風は嬉しいのか、先程のように喉を鳴らした。と響が思い出したかのように言う。
「はは、嬉しそうだね疾風。あ、そう言えば、今日の夕食どうする?」
「あ…疾風兄、このまま…だから、か」
「オレ、ちょっとなら出来る!疾風兄の手伝いの成果!ドヤァ」
「四季に同じく!ドヤァ」
「じゃあ、私と一緒に作りましょうか。兄さんは待機です。有機物を作りかねませんから」
「いつまでそれ引っ張るつもりだよ夜征!」
夜征のからかうような台詞に響がそう叫び、頭を乱暴に掻いた。その様子に四季と海が腹を抱えて笑い出すと左眼丸が釣られ、夜征も笑い出す。自身の料理の腕をからかわれた響は膨れっ面だったが、自分でもそれは理解しているので次第に笑い出した。白虎の姿で疾風も笑う。兄弟達の楽しそうな笑い声が響き渡った。
「おや、楽しそうだね。私も入れてくれないかい?」
そこへマスターが入って来た。外に出ていたのか来ているフードには微かに雪がつき、フードから覗いている鼻は少し紅く染まっている。赤い鼻のトナカイを思い出した。
「「「「「おかえり/おかえりなさい」」」」」
「ガウ」
「ただいま。おや、疾風はもうそんな時期か」
兄弟達が一斉にマスターを出迎える。響がマスターに近寄り、肩についている雪などをほろってあげると、さも当たり前のようにフードを外した。その中からは寒さで頬を林檎のように染めた女性が現れた。
「マスター…じゃなくて十六夜、まぁーたマフラーも手袋もせずに出掛けたんでしょ?駄目だよ」
「…………近場だったし」
「言い訳しない」
「…むぅ」
ぷくぅと紅くなった頬を膨らませるマスター。その姿がなんとも可愛らしい。それを見ていた海が悟りを開いたかのような、わかってたと云うような表情で言う。
「マスターも響兄も、僕らを気にせずにノロケ出したよね…」
「もう許可貰っちゃってるからね…」
「…いつもの、事…だろ?」
「「それな」」
左眼丸の言葉に二人がそう顔を見合わせて返す。マスターがそれを聞いて少々恥ずかしそうに頬を染めた。響は「何を今さら?」と云うように流し目で弟達を振り返る。
「俺は夜征達が来る前から十六夜の事、愛したから。恩人としても女性としても」
「っ、あ」
プシュー。そんな音がマスターの顔からしたような気がした。「兄さんがトドメを刺しました(棒)」と夜征が呆れたように言ったのに対し、響は笑った。当の本人、マスター・十六夜は恥ずかしさで顔を覆ってしまっている。耳の先まで真っ赤だ。そんな彼女の肩を四季が叩いた。十六夜がなに?と真っ赤な顔で振り返る。
「結婚式のドレスは任せてね!」
「なんでだ」
「あー!それなら僕もやりたい!宗近も入れてさ!」
「良いね!」
「んじゃ、俺……飾りつけ」
「だから一体全体どうしてそこまで飛躍した!?」
十六夜が思わず「何故だ!」と叫ぶと三兄弟はえ、とした表情で言い出す。
「追い討ち?」
「決定事項?」
「…………………」
「よーし、左眼丸が何故答えなかったのかは疑問だがそこまで云うなら合同結婚式にしてやろう」
ニィとからかわれた事の報復のように、十六夜が笑って云うと三兄弟が黙り、視線をさ迷わせた。十六夜、勝利。響が彼らの戯れ(?)を見て微笑ましそうに笑う。
「結婚が決定事項なのは承知済みですしね」
「十六夜も君達に愛する女性が出来て嬉しいんだよ。本当に合同にする?」
「大変な事になりますけど兄さん」
「ガウ!」
夜征が笑いながら言うと響がそう返す。ほぼ真顔で響に言い返せば、疾風が同意だと言わんばかりに声を荒げた。と、その時だ。スッパーン!と良い音を出して障子が開いた。
「ねぇねぇそろそろおやつの時間だけどさ、おやつの場所何処だk……疾風どうしたの?」
「宗近、先に行くな……って、どうした?」
「君達本当に仲が良いですね」
障子を開けて中に入って来たのは宗近と長光だった。二人は何故、疾風が白虎のままなのか疑問そうで同時に首を傾げた。その仲の良い光景に思わず夜征がそう言った。とりあえず、二人にも説明。
「なぁーんだ、そういう事かー」
「びっくりした…」
「ハハハ、悪いね。疾風は今声が出せn「四季を借りに来まし……ん?」「………………は?」…貴方達もか…」
十六夜の言葉を遮るように再び訪問者がやって来た。十六夜は頭を抱えてはぁとため息をつく。どうして一気に、一度にやってこない。説明する手間が、手間が!
「あ、五月雨と真守。実はかくかくしかじか」
「……なるほど」
「あ、分かったんだ!?」
四季が二人に説明する。本当に分かったかどうかは良いとして。元々、彼らとは敵同士だったにも関わらず、今ではこんなにも仲良くなった事が本当に信じられない。まぁ、性格が似ていたり容姿が似ていたり境遇が似ていたりしているし、同じ〈力〉を持つ兄妹に助けられたのだ。波長自体が合うのかもしれない。
「えーじゃあさ、おやつどうするの?あの子待ってるんだけど。台所って疾風の独壇場?だから」
「食べ過ぎってお菓子隠されるもんね!」
「!そうだよね!?僕達育ち盛りなだけだもんね!?」
「にしても食い過ぎだろ」
「ですよね」
何故かわからないが海と宗近が固く握手をかわした。それに長光と五月雨が呆れ顔で言う。宗近の云う通り、台所は今まさに寒さで白虎になってしまった疾風の独壇場である。十六夜でも兄である響と夜征でも疾風の恋人である人物にも、何処に何があるのか把握できていない。疾風は全て把握できている。食事の準備などはこんな大所帯なので誰でも出来、分かるような場所に物を置いているが、それ以外になると本当に疾風を頼らないと何もわからないのだ。十六夜はうむ、と響と顔を見合わせて考え込む。
「どうしたものか…」
「だいたいは読み取れるけど、細かい場所まではなー」
「一か八かで疾風の恋人呼びましょうか?」
「…夜征さんに賛成…」
「俺も…」
「ガウ!!」
真守と左眼丸が夜征に賛成する。が疾風はこんな姿を見られたくないのか、抗議するように尻尾を畳に強く叩きつける。その勢いに近くにいた四季と五月雨が驚いたようで肩が跳ねた。そんなに嫌かと十六夜が訊こうとして、あることを思い出した。
「あ」
「ん、どうかしたか?」
「貴方達のご主人を呼んで来てくれるかな?」
十六夜の言葉に宗近、長光、五月雨、真守はえ?と怪訝そうに表情を歪めた。
「なんで夕月夜呼ぶの?」
「私の記憶が確かなら、兄さんには動物の言葉を理解させる〈力〉があったはずだ。まぁ幼い頃の記憶だから自信はないが」
「……嗚呼、なるほど…なら、オレが呼んで来ます」
「お願いね五月雨!」
**
「それで俺が呼ばれたわけか。一日くらい我慢しろよ宗近」
「だってー!」
五月雨に呼ばれてやって来た十六夜の双子の兄・夕月夜はむーと膨れる宗近にそう言った。
「兄さん、私が考えている〈力〉は…」
「嗚呼、ある。久しぶりだから自信はないけどな。でも愛しい家族の頼みだし。それに愛しい我が子の腹事情もな」
「よ・け・い!!」
夕月夜がからかうように言い、それに宗近が反論する。夕月夜はケラケラと愉快そうに笑いながら、スゥと人差し指を夜征と共にいる疾風に向けた。
「〈通訳〉」
その指先から蒼っぽい色をした粒子が放たれ、疾風に吸い込まれて行く。成功か?と夕月夜が不安そうに十六夜と疾風の顔を見比べる。と、疾風の白虎の顔がいつものように、三兄弟命名の「稽古の鬼」顔になった。そう見えた瞬間だった。疾風の体が粒子に包まれ、いつもの少年姿に突然戻った。
「だからてめーら食べ過ぎだっつてんだろ!?」
「あれ?!疾風兄戻った?!」
「一日中、白虎の姿じゃなかったの!?」
元に戻った疾風がそう叫ぶと当然の疑問が叫ばれた。三兄弟や宗近達が一斉に夕月夜・十六夜兄妹と響と夜征を振り返る。一斉に振り返られたので少しびっくりした。
「一日中、そのままの姿だったはずですが…マスター?」
夜征が本当に困惑した様子で彼女を振り返る。十六夜はクスクスと悪戯が成功した子供のように無邪気に笑った。
「嗚呼、そうだよ。一日中白虎さ。ただし、疾風自らが体内温度の調整を行わない限りね」
「「「「え」」」」
「タイミング良く、疾風の体内温度調整が終わったわけだな。一本取られた」
間抜け顔を晒す彼らと納得したように口元に手を当て笑う夕月夜。夜征の視線に響は軽く肩を竦めた。
「…兄さん、知ってたんですか?」
「正確に云えば知らなかったよ。十六夜と疾風くらいじゃない?」
「あ、僕も今初めて実践した」
「「嘘だろ/嘘でしょう」」
「案外やれば出来るんだなー」とまさかの疾風の大胆な行動に兄二人は呆気に取られた。マジか。疾風はかくかくと首を回し、腕を回す。ずっと白虎姿でしかも初めて自ら体内温度の調整をしたため、凝ったらしい。
「ま、まぁ疾風兄が戻ったからいっか」
「そう、だな…」
「え、えーと、一件落着ぅ?」
我に返った三兄弟が顔を見合わせてながらそう言う。すると、誰かが笑った。耐えられん、と云うように。それに釣られて誰かが笑う。何がおかしいのかわからないまま、彼らは笑い合った。笑い終え、夜征が疾風の頭を撫でながら言う。
「まぁ今日は私達が夕食を作ります。疾風は休んでいなさい」
「ありがと夜征兄」
「えーと、オレらも手伝いだけど、夜征兄、何時から始める?」
四季がそう問うと彼はうーん、と悩み、時計に目をやった。もうすぐ三時。十六夜が提案、と云うように夜征に言った。
「おやつを食べてからにしてはどうだい?」
「!さんせーーー!!」
「お前は食いたいだけだろ」
片手を大きく挙げて宗近が言うと長光がズバッと言う。宗近が再び頬を膨らませた。夜征は十六夜の提案に同意のようで頷いた。
「そうですね、そうしましょうか」
「了解!なら、おやつ食べながら舞の相談しよっ!五月雨!真守!」
「分かりました…」
「うん」
「そうと決まったら、疾風、おやつ!」
「疾風兄はーやーくー!」
「え、ちょっ、海も近くんも引っ張んないでよ!」
そうと決まれば、こうしてはいられない。疾風を引っ張って海と宗近が「早く早く」と急かす。その後に舞の相談を始めながら四季と五月雨、真守が続く。
「だから食い過ぎだっての」
「……育ち、盛り…と云う、よりも…」
「……え、なんだよ?おい、左眼丸?」
「…………」
長光の独り言に何か知っているような意味深な返答を返した左眼丸。長光は驚いたように続きを促すが彼は何も言わずに部屋を出て行く。しばらくその後ろ姿を見た後、長光が追った。
「これは、他の人も呼んで来た方が良いですかね?」
「呼ばないと怒られるだろうけど、もう集まってんだろ」
夕月夜がそう夜征に言う。そして、ポン、と肩をすれ違い様に叩きながら言う。
「手伝う」
「!ありがとうございます」
その一言で夜征は全て理解したらしく、小さく笑いながら後を追う。残された十六夜と響は唐突に顔を見合わせる。
「本当、仲良くなったものだね」
「はは、そうだね」
十六夜と響はごく自然に手を繋ぐと指を絡ませる。響が彼女の頭に軽く口付けを落とすと十六夜は嬉しそうに、それでいて少し恥ずかしそうに身を捩らせた。
「十六夜ー」
「兄さん、早くしないと全て食べられてしまいますよ」
先に行った二人の声が聞こえる。二人は笑って、彼らの元へと向かった。
此処は、笑い声が響く屋敷。様々な形を持った者達とその者達の愛しき者達が暮らす異世界。
さあ、彼らの幸せを願い、御手を拝借?
発端は暇で見ていた某2.5次元ミュージkそんな事どうでも良い?はい、わかってますよ言いたかっただけです!いや、見てたら思い付いたんですよね。きっとこいつらは、こんな感じで過ごしてるんじゃないかなって!てことで、改めましてどうも!久しぶりにこいつら書けて嬉しい作者です。
いつまでも笑顔だと嬉しいなぁ…
読んでくださいましてありがとうございました!