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それぞれの思惑

 冥王を倒し、烏庭を殺した僕はジル率いる欺軍と合流。

 王のいなくなった冥の国の首都セブレスを二人の王者が落とすのは雑作もないことだった。

 すぐに欺軍に降伏した冥軍の生き残りは新たな冥王である僕を受け入れ玉座を受け渡した。

 

 そして明くる日――。



「ああ? 国はいらねぇだと?」


 勝利の宴で浴びるほど酒を飲んだジルが僕の言葉に噛みついてくる。

 彼を止められるギジュライは欺の国で王の帰還を首を長くして待っているのだ。

 もちろんそれは欺の国の民も同じことだろう。


「冥の国は君に譲るよ。僕に王の素質なんて無いし、興味もない。僕には時間がないんだ」


 今すぐにでも井上のいる場所まで女神の杖を使用して飛んで行きたい。

 そして彼女を殺し、拒絶の石を取り戻したい。


「ホムラ様には救わなければならない大事なひとがいらっしゃるのです。私と同じ、もう一人の眷属フォルクを……」


 僕の心を読み、ジルに説明をしてくれたユーミル。

 残された時間は今日を含めてあと三日。

 それを過ぎてしまえば、井上に殺されたメリルを『不死者』としてこの世に引き戻すことができなくなる。


「……ユーミルのように『魂を持たない人形』として復活させるっつうのか。一度死んだ人間は、王者の力を得てしても決して生き返らせることなどできない。お前がやっていることは神の真似ごとにすぎないんだぜ」


 迎え酒をあおりながら、僕とユーミルを交互に見たジル。

 彼の言うことは正論だし、僕もそれを重々承知しているつもりだ。

 でも、僕はメリルを救いたい。

 人間を辞めた僕が、唯一『人間』としていられるのがユーミルやメリルと過ごしていた時だけなのだ。


「……まあお前のその顔は俺の忠告なんざ聞きもしないっつう顔だな。ったく、どいつもこいつも俺の話を聞かねぇ馬鹿共ばかりでやってられねぇな」


 空いた酒瓶を床に投げ、乱暴に王座に座ったジル。

 足を組み、下から僕の顔を見上げる形で睨んだが、すぐに口元を緩ませニヤリと笑った。


「……くく、まあ好きにしろ。ギジュライと欺の国の民には俺から伝えておく。すでに我が国は南部エリアにある三国のうち二つを落とした。残るはただひとつ、『権の国』だけだ。だがこれもホムラ。お前が『聖者』を殺してくれたおかげとも言える」


 『聖者』に対応する王は『天王』。

 ジルは僕が蓮見明日葉を殺し、召喚石を奪ったことが天の国の攻略に繋がったと言いたいようだ。

 実際、欺の国を出発するまではそういう協定を結んでいた。

 だからこそ『者の力』を宿した者の居場所が分かるニーベルングの指輪を託してもらったのだから。


「だから俺からの条件はたったひとつだ。『権王』に対応する力を持つ者を殺せ。今のお前ならばすぐにでも殺せるはずだ。それが済んだらどこへでも勝手に行くがいいさ。ユーミルもお前に託す」


「ジル様……」


 ジルの言葉に深々と頭を下げたユーミル。

 本当はすぐにでも井上の元に向かいたいところだが、ユーミルを救ってくれた恩がある。

 それにクラスメイトらを全員殺すことが僕の最大の目的なのだ。

 しかし、この間に万が一井上が『魔王』を倒してしまったら――。


「大丈夫です、ホムラ様。『勇者』の力を持つ者は、まだ魔の国へと向かってはおりません」


「え?」


 僕の意図を察し、床に魔法の地図を広げてくれたユーミル。

 そこに指輪の光を当て、井上の居場所を表示させる。


「今、彼女がいる場所は智の国の国境付近です。魔の国とは真逆の位置にある国。何故その国に向かっているのかは定かではありませんが――」


「智の国……。『智王』と対するのは『学者』……。ということはおうぎに会おうとしているのか……?」


 扇詩鶴おうぎしづる

 蓮見や緒方らと常に行動していた女。

 彼女らは小遣い稼ぎに自身の身体を売り、それを姉さんにまで強要させた、いわば人間の面を被った悪魔だ。


 地図には確かに扇の位置を指し示す光が記されていた。

 これがフェイクでなければ、明日には井上と扇は接触するだろう。


「こちらにも多数の光が集まっていますね。これは……」


「ああ。烏庭が言っていたのはこのことだと思う。秋山がクラスメイトを集めているって」


 光の種類から秋山、中山、小笠原、六神、神原の五人が集まっているのが分かる。

 僕の脳裏に先日の烏庭の言葉が蘇る――。


 ――『秋山君、すげぇんだぜ。もうこの異世界を攻略する方法を見つけたみたいで、他のクラスメイトをみんな集めてんだよ』


 この異世界を・・・・・・攻略する方法・・・・・・……。

 そんなものが本当に存在するのだろうか。

 彼は、秋山は、一体何をしようとしているのか――。


「……ホムラ様。お気持ちは分かりますが、今は……」


「……うん。まずは『権王』に対応する『治者』――御坂怜奈みさかれいなからだ」


 指輪を戻し、女神の杖を取り出す。

 王者となった今の僕の魔力であれば、この杖を使いこなせるはず。

 そして左手には『聖者の石』と『忍者の石』の二つの召喚石がある。

 今までと同じく、烏庭が使っていた能力を僕は引き継ぐことができたのだ。

 これで僕は烏庭のようにニーベルングの指輪に反応せず、隠密行動をすることが可能になった。


 つまり、女神の杖で瞬時にクラスメイトの場所まで移動し、彼らを殺害しても。

 誰が殺したのか指輪の光だけでは確認ができないというわけだ。


(きっと秋山や井上はニーベルングの指輪を手に入れている……。そして、そのうち僕が『王者の力』を得たという情報も――)


 メリルの件だけでなく、僕にはあまり時間が残されていないのかもしれない。


 彼らが王を倒し、更なる力を得る前に――。



 ――僕は『僕の復讐』を成し遂げなければならない。



















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