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強欲と傲慢の武者

 要塞都市グランザルの中央に位置する王立図書館。

 そこに向かうまでの間、僕はひとりクラスメイトらのことを考える。


 この異世界に召喚された二十人のクラスメイト。僕の復讐のターゲット。

 すでに僕は二階堂、蓮見、大木、御坂、烏庭、扇の六名を殺した。

 手に入れた六つの召喚石のうち、大木から手に入れた亡者の石は僕と同化し体内に存在している。

 同じく冥王を倒し手に入れた王召石も同化。僕は亡冥の王者となった。


 僕や井上のようなレアなケースが他にないとも言えないが、基本的に他者の持つ石の能力は、他の者には使えない。

 つまり死者の言葉を聞けるのは、亡者の力のひとつである『口寄せ』だけで、それが使えるのは僕か、あるいは他の召喚石の力を使えるかもしれない井上だけということになる。

 もしも井上の言葉が本当で、彼女の目的が自分をいじめていた烏庭と扇に復讐することだとしたら。

 彼女は僕のことを他の・・クラスメイトらには・・・・・・・・・伝えていない・・・・・・可能性が高いだろう。

 だとしたら、ニーベルングの指輪と魔法の地図を持っているであろう秋山や、彼の招集に従う他のクラスメイトらは、こう認識しているのではないだろうか。

 『大木はまだ生きていて、冥王を倒し、王者の力を手にした』のだと――。

 

 学者の力を持っていた扇は二階堂、大木、蓮見が死んだことを知っていたようだが、それは学者の石の力によるものだと言っていた。

 彼女は宮殿を出発した後、秋山ら他のクラスメイトとこの世界で会っていたようだが、そのときはどうであったのだろう。

 三人が死んだことを他の者に伝えたのか――。

 それとも奴らに伝えずにその事実に怯え、井上に助けを求めてエルファランの街に向かったのだろうか――。


「あーもう、そんな辛気臭い顔をするなよホムラ。どうせ全員殺すのだろう? お前はもう無敵の王者なんだから、正面から堂々と向かってやっつけて、それでおしまいだろ?」


 僕の心を読んだメリルは、そのまま僕の背にしがみ付き、僕の頭を左右に振って遊んでいる。

 これはこれで彼女の愛情表現なのは分かっているのだが、考えごとをしているときくらい静かにしていて欲しい。


「メリルさん。他の者の力パーソナル使いの能力が分からないのですから、確実に彼らを殺すためにはじっくりと考える必要があるのですよ。王立図書館で調べることができるのは、持っている召喚石のみなのですし」


 僕の代わりにメリルを諭してくれるユーミル。

 『者の力パーソナル』――。

 個人々々に与えられた力がゆえの絶対条件。

 他者の能力を知りたくば、その者を殺し召喚石を奪うほかに方法が無い。


「だーかーらー、今がチャンスなのだろうって話をしているのだ! 相手が・・・王を倒し・・・・ホムラと同じ・・・・・・王者になったら・・・・・・・もっと大変だろう・・・・・・・・! その秋山ってニンゲンも仲間を集めて怪しい動きをしているのだから、さっさと女神の杖でビューンって飛んで殺せば良いのだ!」


 先ほどよりも強く僕の頭を左右に振り、叫ぶメリル。

 秋山時雨。『武者』の力を得た彼がこの異世界でしようとしている事――。

 確か、この世界を『攻略する』とかなんとか――。


王者の力マスター……? まさか秋山は、仲間を集めて集団で・・・王を撃破しようと・・・・・・・・している・・・・……?」


 『攻略』とはつまり、それぞれの者の力パーソナル使いが対応する王を各個撃破するのではなく。

 集団で協力し合い、仲間全員を・・・・・王者にする・・・・・という方法――?

 しかし、それでは女神との約束はどうなってしまうのだろう。

 ――いや、違う。

 秋山はもう・・・・・知っているのだ・・・・・・・

 女神との約束は・・・・・・・果たされることが・・・・・・・・無いことを・・・・・――。


「……メリル、君の言うとおりだ。このまま図書館に向かって手に入れた召喚石の力を調べたら、すぐに向かいたい場所がある」


「ほえ? 向かいたい場所……?」


 僕の頭から手を放したメリルは覗き込むように僕の目を見た。

 彼女の問いに答えるように、僕は自由になった首を縦に振る。

 そして後ろを歩くユーミルにも聞こえるようにこう言った。


「――女神が居た、あの宮殿に」





 王立図書館で調べた三つの召喚石の能力。

 それらをメモにとった後、僕は焦る気持ちを押さえ女神の杖を魔法の地図に振りかざした。

 僕の考えが正しければ、秋山は――。


 誰もいない図書館の中庭に広がる幾何学模様。

 次の瞬間、僕とメリル、ユーミルの三人は地図の中へと吸い込まれていった。


「けほっ、けほっ……! 何だ、この灰は……?」


 宮殿に到着した途端、メリルが薄目を開けて咳き込み始めた。

 ――いや、正確には宮殿らしき・・・・・場所に・・・到着した途端・・・・・・、が正しい。


「すべて燃やし尽くされておりますね。これはその『武者』の力を持つ者が……?」


「……それは分からない。秋山の仕業かもしれないし、他のクラスメイトの仕業かもしれない。これだけの広さの宮殿を消し炭にできる能力なんて想像もつかないけれど……」


 ユーミルの言葉にそう答えるしかできない僕。

 だが一つだけ確実なことは、秋山はもう知っていたのだ・・・・・・・

 女神がこの世にいないことを。

 王を倒し、彼女に願いを叶えてもらうことが不可能なことを。

 ならば彼の言う『攻略』とは――。


 僕は再び地図を取り出し、ニーベルングの指輪の光を当てる。

 様々な色の点が六つほど同じ位置に集中していた。


「ここは剣の国ですね。剣王ベルゼルスが治める国です。その国にこれだけの数の者の力パーソナル使いが集結していると考えると――」


「うん。秋山は恐らく、クラスメイトを集めて剣王を倒すつもりだろう。そして王者となり、剣の国を乗っ取り、隣国に侵攻する。剣の国は奉の国と法の国に挟まれているから、まずはそこを落とすだろうね」


 奉王に対するは『従者』。つまり千光寺隆一だ。

 同じく法王に対するは『賢者』。小島美佳。

 その二人を示す光も、秋山の下に集っている。


「つまり秋山っていうニンゲンは欺王と同じことをしようとしているってことか? 王者の力を手に入れて、世界を征服する……?」


「ああ、そうだと思う。あの秋山だったら世界の王を目指していても不思議じゃない。他の奴らも秋山の手下みたいなものだし、彼の言うことに従うだろう。元の世界に戻れないと知れば、この世界で生きていくしかないからね」


 強欲で傲慢なあの男は、全てを手に入れなければ気が済まないのだろう。

 僕はいつの間にか左手の拳を強く握っていた。

 もしもそこに拒絶の石があったのならば再び力が暴走し、僕もろとも消滅していたかもしれない。

 事前にユーミルに石を預けていて正解だった。

 彼女であれば、必要なときにすぐに僕に石を受け渡すことが可能だから。


「この宮殿を消し去った理由は何でしょうか?」


「……これは僕の推察でしかないんだけれど、女神の・・・死の痕跡・・・・が残っていたからじゃないかな」


「死の痕跡……?」


 僕はこくりと頷き先を続ける。


「再び女神にこの宮殿に飛ばされた僕は、亡者の力を使って彼女を殺した。つまり秋山は大木が・・・女神を殺した・・・・・・と勘違いしたんじゃないかな。そして冥王を倒し、王者となったのも大木だと考えたとすると辻褄が合う」


「辻褄が合う? ホムラ、私にはお前の言っていることがサッパリ分からないのだが……」


 メリルはしきりに首を傾げている。

 僕は彼女の頭を優しく撫で、更に続けた。


「つまり、秋山は大木を脅威に思った・・・・・・んだ。秋山がどういう理由で再び女神の宮殿に戻ってきたのかは分からない。もしかしたら、例の『攻略』を思い付いて、それがルール違反に・・・・・・ならないか・・・・・の確認をしにきたのかもしれない。でも女神はすでに死んでいた。それが大木の仕業だと思った秋山は、咄嗟にこの宮殿を消し炭にしようと考えたんじゃないかな。大木がこの世界で自分よりも力があると皆に思われたら、自身の立場が危ういと考えた。だってそうだろう? 『女神を殺す』なんて所業は誰にもできないと普通は考えるはずだ。元の世界に戻れない以上、最初に王者になるのは自分でなければならないと、秋山はそう考えるだろう。そして大木が王者になったと知り、慌ててクラスメイトらを集めることに奔走した」


 奴のことを話せば話すほど、僕の脳はめまぐるしく回転する。

 憎悪――。奴の考えを推察する行為は、僕の憎しみをさらに高めていく。

 女神の遺体を隠せば済むことを、わざわざ宮殿ごと消し炭にするあたり、奴の『力』に対する顕示欲は凄まじいものがある。

 恐らく他のクラスメイトには女神が死んだことは伝えていないのだろう。

 あくまでこの世界を『攻略』するための方法なのだと、彼らには伝わっているはずだ。


「そうだとすると、あの『勇者』の女は女神が死んだことも、元の世界に戻れないことも知っていた、ということでしょうか」


「うん。たぶんそうだと思う。でも井上は最初から元の世界に戻るつもりなんて無かったのかもしれない」


 彼女は、僕と同じ『復讐者』だから。

 でも、僕はきっと彼女も殺すだろう。

 そして、彼女も僕に殺されることを期待している。


 ならば、いずれその期待に応えてやろう。

 


 再び杖を構えた僕は、剣の国へと向かうことに決めた。




【忍者】(ニンジャ)

異界から召喚された気魔法を操る戦士。

宿敵として定められた『巫王』を倒し、王者の座を狙う者。

[能力①] 忍足/『気』

誰にも気づかれずに対象に近付くことができる気魔法。

ただし魔力が拮抗、もしくは上位の者には効果が発動しない。

[能力②] 手裏剣/『気』

気属性の大型の手裏剣を具現化し、刃とする魔法。

確率で痺れ効果。

[能力③] 身代/『気』

瀕死レベルの攻撃を受けた際に他者を身代わりにすることができる気魔法。

ただし発動範囲は周囲2メートル以内。


【治者】(レイン)

異界から召喚された白魔法を操る戦士。

宿敵として定められた『権王』を倒し、王者の座を狙う者。

[能力①] 統治/『白』

暴徒と化した対象者を、思いのままに操る白魔法。

同時に操ることができる者の数は能力者の力に比例する。

[能力②] 治定の裁き/『白』

白属性の巨大な書物を具現化し、対象を押し潰す魔法。

確率で安楽死効果。

[能力③] 支配権限/『白』

対象者の身体を自由に動かすことができる白魔法。

ただし発動時間は五秒。

魔力が拮抗、もしくは上位の者には効果が発動しない。


【学者】(スカラー)

異界から召喚された蒼魔法を操る戦士。

宿敵として定められた『智王』を倒し、王者の座を狙う者。

[能力①] 知識/『蒼』

この世の全てを知ることができる蒼魔法。

ただし発動できるのは遡ること過去の数日間の出来事のみ。近日の内容は知り得ない。

[能力②] 学びの大筆/『蒼』

蒼属性の筆を具現化し、刃とする魔法。

確率で暗視効果。

[能力③] 文明の租/『蒼』

古代兵器を具現化することができる蒼魔法。

ただし発動すると魔力が枯渇し通常の者であれば死に絶える。

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