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再会

 おびただしい血だまりの中、女神の遺体が横たわっている。

 僕はその肉塊の隅であるものを発見した。


「これは……?」


 僕はそれを拾い上げ、まじまじと眺める。

 女神が常に肌身離さずに持っていた杖だ。

 恐らく何かしらの力を宿した杖なのだろうが、僕にはそれが分からない。


 杖を一旦床に置き、僕は片手を耳に当てた。

 そして冥界にいるメリルに問いかける。


「……女神の、杖?」


 僕の質問に答えてくれたメリル。

 女神の杖とは、この異世界に伝わる神器の一つらしい。


 魔力を用い、対象となった人や物の傍に瞬時に移動できる力――。

 女神はこの力を使い、僕らをこちらの世界に召喚したのではないか、とメリルは言う。


 今しがた僕をこの宮殿に召喚したのも、その力のうちの一つというわけだ。

 この杖があれば、井上や烏庭のいる場所まで瞬時に移動できる……?


 僕は再び杖を拾い、念じる。

 しかし何も起こらなかった。

 これは僕の魔力に問題があるのか、それとも使用するには特定の条件が必要なのか。


 もう一度メリルに問いかけたが、彼女もそこまでは分からないと答えた。

 僕はメリルに礼を言い、女神を喰い散らかした骸骨戦士に命令し、杖を亜空間に隠すことにした。


 いずれ近いうちに使う日が訪れるだろう。

 魔法の地図とニーベルングの指輪、それにこの女神の杖を使いこなせれば、僕はクラスメイトらのいる場所に瞬時に移動し、彼らを殺すことができる――。


 しかし――。


「……まずは、力を身につけないと。彼らを確実に殺せるように。もう二度と、失敗を犯さないように」


 自分自身にそう言い聞かせるように、僕は何度も反芻する。

 焦っては駄目だ。

 井上や烏庭だけではない。

 他のクラスメイトらも、この世界で生き残るための対策くらいは練っているだろう。


 もしかしたら、すでに井上達のように協力関係を築いている奴らもいるかもしれない。

 あの秋山のことだから、きっと部下を数名は確保しているのだろう。


 とにかく情報が足りない。

 ただ闇雲に彼らを殺すことだけを考えていては、返り討ちに遭うと考えたほうがいい。


「僕がまず、やることは……」


 女神の遺体を踏み越え、僕は宮殿内を散策することにした。





 1時間ほど宮殿内を歩き回り、女神の部屋と思われる場所から金を持ち出した。

 宝玉が3つに金貨が20枚、銀貨、銅貨がそれぞれ100枚。

 それらも手ごろな袋に入れ亜空間に隠した。

 

 この世界の神が金を隠し持っていることを不思議に思ったが、僕らも召喚時にいくらか金を持たせてもらたことから考えると納得はできた。

 僕はその足で宮殿を出発し、灼熱の砂漠へと歩み出す。


 歩きながら、二階堂のことを思い出した。

 僕はこの砂漠で、初めての殺人を犯した。


 二階堂を溶かし、曲者の召喚石を手に入れた。

 その時の感触を今でも覚えている。



 前回と同じように半日ほど南に歩くと商人たちのいる小さな街に辿り着いた。

 そこで馬車を借りて銅貨5枚で港街まで運んでもらった。


 目指す場所は決まっていた。

 もう一度、あの鍛冶職人に相談しようと思った。


 彼が僕のことを覚えていたら、の話なのだが。





 3時間ほどで港街に到着し、馬車を見送る。

 日は暮れかけていたが、僕はそのまま鍛冶職人の店へと向かった。


「……あー、ったく。今日も商売あがったりだぜ」


 店の前では鍛冶職人のゼペットが胡坐を掻いていた。

 僕は彼の傍に近づき声を掛ける。


「こんばんは。お久しぶりです、ゼペットさん」


「あ……? ……おお! お前さん、あのときの兄ちゃんじゃねえか! ええと……なんつったっけ」


「焔です。日高焔」


「ああ、そうそう! ホムラ! いやー、良かった。お前さん、生きてたんだな」


「……生きてた?」


 嬉しそうに僕の顔を見上げるゼペット。

 彼の言葉の意味が理解できず、首を傾げたままの僕に苦笑しているようにも見えた。


「だってよ、お前さん。あのとき欺の国に行くって言ってたからよ。今あの国は戦争の真っただ中じゃねぇか。欺王のジル・ブラインドが3国に同時侵攻なんて仕掛けやがったからな」


 興奮気味にそう話すゼペット。

 彼によると、欺王が戦争を仕掛けたせいで南部エリアの商品の流通が激変したのだという。

 物価は高騰し、武具の流通が一国に集中する事態に見舞われた。


「それにしては、暇そうに見えるんですが……」


「痛いところ突くな、お前さん! 実はそうなんだよ。本来ならば戦争が起これば鍛冶職人は休みがないくらいに忙しくなるもんなんだが、今回に限っては『規制』が掛かっちまってな。それで商売あがったりになっちまってるんだよ」


「規制?」


「ああ。この街は法の国の属国だからな。法王エリウスト直々に武具屋やら鍛冶店に規制をかけちまいやがた。あの国は『法魔』を司る国だから、それがまた厄介でな」


 頭を掻きながら渋い顔をしているゼペット。

 しかし彼の言っている意味が理解できない僕はそのまま困惑するしかない。


「……あー……そういや、お前さん。何にも知らねぇ坊ちゃんだったっけな。……まあいい。せっかくまた会えたんだから、俺の仕事をまた『あの力』でちょちょいと手伝ってくれりゃあ、知らねぇことを何でも教えてやるぜ」


 そう答え、にいっと笑ったゼペット。

 そして僕の背中をドンと押した。


「……すいません、ゼペットさん。僕はもう、あの『溶かす力』を使えないんです」


「はぁ? 使えねぇ? そりゃまた、どうして?」


 彼の言葉に口籠る僕。

 僕の表情から何かを察したのか、ゼペットは何も聞かずに僕を工房へと招いてくれた。



「まあ、適当に座れや。茶くらいは入れてやらぁ」


 雑然とした工房の中で椅子の埃を払ってくれたゼペット。

 彼の言葉に甘えて椅子に座る僕。


 そして、今日はかなりの距離を旅したことに気付き、今更ながら疲れがどっと押し寄せてきた。

 もしかしたらそれだけではなく、女神から召喚され、瞬間移動をしたときにも疲労を蓄積したのかもしれない。


 しばらく待つと湯気の出た熱々のお茶を持ってきてくれたゼペット。

 そして僕の身近にある椅子に腰を掛けて、僕に質問をし始めた。


「欺の国に向かってから色々あったみてぇだが……。俺で良ければ相談に乗るぜ」


 真剣な眼差しで僕の目を見据え、蓄えた髭を撫でるゼペット。

 僕は彼の言葉に甘え、話せる範囲で状況を説明した。



「……そうか。やはり欺王は『王者』として覚醒してやがったか。だったら法王が動くのも合点がいくな」


「さっきの話で『法魔』と出ましたけど、それが何なのかを教えてもらえますか?」


「ああ。『法魔』ってのは法王が使う魔法の一種だ。魔力で法律を作る、とでも言えば分かるか?」


「魔力で法律を……」


「そんじょそこらの法律とは違うぜ。なんせ法王が作る『法律』だからな。破ったら最後。法律にかけられた魔力により、あっという間にあの世行きだ。俺達のような商売人にとっちゃあ、法王ほど面倒くさい『王』はいないっつう話だぜ、まったく」


 ドン、と机を乱暴に叩いたゼペット。

 僕は彼が落ち着くのを待ち、茶を啜る。


「法王の奴が考えたシナリオはこうだ。南部エリアの4国が戦争をおっぱじめたら、当然、世界各国のあらゆる武具がそっちに流れる。世界流通価格も当然高騰する。予想額は市場価格の10倍っつう話だから、そこを狙って各業者は無茶な仕入れを始める。ならばどうなる? 当然、4国以外の他国に武具が行き渡らなくなる。自国防衛のための武具も含めてな」


「それぞれの国で蓄えとかはないんですか?」


「それは当然あるさ。しかし、これを機に他国も水面下で動いてるっつう話だ。法王が特に恐れているのは智王ミハエルだってのは、商売人だったら誰でも知っていることだしな」


 智王ミハエル――。

 確か、対応するクラスメイトは《学者》の力を得た扇詩鶴おうぎしづる――。


「誰か法王を倒してくれりゃぁ、法魔の束縛から解放されるんだがなぁ。ええと、なんつったか。《者の力パーソナル》っつったか。あれがあれば倒せるとか聞いたことがあるけどな」


 法王に対応するのは《賢者》。

 クラスメイトは小島美佳こじまみか――。


「ああっと、すまねぇな。俺ばっかり喋っちまって。何か話があって、俺に会いに来てくれたんだろう?」


 彼の言葉に僕は首を縦に振った。



 そして僕は口を開く。



















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