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生きるということ

 両のてのひらを耳にあてる。

 僕の脳に響いてくるメリルの声。

 ゼペットから借りた工房の隅にある小屋で、僕はずっとメリルの声だけを聞いていた。


「ああ、まーたこんなところで蹲ってやがんのか。ほれ、出来たぞ」


 扉を開けたゼペットは呆れた顔で僕に話しかける。

 彼に武器の強化を頼んでから丸二日。

 その間に一睡もすることなく、僕はただ大鎌が仕上がるのを待っていた。


「お前さん、この二日間何も食べてないだろう。そんなんで本当に冥王を倒せるのかい?」


 盆に乗ったパンを僕の前に差し出してくれたゼペット。

 しかし僕は首を振り、そのまま立ち上がった。


「《亡者》ねぇ……。睡眠もとらず、食事もとらず。それで本当に『生きている』と言えるのかね」


 盆を横のテーブルに戻したゼペットはため息交じりにそう呟いた。


「……僕は生きてなんていません」


「あ? 何か言ったか?」


「……いいえ、何も」


 ゼペットの脇をすり抜け部屋を出る。

 そして工房の台に置かれた大鎌をまじまじと眺めた。


「闇の属性値を『A』と切れ味を『B』まで強化しておいたぜ。俺の力じゃこれが限界だな。まあレアな強化素材でもあれば話は別なんだが、まず手に入らない代物だからな」


 台の横にある椅子に腰を下ろしたゼペット。

 僕は大鎌を手に持ち、そのまま亜空間へと仕舞った。


「これで十分です。本当に助かりました」


 そのまま金を台に置き、工房をあとにしようとするとゼペットが慌てて声を掛けてきた。


「おいおい! 何だこの大金は! こんなにもらえるわけねぇだろう!」


「いいんです。冥の国までの旅費さえあれば、あとのお金は必要ないですから」


 彼に渡した金は女神の神殿からくすねたものだ。

 これだけあれば、当分は生活に困らないだろう。


「お、おい……! ホムラ!!」


「またいつか、どこかで会えるといいですね」


 僕は振り返らず、そのまま港へと進む。

 その態度をみて諦めたのか、ゼペットが何か悪態をついているのが聞こえてきた。


「……ったく、あの馬鹿が。…………死ぬんじゃねぇぞ、ホムラ」





 港から船に乗り、再び冥の国へと向かった。

 約半日の船旅だったが、相変わらず眠気はおきなかった。


 冥の国の最南端にある小さな村。

 そこで船を下りた僕は魔法の地図を取り出した。


 ニーベルングの指輪で光を当てると、何も反応は起きなかった。

 この国には《者の力パーソナル》を宿したクラスメイトがいないという反応だ。

 中には烏庭のような指輪の反応を避ける能力の持ち主がいるかもしれないと考えたが、それは考えてもどうしようもないことだ。

 僕は地図を仕舞い、冥の国の首都を目指すことにした。


 ――もう三日が経過している。

 あと七日ほどでメリルの声を聞くことができなくなる。


 声が聞けなくなっても、ユーミルのように復活させることは可能なのだろうか。

 拒絶の石と《亡者》、そして《聖者》の能力を組み合わせれば、不死者アンデッドとしてだが復活させることができるはずだ。


「……」


 メリル。ユーミル。

 彼女達だけは、助けてあげたい。

 どこかにきっと不死者を生者に変える方法があるはずだ。

 《眷属フォルク》を解除する方法だって――。


 僕に関わってしまったがために、彼女達は命を落とした。

 僕が彼女らを不幸にした。

 そればかりが僕の脳内をグルグルと回り続けている。


 しっかりとけじめをつけて、そして、別れよう。

 それが彼女らにとって、そして僕にとって、最良の選択であることは確かだ。



 村を出て荒野を歩きながら、僕は心の中でずっとそう反芻していたのだった。

















 

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