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「ルシウス、好きよ」
「ああ、知ってる。今研究中なんだ、あっち行っててくれ」
ああ、また適当にあしらわれてしまった。
私が彼を好きになりアタックを続けてからもう10年以上になる。初めて会った時、彼のアメジストのような瞳に一目ぼれをした。あの瞳に見つめてもらえたらどれほど幸せだろうか。
彼に見つめてほしい。そう思ってアタックを続けてはきたがそろそろ自分が決めた期限の16の誕生日に迫ろうとしている。
「ルシウス、好きよ」
「ああ」
その日もいつものように告白をしていた。その帰りに村のおじさんたちが話しているのを聞いてしまったのだ。
「ルシウスとリリはまだあんななのか。そのうちリリが嫁ぎ遅れになっちまうぞ」
「全くだ。リリのおやっさんも頭を抱えているらしい」
「どうにかならんものか」
そうだった。うちの町、女は16歳で嫁ぎ遅れになるんだった。ルシウスに夢中になりすぎてすっかり忘れていた。都市のほうはまだ先だって聞いたことがあるけど、こんな田舎の村だと年の近い男女が結婚するから16歳を過ぎた時点から結婚できる相手がどんどん減っていくのだ。
しかし、この時点で既に村中の人はリリがルシウスのことが好きで頻繁に告白しているのを知っているのだ。
「もしかして、ルシウスに振られたら私嫁ぎ先ない?」
13歳になってやっと気づいたのであった。
だから、リリは16歳の誕生日が来たらルシウスのことをきっぱり諦め都市に出て働くと決めた。
幸運なことにリリには、すでに村の娘と結婚している兄がいたため家を守る役目は兄が引き受けてくれているし、孫の心配もないであろう。それでも、16歳の誕生日までは頑張ると決めたのだ。
「ねえ、ルシウス」
「ああ」
「好きよ」
「知ってる」
「ねえ」
「いい加減にしてくれ、この実験は絶対に失敗はできないんだ」
ついに怒られてしまった。ルシウスは呆れたり適当にあしらったりはするけれど今まで怒ったことなど一度もなかったのだ。
16歳の誕生日が残り1週間に迫っているからといって焦ってしつこくルシウスに話しかけてしまった。
「ごめんなさい」
リリは反省しながらとぼとぼと家に帰った。
「そうだ。今日のお詫びにルシウスの好きな木苺のタルトを焼きましょう。きっと喜んでくれるわ」
朝起きて、さっそくリリはルシウスの好きな木苺のタルトを焼きだした。木苺のタルトはリリが初めて作ったお菓子でルシウスが「うん」でも「ああ」でもなく「うまい」と言ってくれる唯一のお菓子なのだ。
「ルシウス、喜んでくれるかしら」
「今日から1週間リリの入室を拒否する」
ルシウスの部屋の前に貼ってあった紙を読んだリリは頭が真っ白になった。もう誕生日まで1週間しかないのだ。ルシウスが外出することはおろか部屋から出てくることはごくまれなことであり、期限までの1週間ルシウスの部屋に入れないということはほとんどの確率で期限までにルシウスに会うことはできないことを意味していた。
「ああ、もう無理なんだわ」
家に帰ってリリは泣き崩れた。最後の最後でアプローチの機会すらなくなってしまったのだ。一晩泣いたところで
「まあ、わかっていたことじゃない。決めたことだし、ルシウスのことはすっぱりあきらめましょう」
自分に言い聞かせるように何度も声に出してみた。
リリの誕生日まで残り1週間