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新しい環境が始まり

「はーい、皆さん静かに。今日からうちのクラスの一員になる転校生を紹介します」


 担任の石原由香里いしはらゆかり先生に紹介され、緊張した面持ちで自己紹介をする僕。

 横に立っている姉さんが笑いを堪えているのが視界の隅に見えたが、今僕はそれどころではない。


 震える声でなんとか自己紹介を済ませ、次に姉さんが続いた。


「初めまして。日高麗子ひだかれいこと言います。焔とは双子の姉弟なんですけど、私のほうがちょっとだけお姉さんかな。この街にも引っ越してきたばかりで勝手が分からないんですけど、是非皆さんに色々と教えてもらえれば嬉しいです。よろしくお願いします」


 すらすらと原稿を読むように自己紹介を済ませた姉さん。

 クラスメイトの男子生徒らが明らかに色めきだっているのが分かる。


「はいはい、静かに。じゃあ2人とも、あそこの空いている席に座ってもらえるかしら」


 石原先生の指さした先に2つの空席があった。

 1つは窓際の後ろから2番目の席。

 もうひとつはその2つ横の席だ。


「そうね……。麗子さんは窓際で、焔君はあの真ん中の席でいいかしら」


 石原先生の指示に従い、僕らはそれぞれの席へと向かう。

 

 椅子を引き、着席しようとした時、ふと隣の席の女子生徒と目が合った。

 長い黒髪に眼鏡をかけた女子生徒。

 彼女と目が合った瞬間、僕の心はなぜかざわついてしまった。

 まるで今朝、姉さんと登校途中に感じたような、ねっとりと汗が肌に張り付くような感覚――とでも言えばいいのか。


 彼女はすぐに僕から目を逸らし、小さい声でなにかを呟いた。


「え……?」


 席に座り、つい聞き返してしまう僕。

 しかし彼女はそれ以上なにも答えなかった。


 でも、僕は確かに聞いた。

 しかし聞こえた言葉の『意味』が、まるで理解できなかったのだ。


 彼女は確かにこう言った。


 ――『どうせ貴方も、私を殺そうとするんでしょう』、と。





 入学して2日が経過した。

 僕は自宅のベッドに寝転がりながら、石原先生から渡された2年C組のクラス名簿に視線を落とす。


----------

2年C組  担任 石原由香里いしはらゆかり

【男子】

秋山時雨あきやましぐれ

犬飼悠馬いぬかいゆうま

大河原直人おおがわらなおと

大木潤一おおきじゅんいち

小笠原高志おがさわらたかし

烏庭涼太からすにわりょうた

桐生京四郎きりゅうきょうしろう

千光寺隆一せんこうじりゅういち

中山五郎なかやまごろう

新島康志にいじまやすし

二階堂陽一にかいどうよういち

日高焔ひだかほむら


【女子】

井上絵里いのうええり

扇詩鶴おうぎしづる

緒方美鈴おがたみすず

神原子音かんばらしおん

小島美佳こじまみか

蓮見明日葉はすみあすは

蓮見綾香はすみあやか

日高麗子ひだかれいこ

御坂玲奈みさかれいな

六神薫むつがみかおる

----------


 男子12名、女子10名。

 多くもなく少なくもない、いたって普通のクラスだ。


 この中で一番最初に話したのは蓮見姉妹だ。

 僕らと同じ双子ということで、色々と親切に学校設備などを教えてくれた。

 姉の明日葉は少しウェーブのかかった長い髪の大人っぽい女子生徒。

 対して妹の綾香は大人しい感じの優等生タイプといった感じか。


 この2日で色々とクラスメイトの立ち位置、というか役割が次第に分かってきたと思う。

 秋山はクラスのリーダー的存在。

 大木や二階堂は彼の友人で、言葉を悪くすれば『手下』のような存在か。


 桐生や烏庭はあまり他人と関わりたくないのか、いつも昼休みは教室からいなくなる。

 中山、新島はクラスのお笑い担当で、周囲の笑いを誘っていた。

 犬飼、小笠原、千光寺、大河原とはまだほとんど会話らしい会話をしていないので分からない。


 無論、女子も同じだ。

 姉さんはクラスの女子に上手く溶け込んでいるように見えるが、元々他人から嫌われるような性格ではない。

 しいて言うなら唯一人――。

 クラスの誰とも会話をせず、クラスの誰とも目を合わせない、一人の女性生徒のことが気になった。


「井上……絵里」


 隣の席に座る彼女は、いつもぶつぶつと独り言を呟いていた。

 悔しそうに爪を噛みながら、読みもしない教科書に視線を落として――。


 僕はずっと、彼女から聞こえた言葉の『意味』を模索していた。


 『殺す』、とはどういう意味なのだろう。

 『どうせ貴方も』、とは他にも誰かを指す言葉だろう。


「明日、姉さんに聞いてみるか……」


 ベッドから起き上がった僕はクラス名簿を机の引き出しに仕舞う。

 そして引き出しの中から一枚の写真を取り出し、椅子に座り机に頬杖を突きながらそれを眺めた。


 僕と姉さんが映っている写真。

 前の高校を転校するときに、クラスの友人が撮ってくれた写真だ。

 満面の笑みでこちらを向いている姉さんは、眉をひそめて微妙な表情で写っている僕の腕に抱きつき、ピースをしていた。


「……こういうことをしているから、いつも周りから誤解されるんじゃないか。……はぁ……」


 写真を元の引き出しに戻し、僕は再びベッドに横になった。

 デジタル時計に視線を移すと、ちょうど針が深夜の一時を指し示していた。

 隣の部屋にいる姉さんは、もう寝ただろうか。

 明日こそは姉さんより早く起きて、彼女を見返してやりたい。


 ――そんなことを考えながら、僕はまどろみの中へと沈んでいった。


















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