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首の傷

 次の日の朝。

 森を出た僕とメリルは要塞都市グランザルを目指す。


「よっし! 気合が入ってきたぞ! 昨晩に立てた作戦通り、オオキジュンイチをコテンパンにしてやるぞホムラ!」


 興奮気味にそう話すメリル。

 作戦では僕が無防備のまま大木に近づき、メリルが上空から奇襲。

 その隙に彼に接近し、『拒絶の力』を発動するという至極単純なものだ。


 僕は軽く彼女の言葉を聞き流しながら、指輪を地図に翳す。

 大木のいる位置は昨日とほぼ変わっていない。

 きっとこの街で冥王を倒すための準備をしているのだろう。


 地図をポシェットにしまい、僕はふとメリルに尋ねる。


「そういえば、その首筋の傷はいつ付いたものだったんだ? 結構深い傷だったけど」


「えっ……? そ、それは……」


 何故か口籠るメリル。

 昨日触れてみて気付いたが、あれは何度も同じ場所を抉られ、皮膚が硬化してしまった跡だった。

 戦闘で付いた傷にしては、明らかに様子がおかしいと感じたし。


「言いたくなかったらいいんだ。誰にだって、秘密にしたことくらいあるし」


「……」


 明らかに態度を急変させたメリルに、僕はそう素っ気なく答える。

 しばらくは黙ったまま森を進んだ彼女だったが、意を決した表情で僕に向き直り、口を開いた。

 が、しかし――。


「けけっ、なーんだメリル。今日は随分と変わった奴と一緒にいるんだな」


「!」


 急に後ろから声が聞こえ身構える僕。

 そこにいたのは半獣のような姿のモンスターが。


「ひいぃ!」


 慌てて僕の背中に隠れたメリル。

 すると次から次に仲間と思われる半獣姿のモンスターが僕らを取り囲んだ。

 奴らは一様に、耳まで裂けた大きな口から涎を垂らしている。


「……友達?」


「んなわけあるかぁ! 状況をよく見ろ状況を!」


 僕の冗談に大声で反論したメリル。

 その様子を見て、なんとなくだが彼女の事情を察知した僕。


 初めて出会ったときも、彼女は誰かに襲われ、逃げ出してきたような印象だった。

 あの首筋の傷も、今思えば獣に噛みつかれたような傷に見えなくもない。


「そんな奴放っておいて、今日も一緒に遊ぼうぜ。俺らが遊んでやるって言ってんだ。断らねぇよな?」


 別の半獣がそう言うと、他の半獣たちが声を上げて笑った。

 僕はその様子を見て、眉をピクリと動かす。


「メリル。まさか、君――」


「逃げよう! ホムラ!」


「え? あ、ちょっと……!」


 急に僕を抱え、大きく羽を広げたメリル。

 そしてそのまま羽ばたき、僕まで空を飛ぶ羽目に。


「けけっ、逃がすな! あのニンゲンも俺らの玩具にしようぜ!」


 半獣のひとりがそう叫ぶと、奴らは一斉に遠吠えをし、僕らを追いかけてくる。


「どうして僕まで巻き添えに……!」


「いいから! あとで謝るから!」


 木々の隙間を抜け、必死に彼らから逃げようとするメリル。

 しかし僕を抱えたままでは上手く飛ぶことが出来ない。

 視線を下に向けると、すでに数匹の半獣が僕らに追いついてきていた。


「さっきよりも数が増えてる……。一体、何匹いるんだ……?」


「この森はあいつらの縄張りだからな。冥の国からこの森にきた私をいじめて、楽しんでいるだけだ」


「!」


 やはり、思ったとおりだ。

 彼女のあの傷は、いじめに遭って付いた傷――。

 何度も何度も同じ場所を噛まれ、皮膚が硬化し、決して消えない傷をその身に刻まれたのだ。


 今はもう、僕の回復魔法で完全に癒えたが、奴らに捕まればまた同じことが繰り返される――。


「……」


「くそぅ! 逃げきれない!」


 ――どうしてだろう。

 何故、どこの世界にいっても『いじめ』は存在するのか。


 集団でひとりにターゲットを絞り。

 あの特徴的な笑みを零しながら、死なない程度にいたぶり、悦に入る――。


 僕は彼女に『聞いてはいけないこと』を聞いた。

 いじめにより付けられた傷は、誰にも知られたくない秘密なのだから。


「……降ろして、メリル」


「! 馬鹿か! 今降ろしたらあいつらの餌食に――」


「いいから」


 僕のあまりにも冷徹な声にゾッとした表情をしたメリル。

 しばらく悩んだ挙句、少しだけ奴らを引き離したあとに地面に降ろしてくれた。


「君は隠れていて」


「……!」


 何か言いたげなメリルだったが、そのまま何も言わずに彼女は森に身を隠した。

 僕はそのまま目を瞑り、静かに『殺意』を高めていく。


 ――これは、彼女のためにすることではない。

 僕は、そんなお人よしでもなければ、正義の味方でもない。


 ただ、憎いだけだ。

 奴らの猟奇的な笑みが、クラスメイトの顔と重なって。

 全身に軽く電流が流れるような、ピリピリとした負の感情が僕の中で高まっていく。


「あ? おい、メリルはどこに行った?」


 半獣のひとりが追いつき、僕に質問する。

 その間に次々と僕を取り囲む半獣たち。


「……彼女の首の傷は、誰がつけた?」


 静かに、それだけ質問する。


「何だこいつ。たったひとりで、俺らを全員相手しようってのか? 笑わせるぜ……!」


 別の半獣がそう言うと、周囲から笑いが起こった。

 僕の質問に答える気がないのであれば、もう言葉などいらない――。


 僕はゆっくりと、奴らのうちのひとりに近づく。


「けけっ、無防備に近づいてきやがって……!」


 大きく口を開けた半獣は、そのまま僕の首筋に噛みついた。

 その瞬間に首から血が吹き出し、辺りに血の雨が降り注ぐ。


 でも、何故か痛みを感じない。

 痛みよりも殺意のほうが高まっているせいなのだろうか。


 左手に召喚石を握り、そのまま右手を奴の後頭部に翳した。

 そして『殺意』を込める。


ジュワッ――!


「ぎいいぃあああぁぁ!! な、なんだ……!? 俺の頭が……ひいぃぃぎぃぃぃいい!!」


 僕を突き飛ばし、その場で悶絶する半獣。

 それを唖然としたまま眺めている奴らの仲間達。


 僕は召喚石を交換し、自身の首に右手を当てる。

 《聖者》の力が発動し、見る見るうちに傷が癒えていく。


「こいつ……《者の力パーソナル》使いだぞ!!」


「なんだと!?」


 騒ぎ出す半獣達。

 僕は首の状態を確かめたあと、悶絶したままの半獣に寄り、再び右手を翳した。


「や、やめろ……! 助けてくれ……!! おい、お前ら早く俺を助け――」


「死ね」


 先ほどよりも強く『殺意』を込め、一瞬にして蒸発してしまった半獣。


 そして残りの奴らを振り返り、僕はこう呟いた。



「消滅したい奴から来い。この世で最も苦しむ方法で、僕が殺してやるから――」


















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