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王立図書館

 僕の前に跪き、恍惚の笑みで口を開けるメリル。

 両手を添え、舌を出し、僕の指から零れ落ちる血を一滴も零さないようにと配慮しながら。


 『眷属の儀』――。

 主となる僕の血をその身に宿すことで、主従関係を築く儀式。

 これによりメリルの魔力は格段に飛躍するが、僕が死ねばメリルも死ぬ。


「ん……」


 喉を鳴らしながら僕の血を飲み込むメリル。

 その顔は少女とは思えないほど大人びていて、僕は直視できずに目を逸らしてしまう。


 ある程度僕の血を飲み込んだメリルの全身が赤い光に包まれていく。

 これで眷属の儀は終了だ。

 僕は左手に《聖者》の召喚石を握り、自身の指の傷を治癒する。


「……ホムラ……」


 とろんとした目のまま息を荒くしているメリル。

 僕はなるべくその姿を見ないようにし、もう一度ベッドに寝転がった。


「これで私とホムラは言葉通り『一心同体』となったわけだ。お前が死ねば、私も死ぬ。どうだ? 復讐を遂げても、生きる理由が見つかっただろう?」


 横になっている僕の顔を覗き込みながら、嬉しそうに話しかけてくるメリル。

 僕は何も答えないまま目を瞑り、寝たふりをする。


「あ、でもホムラはもう私の主だから、言葉使いには気を付けないとな。ええと、こほん。ご、ご主人……様? ……なんか違うな。んん、ホ……ホムラ……様?」


 わざわざ同じベッドに乗りながら、言葉使いの練習を始めたメリル。

 僕は耳を押さえ、頭から毛布を包む。


「ああ、もう! 面倒臭い! 言葉使いとか面倒臭い! とうっ!」


「うわっ!」


「さっきから寝たふりしたってバレバレだぞホムラ! 本当は嬉しいのだろう? 私は嬉しいぞ! ほれほれ! 正直に言ってみろ!」


「嬉しいわけないだろう! 君が強引に眷属の儀をするって言うから……!」


「甘い! 甘いぞホムラ! もう私はお前の眷属フォルクだぞ! 本当は嬉しいと思っているのとか、分かっちゃうんだぞ! このツンデレが! ツンデレ主が!」


 毛布を剥ぎ取られ、もみくちゃにされる僕。

 彼女が本当に僕の心の中を感じ取れるのであったら、僕の中にある冷徹な感情も伝わっているはずだ。

 なのに、どうしてこんなに明るく振る舞えるのだろう。

 僕には一生、理解できない話だ。


 その後もメリルと深夜まで話し合い――。


 ――そして夜が明けた。





「ん……」


 目を開けると、そこにメリルの寝顔があった。

 僕はため息を吐きながら、彼女の身体を引き離す。


 水を一杯飲み、大きく息を吐く。

 そして昨日のことを後悔する。


 メリルは僕の自害をどうにか阻止したいようだった。

 だから僕に眷属の儀を勧めた。

 そして僕の『業』を一緒に背負うと約束した。


 僕は情に流されてしまったのだろうか。

 彼女が、僕と似たような境遇だったから?

 それとも僕を助けてくれたから?


「……むにゃむにゃ……ホムラ……」


 涎を垂らし、寝言を言っているメリル。

 僕はそっと、はだけた毛布を彼女に掛けてやる。


 そしてテーブルに向かい、置いてある3つの召喚石を手に取った。


 『拒絶の力』を宿した召喚石。

 《聖者》の召喚石。

 《亡者》の召喚石。


 大木はこの《亡者》の力を使って2つの能力を発現してみせた。


 『死者の言葉を聞く能力』。

 『骸骨戦士を作り出す能力』。


 もしかしたら他にも何か能力があるのかもしれない。

 この《聖者》の石も、回復魔法以外にも僕が知らない能力を秘めている可能性がある。


 やはり、僕は知らなければならない。

 それぞれの召喚石の能力を。

 《者の力パーソナル》を宿したクラスメイトらの能力を。


 大木との戦いで、僕はそれを学ぶことができた。

 同じ過ちを繰り返していては、復讐を完遂させることは困難――。


「……ふわぁぁ……。あ、おはよう、ホムラ」


 目を覚ましたメリルは、目を擦りながら僕の傍に寄ってくる。


「おはよう、メリル。さっそくで悪いんだけど、昨日の話の続きをいいかな」


「話の続き……? ああ、召喚石と王召石のことか」


 ちょこんと僕の横に座り、メリルがもう一度説明をしてくれた。


「この世界にいる20人の『王』には、それぞれ『王召石』という特殊な石が体内に埋め込まれている。それを使い、それぞれの国を支配しているというわけだ」


 彼女は説明を続ける。

 王召石と召喚石は、いわば対になっているものだ。

 その石を奪い合う戦いが、幾度となく繰り返されている『王』と『女神』との戦い――。


「だったら冥王を倒せば、彼が持っている『王召石』が手に入るってこと?」


「まあ、そうなるな。ただ、過去の戦いで各『王』を倒したことがあるのは、対応する《者の力パーソナル》を宿した異界人だけだという話だから――」


「――つまり、冥王を倒せる可能性があるのは、『亡者』の力を宿した大木だけ、ということになる」


「うん。そういうことだ」


 僕の言葉に頷いたメリル。

 彼女はそれを知っていて、何故僕を助けてくれたのだろうか。

 彼女の最大の目的は『冥王を倒すこと』だ。

 ならば大木に加勢し、彼の眷属になるのが普通だろう。


「……今、ホムラが考えていることを当てようか。『どうしてオオキジュンイチじゃなくて、僕の眷属になったのか?』」


「う……」


 思考を読まれ、たじろいでしまう僕。

 やはり眷属の儀なんて、するべきじゃなかった……。


「そんな簡単なことも分からないようじゃ、この先が思いやられるぞ、ホムラ」


 腕を組み、含みのある笑みでそれだけ答えたメリル。

 そして当然のように理由は教えてくれない。


「……冥王を倒して『王召石』を手に入れたら、僕からだったら簡単に盗めそうだから?」


「盗むか! そんな理由ちがう!」


 僕の冗談にすぐに反応するメリル。

 前にも同じようなことを言って、同じような反応が返ってきたっけ。


 僕は召喚石をポケットにしまい、椅子から立ち上がる。


「とにかく、冥王を倒すにはもっと召喚石について学ばないといけない。昨日、君の言っていた図書館にさっそく向かおう」


「あ、ちょっと……! これからその『理由』をじっくりまったり話そうと思っていたのに!」


 部屋を出ようとする僕を慌てて追いかけてくるメリル。

 行先は要塞都市の中央に位置する巨大な『王立図書館』――。


「こら! ホムラ! 私を置いて行くな!」



 ――背後で騒ぐメリルを無視し、僕は足取り軽やかに宿を後にした。


















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