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新たな力

 夜になり、寝静まったメリルに気付かれないように僕はそっと小屋を出た。

 結局ジャンケンで決まったのは、大木を2人で協力して殺した後、冥王ゼノンを倒すということになったのだが、一体彼女はどこまで本気なのだろう。


 庭に置かれた丸太の椅子に座り、上空に光る月を眺める。

 そして右手を天に翳し、今朝の出来事を思い出す。


 前方数十キロに渡る街道を、ユーミルや盗賊らとともに消失させたこの『力』――。

 冷静な状態であれば、消失させる箇所をコントロールできるはずなのに、殺意が暴走するとすべてのものを巻き込んでしまう。


 ポシェットから召喚石を取り出し、月の光に翳してみる。

 未だに光を宿すことのない、ただの小さな石ころ。


 一体いつになったら、僕はきちんと力のコントロールが出来るようになるのだろうか。

 こんな状態で、大木ならばともかく、冥王を倒すなんて出来るわけがない。


「……あれ?」


 ポシェットにしまってあった、もう一つの召喚石が淡く光っていることに気付く。

 僕はそれを取り出し、同じく月に翳してみる。


 《聖者》の力を宿した召喚石はわずかだが青い光を発している。

 明日葉を殺した日の夜はすぐに眠ってしまったから、日中ではこの弱弱しい光に気付かなかったのだ。


 僕は何も考えずにその召喚石を左手に握った。

 そして右手をいつものように構える。


 すると、少しだけ構えた右手が温かくなっていくのを感じた。

 それだけではなく、わずかだが淡い青の光が僕の右手を覆って――。


『うきゃああああああ!』


「!!」


 小屋の中からメリルの悲鳴が聞こえ、慌てて立ち上がる。

 まさか、誰かが襲撃してきて――?


 バン、という音とともに勢いよく小屋の扉が開いた。

 中から飛び出してきたのはメリルひとりだけだ。


「大丈夫かメリル!」


「いててて……。あ、ホムラ! お前どこに行ってたんだ?」


「敵か? どこか怪我をしたのか?」


 召喚石をしっかりと左手に握り、戦闘態勢に入る僕。


「へ……? 敵? 違うぞ、ホムラ」


「……は?」


「せっかく気持ちよく寝ていたのに、ベッドの脇に置いてあった飲みかけの水を足で蹴とばしたみたいでな。それが私に引っ掛かってびっくりして飛び起きたら、間違えて羽を広げて飛んじゃって天井に頭をぶつけちゃったのだよ」


 涙目で頭をさすりながら、そう説明したメリル。

 近くに寄って確かめてみるが、確かにタンコブのようなものが出来ていた。


「驚かさないでよ。敵が襲ってきたのかと思ったじゃないか」


 その頭を撫でてやろうと、そっと右手を翳した瞬間――。


「あ……」

「え……?」


 淡い青の光がメリルの身体を包み込んだ。


 僕は急いで自身の左手を開き、握っている召喚石を確認した。

 これは《聖者》の召喚石だ。

 慌ててしまって、そのまま石を交換せずに握っていたのか。


 しかし、この『力』は――?


「おお! タンコブが治った! これは『回復魔法』じゃないかホムラ!」


「『回復魔法』……?」


「そうだよ! でもどうしてだ……? 回復魔法が使えるのは一握りの聖術師だけのはずなのに……」


「聖術師……。もしかして、この《聖者》の召喚石が……?」


 淡く光る召喚石に視線を注ぐ僕とメリル。

 確かにさっき、少しだけ右手が青く光った気がした。

 そのときに《聖者》の力の一部が僕に宿って……?


 僕は効果を再確認するため、もう一度召喚石を左手に握る。

 そして念じると再び右手に青い光が宿った。


「メリル。後ろを向いて」


「うにゃ?」


 言われたとおり僕に背中を向けたメリル。

 そして彼女の首に軽く右手を触れた。


「ひゃん!」


「動かないで。この傷も治るか、確かめたいから」


「え……?」


 昼間、メリルに手を引かれこの森にやってきたとき。

 彼女の首に古傷のようなものがあるのを確認していた。

 その傷がみるみるうちに修復されていく。


「……やっぱりそうだ。これは《聖者》の力……」


「お、ちょ、ホムラ! え? この傷が治せるの?」


「うん。もう治ってるみたいだよ」


「マジか! あ、ホントだ! やったぁ!」


 自身の首筋に手を当て、喜びのあまり羽を広げて空を飛んだメリル。

 月の光が降り注ぐ森で、彼女の羽ばたきの音と歓喜の声が木霊する。


(クラスメイトから奪った召喚石を、僕の力に変えることが出来る……?)


 もし、そうだとするのなら、これは僕にとって大きな力となる。

 使いこなせれば様々な局面で応用できるし、もっと確実に奴らを殺害することも可能だろう。


「今日は本当に良い日だ! ホムラとも出会えたし、この傷も治ったし! ひゃっほう!」



 ――嬉しそうに上空を飛び回るメリルに視線を向けながら、僕は心の中で大木をどんな残酷な方法で殺そうか模索していた。


















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