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ルシウスの話

「ルシウス、好きよ」

またいつもの通りリリが俺の部屋にやってきてこういった。

「ああ、知ってる。今大事な研究中なんだ、あっち行っててくれ」

リリの悲しそうな後ろ姿を見て、少し罪悪感を覚えたが俺は実験をつづけた。


リリが俺のことが好きだなんてそんなこともう10年以上前から知っているし、これからもリリは俺のことを慕い続けてくれるだろう。

そんなわかりきったことよりも今はこの研究が大事だ。

この研究をリリの誕生日までに成功させれば、リリを嫁にすることができる。

「後もう少しでリリが手に入るんだ」


俺はリリが好きだ。

初めて見たときに、リリの蜂蜜のような綺麗なブロンドの髪と可愛らしい笑顔に一目ぼれをした。その後も、「ルシウス、好きよ」と自分を慕ってちょこちょこと自分の後ろをついてくる少女が可愛くて仕方がなく、自分のお嫁さんにするのは彼女しかいないと思った。


「おい、ルシウス」

リリの12の誕生日にリリの兄、リッターが俺の家に来た。

「お前、家に引きこもってばかりじゃねえか。そんな将来リリを養っていけるかもわからないような奴認めないぞ。妹は絶対にやらん」

俺のいる村では、半自給自足の生活を送っている家がほとんどでどれだけ農作物をたくさん育てられるか、美味しく育てられるかで男の甲斐性が決まるのだ。

だが、俺はこの村では非常に珍しい農作よりも薬草の研究を生業とする家庭だった。リッターもそのことは知っているだろうが、重度のシスコンの彼にとって重要なのは将来リリが幸せになれるか、ただそれだけなのだろう。

「お兄さん「俺はてめえの兄じゃねえ」

「すみません、リッターさん。俺は薬草研究を生業とする家庭に育ち俺自身も薬草の研究を続けていくつもりです。どうすれば認めていただけるでしょうか」

「この村ではあまり薬草や薬品は重宝されていないからな、はっきりいって俺は薬草のことなんざよく知らん。だから薬草のことをよく知らない俺や村の人が納得のいく成果を見せてみろ」

リッター本人だけではなく村の人にも認めてもらえる薬を作れとは、何とも妹の幸せ第一と言い張るリッターらしいと思った。

「わかりました」

「とはいえ、期限がないとリリが困ってしまうからな。期限はリリの16歳の誕生日までだ」

「何、案ずるな。もし、お前が成功しなくても俺が可愛いリリを養っていくからな。ではな」


まずい。あの人に俺を認めさせないとリリとは結婚できない。ある意味リリの父親よりも厄介な人が出てきてしまった。


それから、俺はこの村でも役立つような薬品の研究を始めた。俺の専門は毒と薬。主に冒険者が使う毒消しや回復薬を生成していて収入はそこそこもらっているほうだ。だが、この村ではそんなものは使わない。この村で重宝されるものといえば風邪薬くらいだが風邪薬はすでに村中に浸透している。そこで俺は、筋肉の緊張を和らげる薬を生成することにした。これならば、お年寄りが多いこの村でも風邪薬と同じくらい重宝されると思ったのだ。


薬の生成はリリの15の誕生日に成功した。何人かの顧客に試してもらったところ効果が見られたので成功したと思い、リッターに見せに行った。

「そうか。だが、使ってみないとわからない。俺と親父とお袋、それにじーさんとばーさんが試してみる」

「わかりました」

俺は自信があったのでさっそく用意した。


結果は、リリの兄、父の2人には効果が見られたが、残りの3人には効果が見られずそのうちの2人に至ってはかぶれてしまったのだ。

「俺には効いたし体がだいぶ軽くなったからお前の研究自体は認める。だが、半数に効果が見られないようでは村の人にも認めてもらうことはできないだろう」

今回、効果が出なかったのはリリの母、祖母、祖父。リリの母は、あまり体に痛みを感じないといっていたからそもそも薬を与える対象にならなかったのかもしれない。問題はリリの祖父母だ。彼らはリリの母とは違い腰の痛みを訴えていたのにもかかわらず効果が見られず肌がかぶれてしまった。これは、年代によって薬品の量を分ける必要があると感じた。


残り1年の間は、薬品の量や使う薬草の変更を行っていた。

手ごたえはあった。この調子で詰めていけばリリの16の誕生日には間に合う。

しかし、期限に近くなるにリリがよく俺のもとを訪れるようになった。


「ねえ、ルシウス」

「ああ」

「好きよ」

「知ってる」

そんなの知っているさ。

「ねえ」

「いい加減にしてくれ、この実験は絶対に失敗はできないんだ」

残り1週間しかないと焦っていた俺は初めてリリに向かって怒った。

「ごめんなさい」

泣きそうなリリを見て、自分の都合で怒ってしまったことを申し訳なく思いながら、俺は絶対にリリを手に入れてみせると誓った。

リリが近くに来ては気が散ってしまい集中できない。万が一それで期限に間に合わなかったらリリを一生手に入れられなくなってしまう。


そして俺は1週間のリリ断ちを決意して部屋の前に張り紙を張った。


「今日から1週間リリの入室を拒否する」



リリの16歳の誕生日まで残り1週間


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