表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/63

亡者の使命

 ゆっくりと目を開ける。


 まるで走馬灯のように今までの記憶が溢れ出たが、別段支障はない。

 むしろ自分の目的を再確認できたことに感謝の念すら覚える。


 それとは別に誰かの記憶までが僕の脳内を汚染する。

 これは……大木の記憶?


「……そうか」


 《亡者》の石――。

 本来は大木のためだけに作られた召喚石。

 それを飲み込んだせいで、僕は大木の記憶を断片的に受け継いだのか。


 彼の感情が僕の脳内に蘇る。


 僕をいじめて悦に入る大木の感情が。

 姉さんをいじめて悦に入る大木の感情が。

 僕の脳内を汚染するたびに、僕は吐き気を催す。


 しかし、それのお蔭で僕の意志はさらに明確になった。

 『大木潤一は殺すに足る人間だった』――。

 次から次に湧き出す大木の感情に、僕の憎悪は高まっていく。


「……蓮見明日葉……」


 ふと左手に握ったままの《聖者》の石に視線を落とした。

 そして彼女の記憶も知りたい衝動に駆られた。


 僕は先ほどと同じように《聖者》の石を口に含み、飲み込んだ。


ドクン――。


「……!! う……が……!!」


 突然、全身に強烈な痛みが走った。

 僕はそのまま膝を突き、今しがた飲み込んだばかりの召喚石を吐き出してしまった。


「げほっ……! げほっ、げほっ……!!」


 吐き出された聖者の石ととに少量の血が地面を濡らした。

 亡者の石は飲み込めたのに、聖者の石は飲み込めない……?


 ……いや、違う。


 僕はすでに亡者の石と同化した。

 つまり大木の代役となったわけだ。

 ならば、僕に課せられた使命は――。


「冥王ゼノン・オルルストの討伐……」


 僕らを召喚したあの女神のシナリオに沿うのであれば、僕は大木の代わりに冥王を倒さなくてはならない。

 そして冥王に宿る『王召石』を奪い、それを飲み込み、欺王のような《王者》となる――。


 そう考えれば、別の召喚石と同化できないのも理由は分かる。

 だが僕は同化をせずとも、他者の召喚石の能力を発動できる。

 その理由は不明のままだ。


 ……どうする?


 このまま井上を探し、拒絶の石を取り戻して彼女を殺すのか。

 烏庭を探し、ユーミルを取り戻して彼を殺すのか。

 

 ……しかし、今の僕の力で2人に敵うのだろうか?

 

 大木の時にもメリルの助けがなければ、僕は殺されていたかもしれない。

 今だってそうだ。

 メリルを喰われ、ユーミルを奪われた。

 

 僕は、何度も過ちを犯している。

 考えの甘さと、力の無さが、僕の今の状況を導いている。


 ――確実に、奴らを殺したい。


 これ以上ないほどの苦痛を与えて、殺したい。

 姉さんをいじめて、殺したことを後悔させて、殺したい。

 姉さんに辱めを受けさせた者には、同じ目に遭わせてやって、殺したい――。


『ふふ、ようやく見つけましたよ。やはり貴方だったのですね』


 どこからともなく声が聞こえ、僕は辺りを振り返った。

 しかしこの岩垣に人の気配はない。


『探しても無駄ですよ。直接貴方の脳に話しかけているのですから』


 この声には聞き覚えがあった。

 僕がこの世界に召喚されたときに、初めて聞いた声――。


『今からこちらに転送します。貴方とお話ししたいことがありますからね』



 ――その言葉が聞こえた直後、僕の意識は飛んだ。



















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ