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眷属(フォルク)

 大木の残した召喚石を拾い上げ、僕は後ろを振り向く。

 さきほどまで骸骨戦士を押さえてくれていたメリルが、悲しそうな表情でそこに立っていた。


「どうして、そんなに悲しそうな顔をしているの?」


 僕は一歩、彼女に近づいた。

 しかし近づく僕を恐れることなく、彼女は僕の胸にしがみ付いてきた。

 そして、何も言わずに、僕の胸で泣いた。


「……聞いていたの? さっきの、僕の話を」


 僕の質問に、そのままコクリと首を縦に振ったメリル。

 泣きやまない彼女になんと答えて良いのかわからず、ただ茫然と立ち尽くしてしまう。


 でも、これだけは彼女に伝えておこう。

 彼女が来てくれなかったら、僕の復讐はここで終わっていたのかもしれないのだから。


「助けに来てくれてありがとう、メリル」


 僕がそう言うと、さらに声を上げてメリルは泣いてしまった。

 

 彼女の泣き声が、いつまでもいつまでも、教会中に響き渡っていった――。





 教会を出た僕らは、そのまま街外れの宿に泊まることにした。

 そこで疲れを癒し、今後のことを話し合うつもりだ。


 すっかり泣きやんだメリルは、さっきから片時も僕の傍を離れようとはしない。

 あれだけ残酷な殺戮シーンを見たばかりだというのに、彼女はもう僕のことが怖くないのだろうか。


「ホムラ。今日はお祭りだから、部屋はあと一つしか空いていないって」


 僕の代わりに宿のカウンターで宿泊手続きをしに行ってくれたメリル。

 しかし、街の状況を見るに、他の宿はきっとどこも満室だろう。


「うーん、今日はもう何度も『力』を使ったし、早めに休みたいところだけど……」


「だから手続きしておいたぞ。一緒の部屋に泊まろう、ホムラ」


「へ……?」


 そのまま強引に僕の腕を引っ張り、空き部屋へと向かうメリル。

 僕はため息を吐きながら、彼女にされるがまま部屋へと入った。


 ポシェットと指輪、3つの召喚石をテーブルに置き、とりあえずベッドに横になる。

 ちょこんと椅子に飛び乗ったメリルは、不思議そうに召喚石を覗いていた。


「これを使って、ホムラは能力を発動しているんだな。ほえぇ……」


「盗まないでよ、メリル。それがないと、僕は何も出来ないんだから」


「盗むか!」


 僕の軽い冗談に、瞬時に反応したメリル。

 お互い、いじめられていた過去なんて無かったかのように。

 今は、無理にでも忘れようとしている。

 

「……ホムラの『力』のこと、もう一度きちんと聞いてもいいか?」


 真剣な表情に戻ったメリルは、僕にそう質問した。

 一瞬、返答に困った僕だが、彼女はすでにもう何度も僕の戦いを見てきている。

 ならば秘密にする意味がない。


 僕は彼女に、この世界に来てからのことを順を追って説明した。


 女神に召喚された20人のクラスメートのこと。

 僕だけ《者の力パーソナル》が宿らず、宮廷を追い出されたこと。

 追ってきた二階堂を殺し、欺の国に向かったこと。


 欺王に《曲者》の召喚石を託し、彼に《王者の力マスター》を授けたこと。

 蓮見を殺し、《聖者》の石を手に入れたこと。

 そして、ユーミルを殺してしまったこと――。


「……そんなことが……」


 ショックのあまり、再び涙を流したメリル。

 僕はそこまで淡々と話し、彼女に背を向けた。


「だからホムラは、私を遠ざけようとしたのだな。『拒絶の力』が暴走して、同じことを繰り返してしまわないように」


「違うよ。僕はそんなにお人よしじゃない。君との契約だって、単にお金が欲しかっただけだ」


「私を半獣あいつらから助けてくれたのは?」


半獣あいつらの態度が気に入らなかっただけだ。別に助けようと思ったわけじゃない」


「……素直じゃないとは思っていたけど、ここまでとは……」


 僕に聞こえない声で、なにかを呟いたメリル。

 そしてそのまま椅子から降りる音が聞こえ――。


「よっと」


「うわ、何だよ!」


 そっぽを向いたままの僕の上に乗りかかってきたメリル。

 そして強制的に仰向けにさせられる。


「ホムラが自分の『力』を怖がっているのはよーく分かった。だったら対策を練ればいい」


「別に怖がってなんて――」


「いいから聞くんだ。さっき教会でホムラの『力』の使い方を見ていたけど、ちゃんとコントロールできていたじゃないか」


「それは……」


 確かにメリルの言うとおり、まったくコントロールができないわけではない。

 ただ、僕の『殺意』がいつ暴走するのか、僕自身にも分からないのだ。


 頭の奥のほうで何かがブツリと切れるような、あの感覚――。

 あの状態で『力』を発動してしまったら、僕の周囲のものは一瞬にして消し飛んでしまうだろう。


「要はホムラがぷっつん・・・・しなければいいってわけだ。それには協力者が必要だろう?」


「う……」


 顔を近づけてくるメリル。

 駄目だ。

 ここでこれから彼女が言うであろう『申し出』に乗ってしまったら――。


「それに力の発動は常にホムラの・・・・前方で・・・起こっている・・・・・・。なら常にお前の背後に陣取れば、巻き添えを喰らう可能性が減るのではないか?」


 さらに顔を近づけてきたメリル。

 僕はそれに耐えられず、彼女から目を逸らす。



「というわけで、だ。私は今日からお前の『眷属フォルク』になるぞ」


「……は?」


















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