過保護と仮戦闘
次の日の朝の事。
マナは右目も左目と同様隠れているのではないかと思うほど、かなりゲンナリした顔をしていた。
何故、昨夜あれだけ上機嫌であった彼女がここまでげんなりしているのか? その理由は彼女の両隣にいる、青い髪の男性と白い髪の女性・・・即ちマナの両親にあった。
「ちゃんとハンカチやタオルは持ったな?」
「お弁当もあるわよ、ちゃんと持っていってね」
「・・・・う、うん」
「大丈夫か? 友達に虐められたりしていないよな?」
「してないよ」
「何かあったら連絡するのよ?」
「・・・うん」
このやり取りのみを見れば、ちょっと過保護な親が出かける娘を心配する構図に見える。・・・・のだが、実はこのやりとりを、もう十分分に一回ぐらいの比率で行なっているのだ。
親ばかにも程がある、ゲンナリするのも当たり前だろう。
事の発端は早朝、何時ものようにかなり朝早く起きた時に、どうやら出掛けている事を知っていたらしい両親が、物凄く心配した表情で問い詰めてきたため、たじろいだマナはうっかり口を滑らせてしまったのだ。
幸運な事に、マナが冒険者か軍人を目指すということに両親は反対しなかった・・・だが問題はそのあと。
大慌てで家中を駆け回り、魔物関係の本やら武器関係の本を――――もうすでに読み終えたあとで役に立たない――――持ち出してカバンに入れ、弁当や水筒やタオルも鞄に詰め込み、日本での“GPS付きケータイ”のようなものを持たせて、次何か無いかと励ましの言葉―――正直言って的外れが多い――――をかけ始めたのだ。
忘れ物はないかの確認、励ましや心配の言葉の掛け直し。これが十分単位で続けば、いくら親が好きな人物でもげんなりするだろう。病的なほど好きではないマナならば尚更だった。
まあ、ここまで過保護なのには一応理由がある。
アルガンド人は平均寿命が地球人よりも遥かに長いが、それに比例して出生率が低い。
マナの両親は見た目的に二十代半ばにしか見えないが、実年齢は倍では済まず、夜の営みを何十回も何十年も行った末にやっとこさマナを授かったといえば、どれだけ出生率が少ないかがわかるだろう。
ちなみに、マナが生まれた年はアルガンド星の歴史の中で一番出生率が高い年だったらしく、その影響で周りにはバギオのような同年代の子が沢山いた為、マナは調べるまで出生率が低いという事を知らなかった。
・・・だからと言って、親バカすぎるのにも問題はある。
「頑張ってねー!」
「無事に帰ってこいよー!」
「・・・・」
今から軍隊主催の遠征にでも行くのかよと突っ込まれそうな見送りを受けながら、マナはあれからさらに道具を詰め込まれて大きくなったカバンを背負い、バギオとの待ち合わせ場所に行くのだった。
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「―――――で、そんな荷物になっちまったってか」
「うん、そう」
「俺の親だって構い過ぎなとこはあるけどよ・・・やりすぎだ」
「・・・だよね」
訓練用“ビースト・アーマメント”を試すため、マナ達は林のある地区に来ていた。
大量の荷物のお陰で “ビースト・アーマメント” 関係のモノが隠れたのは不幸中の幸いだろうが、取り出すときに苦労したのでやはり不幸だけだったとマナは頭を抱え、バギオはそれを微妙な視線で見ている。
ずっとそうやっている訳にも行かないので、マナはとりあえず今一番気になっている事柄を切り出した。
「“ビースト・アーマメント” の本と練習用武器、どうだった?」
「ああ、あれか。武器は何とかなったけど、肝心の本があんま分かんなくてよぉ・・・結局何もできてねぇ」
バギオがある面では少し大人びていたので、マナは危うく忘れるところだったが、彼女が理解できたのは中身が高校生男児だから。
なので、本当の十歳児にマジ物の兵法や、細かな機械設定の載った本を理解しろなど確かに無理だろう。
「・・・簡単なことなら説明するから、分からないとこを教えて」
「お前あれ理解できたのかよ!? マジか、すげぇな!」
「・・・・」
中身は君より年上だからだと言える訳もなく――――いったところで変人扱い――――マナは微妙な表情のまま、バギオの持っていた『近距離・手甲』タイプの “ビースト・アーマメント” の説明をし始めた。
“ビースト・アーマメント” には大きくわけて、マナの持っている『遠距離』タイプ、バギオの持っている『近距離』タイプ、そして最後に『支援』タイプの合計三つがある。
同タイプの中でも、近距離には剣のような物から拳のようなもの、遠距離にはグレネードランチャーのようなものからスナイパーライフルのようなものまであり、複合されているそれらを使い分けるのが、“ビースト・アーマメント”の基本となるのだ。
また、遠近両用タイプとは言え使い手に合わせて成長するため必ずどちらかに偏っており、完全に両タイプが拮抗しているのは新兵の持っているものぐらい。
支援タイプも、むしろ副武装の方が強力だったりするので、味方の支援よりも本人自らの支援が基本となってくる。
マナが拳タイプの説明を簡単に終えると、バギオはどことなく難しい表情をした。恐らく、説明が抽象的すぎて分からなかった部分があったのだろう。
「・・・つまり、ここのレバーを引いて自分の手を置けばいいから」
「おお、そう言われりゃわかりやすいぜ!」
言われた部分を引いてから拳を置くと、いかにも機械といった感じの変形音とともに手甲の背が開いて彼の腕を覆い、取り込むように閉じた。
「うおっ!?」
「・・・おお・・・!」
装着した瞬間に双方から、バギオは普通の、マナは感動したといった感じの、驚きの声が漏れる。
手甲をつけたバギオが少し腕に力を込めると、大型バイクのエンジンパイプのような部分が震えだし、マナの耳に懐かしいエンジン音を届かせる。
「このまま殴りゃいいんだよな」
「うん」
「よし・・・・オラァ!」
彼はそのまま真剣な顔になったかと思うと、腕を振りかぶって思いっきり地面に叩きつけた。
直後に、林地区を選んで正解だったと思える程の轟音と猛烈な土煙が上がり、一瞬遅れで辺りに振動をもたらす。
訓練用とは思えない程強い、その余りの衝撃からか、マナは若干体勢を崩してよろめいた。
「これでニセモンかよ・・・スゲェなオイ・・・」
「う、うん・・・凄すぎ・・・」
予想の上を行っていた威力に、マナ達は三度驚愕の表情を浮かべる。が、バギオはすぐにニカッと笑い、マナの方を嬉しそうに見た。
「でもよ、これで武器使った特訓はできるよな!」
「・・・! うん、そうだね」
マナも嬉しそうな顔で、銃を取り出して少し格好つけるようにクルクルと回す。それに習うようにバギオも鉄鋼を打ち付ける。
「やるか!」
「勿論!」
言葉と同時に二人は向き合い、戦闘を開始した。
マナはまずステップを交えて動き回り、接近しようとするバギオを攪乱する作戦に出た。
この策はあたりだったらしく、まだ少々幼いからか突っ込むことしか考えていないバギオは、彼女の動きの翻弄されたように顔や目線をせわしなく動かしている。
時折来る銃弾を避けているあたり全くついていけていない訳ではない様だが、彼女へ接近して殴ろうとする回数は段々と減っていく。
このまま死角から銃弾を乱射して―――――そう考えて銃を構えた・・・その時、
「しゃらくせぇ!!」
なんとバギオは樹木を二・三本へし折り、内二本を出鱈目に投げ飛ばしてきた。
出鱈目ながらも当たりかけてヒヤッとしたマナに、最後の一本を振り回しながら暴れるバギオが襲いかかる。
銃で撃ったところでまず機動が変えられない攻撃に、彼女は回避で対応するしかない。
「おらっ! どらあ!!」
「わっ・・・うわっ!?」
次々襲い来る剛擊に対処が遅れ、マナは盛大に体勢を崩してしまった。
「へっ、もらったぁ!!」
チャンスとばかりに思いっきり樹木を振り下ろしてきたバギオ・・・だったが、マナの表情を見て笑みが消える。
「ふ・・・!」
「!?」
マナはピンチにも関わらず笑っていた。それを見たバギオは、何かまずいと機動を変えようとする。
だが一歩遅く、マナは体のバネを活かして飛び上がると樹木の上に乗って疾走し始めた。
「やっぱそれかよっ!?」
「・・・いただき!」
樹木を抱えたままで身動きの取れないバギオに、マナは弾丸を四・五発乱射する。
間に合わないと見たかバギオは最初の弾丸二発を態とくらい、樹木から手を離して正面で腕を交差する。
「それじゃ、単なる的だよ!」
「・・・そうでもないぜ?」
「え?」
彼の言葉と共にエンジン部分が震えだし、弾丸はまるで紙細工のように散らせれてしまう。そのまま、バギオはマナへと突貫して、思いっきり腕を振りかぶる。
「オラア!」
「ぬぐっ!?」
咄嗟のガードも余り役に立たず、マナは盛大に吹っ飛ばされて別の樹木にぶつかった。
「やべっ・・・やり過ぎたか―――」
「油断大敵火がボーボー・・・ってね」
「あ!?」
おそらく痛みからの苦笑と共に銃弾を乱射し、バギオはそれをまともにくらって自身も後ろにずり下がらされ、樹木にぶつかる。
彼もまた痛みからの苦笑を浮かべるが、マナよりは若干軽めだった。
「・・・で、本音はどうだよ」
「すっごく痛い、ちょっと動けないかも」
「一旦休憩するか?」
「・・・それに賛成」
たった数分のやり取りでも、初めて武器を使った戦闘をしたのだから、お互いに体力の消耗がいつもより多かったらしく、バギオ文字面にどかっと座り込む。
「俺も結構痛かったぜ・・・」
「うん、痛かった。でも――――」
「楽しかった、だろ?」
「そう、楽しかった」
お互いに微笑と満面の笑みを向け合いながら、自分たちの手の中にある武器を嬉しそうに見つめた彼らは、この後回復するまで “本物はどれだけすごいのか” 、 “もっと使いこなせればバリエーションも増えそうだ” などの会話を交わし、痛みが引いて回復すると同時にまた戦闘を開始した。
そして試合中に、親にまた色々言われそうだと考えてしまったマナが、反応できずに思いっきり顔面に拳を食らい、その影響で気絶してしまったことを除けば、この日の特訓は充実したものとなった。




