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不死者

 ユーミルを復活させた僕は気絶したままの彼女を背負い、宿へと戻った。

 衣服は再生されず、生まれたままの姿のユーミルに対し、メリルは急いで部屋から毛布を運んでくる。


「ホムラ! いいと言うまで、こっちを向くなよ!」


 強制的に後ろを向かされた僕は、メリルの言うことを聞き、そのまま目を瞑った。

 がさごそと音がするが、きっとユーミルに合いそうな衣服を探しているのだろう。


 僕はポケットに仕舞ったままの3つの召喚石の感触を確かめる。

 ユーミルを復活させるために使用した能力は3つ。

 《亡者》の『口寄せ』と『死霊』。

 そして《聖者》の『蘇生』だ。


 使用方法は今までの召喚石と同じく、脳内で強く念じることにより発動するようだった。

 『死霊』を唱え、冥府からユーミルの肉塊を復活させ、そこに『蘇生』を加え肉体を再生させた。


 昨日図書館で調べた条件では『死者を復活させるには体組織の70%が現存していなければ不可能』とあったが、肉塊の状態のユーミルは明らかに半分以上の体組織を失っていた。


 ――なのに、僕はあの時、成功する・・・・と確信していた。


 僕の持っている『拒絶の力』を宿した召喚石。

 これの正体は一体何なのだろう。


 『他の召喚石の力を増幅させる能力』――。

 そして、本来であれば体内に召喚石を宿しているはずの僕――。


 ならば、この『溶かす力』は僕の心が他者を『拒絶』しているから、発動する能力なのか……?

 僕の心に反応し、それを増幅させて具現化している現象が『溶かす力』……?


「ん……」


「あっ、ホムラ! 目を覚ましたぞ!」


 メリルの声で我に返る僕。

 しかしまだ、ユーミルは着替え途中だったようで――。


「まだこっちを向いていいとは言ってない!」


 ――大きく羽を広げたメリルに叱られたのは言うまでもなく。





 服を着たユーミルをそのままベッドに寝かせ、僕とメリルは椅子に座る。

 まだ新しい身体に慣れていないのか、しきりに瞬きをしているユーミル。


「眩しいのか? ちょっと部屋を暗くするか」


 窓際の外扉を閉め、部屋を暗くしたメリル。

 すると安堵のため息を吐き、ユーミルは話し始めた。


「ホムラ様……。死の国から私を蘇生してくださり、本当にありがとうございます」


 半身を起こし、丁寧にお辞儀をしたユーミル。

 しかし、その目を見た瞬間、僕は気付いてしまう。


「ユーミルさん、その『目』は……」


「……はい」


 彼女は悲しそうに視線を逸らした。

 まるで血のように赤い目は、暗闇の中でわずかに光を灯していた。


「ホムラ様の『蘇生』により、肉体は元の姿に戻りましたが、魂までは復活できませんでした。私は命を持たない『不死者』なのです」


「不死者……」


 『拒絶の力』の召喚石を持ってしても、ユーミルを完全に蘇生することは出来なかったのか。

 これでは彼女を救ったことにはならない。


「……そんなお顔をなされないでください。私はホムラ様に感謝をしております。あの時……賊に刃を貫かれた時、私はすでに息絶えておりましたから」


「……」


 彼女はそっと手を伸ばし、僕の頬に触れた。

 その手の冷たさに、僕は唇を噛み締めてしまう。


 僕は、誰も救えない――。

 救えないから、壊し続けるしかない――。


「……ホムラ?」


 何も言わずに立ち上がった僕を見上げるメリル。

 しかし僕の顔を見た瞬間、彼女は押し黙った。


 表情から僕の心を読んだのか。

 それとも僕の眷属フォルクだから分かるのか。


「ユーミルさん、お願いがあります」


「……はい。ホムラ様のお力になれることでしたら、なんでも」


 ベッドから身を起こし、僕に向き直ったユーミル。

 彼女のその赤い瞳が僕の全身を捉えた。


 僕はポシェットからナイフを取り出し、自身の左指の先に刃を滑らせる。

 指先に描かれた赤い線から血の滴が滴り落ちた。


「僕と契約を結び、『眷属フォルク』となってくれますか?」


 救えないのであれば、僕の復讐の助けとなってもらう。

 彼女に血を与え、魔力を増強させ、不死の魔道戦士として常に僕の傍らにいるように――。


「……謹んでお受けいたします」


 ベッドから立ち上がり、僕の前へと跪いたユーミル。

 そして舌を出し、喉を鳴らしながら僕の血を飲み込んでいく。


 ユーミルの全身が赤い光に包まれていく。

 これで彼女はメリルに続き、僕の2人目の『眷属フォルク』となった。


 それを横で黙って見ていたメリルは、何故かふくれっ面で僕の前に顔を突き出し――。


「えいっ! チューーー!」


 ――あろうことか、僕の指先に食いつき、僕の血を吸いだしたのだ。


「……ホムラ様。これは……?」


「……うん。僕にも分からないよ……」


 腕を振り、彼女を放そうするが、指に食いついたまま離れない。

 その様子を見て、ついに笑い出してしまったユーミル。

 僕もつられて苦笑してしまう。


「笑うな! なんかすっごい悔しい! 笑うんじゃない!」


 僕の手を放そうとせず、僕らに向かい叫び散らすメリル。


 でもきっと彼女も気付いているのだろう。

 僕の心の冷たさを。

 誰とも交われない『拒絶』の心を――。


 僕の心の氷を溶かすことができるのは、姉さんだけだ。

 でももう、その姉さんはどこにもいない。


 だから、僕が代わりに溶かしてやる。


 全てを溶かし、全てを無に帰す。



 使えるものは全て使い、それらがすべて枯れ果てようとも、僕は――。


















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