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鈍い感情

 今日の出来事があって、薫はずっと部屋にこもっていた。明日土曜日。休みなので薫は夜遅くまでテレビを観ていた。時計の針はもう、深夜一時を回っていた。

 薫は声を上げてテレビを観ていると、窓を叩く音がした。薫の部屋は二階なので窓を叩くのは美咲ぐらいだ。いや、美咲しかいない。

 薫は面倒くさそうに立ち上がりカーテンを思いっきり捲った。そこには案の定、美咲の姿があった。美咲はこちらに気づいてくれた事を嬉しそうにして微笑んでいるのが、部屋の明りで分かった。

「何の用だよ、こんな時間に」

 薫は窓を開けた。

「いや、薫のその面白い笑い方が聞こえたから、起きてるんだなって思って」

「うっせーな。悪いな、近所迷惑で」

 薫は窓を閉めようとすると、美咲は慌てた様子で薫に謝った。

「ごめんって!」

 何だよ、コイツ……。

 薫はそう心の中で思いながら、窓を閉めるのをやめた。

「で、何の用なの」

 美咲は思い出したように、「そうだった!」と声を張り上げた。

「馬鹿、お前。今何時だと思ってるんだよ」

 薫が自分の親が起きたんじゃないかと思い、さり気無く後ろを振り向く。ただ底に移るのは、見慣れた扉だけだ。

「ごめん……あのね、今日の事……」

「今日の事?」

 そう言うと、美咲は「うん」と頷いた。薫には今日何があったかよく憶えていなかった。ただ始業式をサボって屋上で美咲と話して、それから家に帰った。それだけしか思い浮かばなかった。

「ほら、あの屋上で。私ちょっと悪かったなーって……」

 最後は言いづらそうにしていた美咲だが、薫はポカンと口を開け、困りながら話している美咲の顔をずっと見ていた。

「な、何……」

 その薫の視線に気づいた美咲は驚き戸惑う。

「お前、何について謝ってんの?」

「え? 何についって……ほら屋上で……かおちゃんって言ったじゃん私」

 薫は、そんなくだらないことを気にしていたなんて思いもしなかった為、つい噴出してしまった。

「ちょ、笑わないでよ!」

 美咲は、薫が気にしていないことをしると今まで自分のやった行動と思いが恥ずかしくなったのか、赤面した。

「馬鹿だな、ほんと」

「もう、そんなに笑わないでよ」

 薫の笑はしばらく止まらなかった。美咲の顔を見ては笑い、その繰り返しだった。たまに美咲もつられて笑っていた。

 それから二人は、グチやくだらない話をして笑っていた。

「今、何時だろ?」

 その美咲の言葉に、薫は時計に目を向ける。そして薫はその時計の針の位置を見て笑いながら驚く。

「おい、やべーぞこの時間」

 その薫の言葉に、美咲も自分の部屋にある置き時計に目をやった。時計の針は、三時を通り過ごして、もうそろそ四時になるところだった。そういえば、周りも薄っすらとだが明るくなってきていた。

「明日が休みとはいえ、こんな時間はそろそろやばいぞ」

 薫がそういって窓際に体重をかけていたが、体勢を立て直した。

「そうだね。でも時間立つの早いなーまだ何も話してないような感じだった」

 クスクス笑う美咲。薫はそんな彼女を見て胸に圧し掛かる何かを感じた。

 薫はそんな彼女から目を離せないでいた。

「薫? どうしたの」

 そんな彼女の尋ねに、視点があっていない薫は曖昧な口調で答えた。

「ああ、うん。大丈夫」

 美咲は薫をしばらく不思議そうな目で見つめていたが、やがて口を開いた。

「そっか、じゃもう寝よう」

 美咲はずっと椅子に腰を下ろしていたが、そういいながら立ち上がった。

 やっと我に返ったという感じの薫は美咲にこうつげた。

「おやすみ」

 美咲は一旦驚いたような表情を見せた。まるで薫から「おやすみ」と言われた事に驚いているようであった。確かに今まで薫は彼女に「おやすみ」などという優しい言葉は、一度も書けたことが無かった。

「うん、おやすみ!」

「悪い夢を見ろよー」

 薫はふざけて美咲にそう言うと、美咲は負けないという表情で

「そっちこそ!」

 と窓を閉めたのだった。薫はその行動に失笑すると、美咲は舌を出してこっちを向いていた。

 そして薫の頭に、小さい頃の記憶が蘇った……。

『あんたなんか……!』

 薫はその言葉の先をいつも思い出せてないでいた。よほど小さい頃に受け取った言葉だからだろうか。

「じゃ、もう寝るね。おやすみ」

 窓が閉まっているので、聞きづらかったが確かに彼女はそう言った。

 薫は美咲がカーテンを閉め、部屋の明りが漏れなくなってもしばらくその場に立ち尽くしたままで、圧し掛かってきた思いと、昔受け取った言葉の先の正体を懸命に探っていた。フッと気がつけばもう完全に朝陽は登っており、明るい太陽の光が天窓から薫を照らしたのだった。

 明るくなってから薫はベッドに入って目を瞑ったのだが、二つのことを同時に考えてしまって中々寝付くことが出来なかったのだった。


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