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4人目の標的

「ん……」


 目を覚ます。

 ……また、あの夢を見ていたのか。

 殺された姉さんと、殺したクラスメイトらの夢――。


「むにゃむにゃ……」

「スー、スー……」


 ベッドから身を起こすと、メリルとユーミルに挟まれたまま寝ていたことに気付く。

 もしかしたらこのせいで、いつもよりもひどい悪夢に魘されていたのかもしれない……。


 彼女らを起こさないようにゆっくりとベッドから降り、水を一杯飲む。

 そしてポシェットから魔法の地図を取り出し、指輪を当てて現状を確認した。


「……あれ?」


 昨日まで確認していた残りのクラスメイトらの位置が微妙に変化していた。

 今僕らがいる要塞都市グランザルは冥の国と天の国の、ちょうど国境に位置する町だ。

 ここから約100ULの位置にある山岳地帯に、指輪から照射された『白い光』が指し示されている。


「……井上絵里いのうええり……」


 白い光は《勇者》を指し示す光。

 確か昨日は魔の国の近辺にいたはずの井上が、どうして冥の国の山岳地帯にいるのだろう。


 しかし、これは好都合だ。

 メリルとの約束で冥王を倒すつもりだったが、王都へと向かう途中で井上と会い、彼女を殺す――。


 僕はそっと地図を仕舞い、外の空気を吸うため部屋を静かに後にした。





 昨日までとは違い、中央通りは人々もまばらだ。

 きっとお祭りが終わった後なのだろう。

 僕は欠伸を噛み殺し、ぶらぶらと街中を歩く。


 井上を殺し、《勇者》の召喚石を奪えば、全部で4つの召喚石を手にすることになる。

 それだけ揃えばきっと冥王を倒すことも可能だろう。

 そうすれば冥王の王召石も手に入り、もしかしたらその力をも僕は使えるかも知れない。


 未だに『拒絶の力』を宿した召喚石は、僕と融合する気配を見せない。

 しかし、僕には他の召喚石を使える能力がある。

 そして、その力を増幅させることもできる――。


 慢心してしまうと大木のときのように足元を掬われるが、これは僕にとって大きな戦力だ。

 欺王との縁は切れてしまったが、今はメリルもいるしユーミルも復活させた。

 僕の眷属フォルクとなった彼女らの力を借りれば、意外と早く復讐を遂げられるかも知れない。


 そうしたら、僕はどうなるのだろう。

 あの女神に再び召喚され、今度は女神と戦うことになるのだろうか。

 せっかく異世界から召喚させた『駒』を潰された女神が、僕を殺しに来る可能性もあるだろう。


 でも、それでも構わない。

 復讐さえ終えれば、その後の世界のことなど知ったことではない。

 欺王が世界を掌握するのか、新たな異界人が召喚されるのか。

 僕の命も含め、それらは僕にとって何の意味をも持たないのだから。


「あ、いたいた! おいホムラ! 私達を置いてどこにいくのだ!」


 後ろから声を掛けられ振り向く。

 そこには手を振っているメリルとユーミルの姿が。


「ホムラ様。お出かけになられるときは、ひと声掛けて頂きたいです」


 僕に追いついたユーミルは、静かだが強制力のある声色でそう答えた。

 こういうところは生前の彼女とまったく変わっていないように見える。


「すいません、ユーミルさん。ちょっと外の空気が吸いたくなって」


「私には謝らないのか! ユーミルには謝るのに! うがー!」


 そのまま僕に突っ込んできたメリル。

 彼女を受け止めたまま、僕はその場に尻餅をついてしまう。


「悪かったよ、メリル。今度からちゃんと声を掛けるから」


「よし、約束だぞ。お前が死んでしまったら、眷属フォルクである私まで一緒に死んでしまうのだからな。以後、気を付けるように」


 腕を組み、偉そうな態度でそう言ったメリル。

 僕に手を伸ばし、苦笑しながら起き上がらせてくれたユーミル。


「もう宿のほうは退室の手続きを済ませてきました。このまま冥の国の王都まで向かいましょう」


 ポシェットを僕に手渡し、そう答えたユーミル。

 以前は僕に荷物を持たせることを嫌った彼女だが、地図や指輪、ナイフや召喚石など僕にとって大事なものがすべてこの中に入っている。

 唯一、『拒絶の力』の召喚石だけはポケットに仕舞っておくことにした。

 咄嗟に使用するためには常に携帯していないと危険だし、これから石を切り替えて使うためにも、僕自身がポシェットを携帯していたほうが効率が良いと判断したのだろう。


 荷物を受け取り、僕はもう一度指輪をはめる。

 そして2人に見えるように地図広げ、指輪の光を当てた。


「冥の国の王都に向かう途中に《勇者》の力を持った井上がいる。彼女を殺し、《勇者》の召喚石を奪うつもりだ」


 僕がそう答えると、2人は真剣な表情に変わった。

 もう言葉で伝えなくとも、僕の心の変化――つまり『殺意』は彼女達には伝わっているのだろう。


「……でもなぜ、冥の国に《勇者》が?」


「それは分からない。昨日までは魔の国の近くにいたはずなんだけど」


 ユーミルの問いにそれだけ答えた僕は地図をポシェットに仕舞った。


「今度は慎重にいくぞ、ホムラ。オオキジュンイチのときのように二の舞にならないようにな!」


「うん。今度は見つけ次第、すぐに『拒絶の力』を発動しようと思う。大木のように僕のことを知っている可能性もあるし、小細工は使わない」


 僕の言葉にメリルが首を縦に振る。


「私達は常にホムラ様の背後にいるように気を付けたら宜しいのですね。もしくは上空、あるいは異界の扉の先などに」


「異界の扉……?」


「はい。私はホムラ様の『死霊』により召喚された不死者です。異界の門を潜り、神出鬼没に特定の場所を移動することができますゆえ」


 そう答えたユーミルさんは、地面に手を置き、何かを呟いた。

 次の瞬間、彼女の周囲の地面が赤黒く変色し、彼女は地中に引きずり込まれていった。


「うおっ! なんだこれ!」


 驚きの声を上げるメリル。

 そして次の瞬間には、僕らが向いている方向とは逆の方向から出現した。


「これが私の新しい能力でございます。恐らくホムラ様の『拒絶』の能力は、対象に触れなければ発動しない――つまり、ホムラ様が・・・・・触れた場所から・・・・・・・前方に・・・地続きの・・・・範囲内で・・・・効果が発現するのでは?」


「そうなのか! ホムラ!」


 ユーミルの推察に興味津々といった様子のユーミル。

 やはり彼女は優秀だ。

 たった数回、僕の能力を見ただけで発動条件を言い当ててしまった。


「ユーミルさんの言うとおりです。今までの検証からも、『僕が触れた場所』しか能力は発動しませんでした。あの時――賊に襲われたときも、僕は賊に向かい能力を発動しましたが――」


「――あの賊を介し、触れていた地面、そして地面に接していた私やその他の賊にも効果が発現してしまったのですね」


「……はい」


 少しだけ声を落とした僕に近寄り、ユーミルは優しく抱きしめてくれた。

 彼女の優しさに包まれながら、それでも僕は自身の復讐のための『殺意』を鈍らせようとはしない。


 僕はきっと、最低の人間なのだろう。

 でも、そんなことは最初から分かりきっている。


「ホムラの背後、上空、異界の扉……。なるほど……条件さえ分かれば巻き添えを喰らう可能性を極力減らすことは出来るな……」


「だけど、まだ確定したわけじゃないから、やっぱり出来るだけ僕から離れていてくれると嬉しいかな」


「そんなこと言って、ユーミルの大きな胸の中でデレデレしてるじゃないか! どの口が言うんだ、どの口が!」


 再び喚き散らしたメリル。

 僕とユーミルの間に無理矢理割り込み、双方の顔を見上げながら頬を膨らませている。


「メリルさん。お気持ちは分かりますが、もっと成長・・されてから私に挑まれては?」


「うぐっ……! し、新人の眷属フォルクのくせに、先輩に口答えするのかお前っ!」


「先にホムラ様にお仕えしていたのは私のほうですよ」


「うぐぐっ……! ほ、ホムラは小さい子のほうが好きなんだ! そうだよなホムラ!」


 メリルとユーミルが同時に僕を振り向いた。

 僕は頭を掻きながら、彼女らを無視し先へと進む。


「ホムラ!」

「ホムラ様!」


 慌てて僕の後をついてくる2人。

 きっとあの2人は僕の心を少しでも軽くしようとして、ああやって騒いでくれているのだろう。


 でも、僕はそういうことに慣れていない。

 どう答えていいのかも、さっぱり分からない。


 

 要塞都市を出るまでの間、2人の眷属フォルクに挟まれ、僕は溜息を吐くことしか出来なかった――。


















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