骨と皮と
『ガルルルゥ……!』
もう何度目かも分からない荒野にいるモンスターとの戦闘。
倒しても倒しても奴らは湧いて出てくるように僕の前に現れる。
「《大鎌》」
漆黒の大鎌を具現化し、襲い掛かるモンスターに振り下ろす。
『ギャ――』
一瞬のうちに真っ二つとなったモンスターは、叫び声を上げることさえ許されずに絶命する。
まるでバターを切るような感覚で敵を殲滅できる無双の大鎌。
やはりゼペットに強化を依頼したのは正解のようだ。
この大鎌があれば冥王と渡り合えるかもしれない。
あと必要なものは――。
僕は右手に持った大鎌を消滅させ、目を瞑り深く息を吐く。
周囲の地面に意識を集中させ、最大限に能力を発動した。
「《死霊》」
能力を発動した瞬間、周囲の地面が隆起する。
そしてあっという間に30体ほどの骸骨戦士が、奇妙な声をあげながら各々の武器を天に向かい掲げだした。
大きく息を吐き、無感情のままその光景を眺める。
今の僕の力で一度に召喚できる骸骨戦士は30体が限度というわけだ。
これから一国に攻め入ろうというには、あまりにも少なすぎる戦士の数。
「……ジル……」
欺王だったら、僕に手を貸してくれるだろうか?
彼にどうにか連絡し、今までの経緯を説明する……?
しかしすぐにその考えを打ち払う。
彼が僕を救うはずがない。
約束を破り、連絡を絶ったのは僕のほうなのだから。
ギジュライならば少しは話を通してもらえる可能性はあるが、王の逆鱗に触れれば僕だって命はないだろう。
それに、相手は『欺きの王』と呼ばれる人物だ。
簡単に信頼するわけにもいかない。
「……信頼?」
僕は今、なんと言った?
信頼……?
そんな言葉が僕の口から出ること自体がおかしな話だ。
……違う。『利用』するんだ。
直接的に協力を求めることは出来なくとも、欺の国は三国に同時侵攻を仕掛けている最中であることを利用するんだ。
これならば大部隊よりも小回りの利く小部隊のほうが都合がいい。
骸骨戦士を召喚するのは戦闘時のみで十分ということになる。
唯一の懸念は――欺の国の部隊に僕の顔が知れ渡ってしまっているということだ。
ならば、僕のすることは――。
『ギッシャッシャ!』
『ギギッ! ギシャシャ!』
周囲にいる骸骨戦士らが不気味に笑っている。
僕はすっと右手を伸ばし、もう一度死神の大鎌を具現化させた。
《聖者》の石は、しっかりとポケットに入っている。
元に戻せるかは不明だが、いずれ死にゆく僕には必要のないものだ。
――鎌の刃をそっと頬に当てる。
――恐ろしいほどの冷たさが皮膚を伝ってくる。
ザクッ。
『ギシャシャ! ギシャシャシャ!』
刃を滑らせ、血が地面に滴ると骸骨戦士らが歓喜の声をあげた。
ザシュッ。
グジュッ。
皮膚を削ぎ、骨を削る。
ガリッ!
ザクッ。
僕の周囲に鮮血が舞う。
痛みを感じることが出来るのは、まだ僕が少しでも人間の心を宿しているからなのか。
ガリガリガリ……!
僕の顔が、僕の顔でなくなっていく。
もう二度と元に戻らないかもしれない。
でも、それでいい。
メリルやユーミルが受けた痛みはこんなものではないだろう。
そして、姉さんが受けた痛みも――。
『ギッシャッシャ!』
『ギーッシャシャシャ!』
まるで何かの儀式のように、骸骨戦士らは僕を取り囲み歓喜の笑い声をあげる。
僕はそれを気にもせず、ただ無心に皮膚と骨を削っていくだけだった。




