贈り物
謎の女性と出会った、その日の夜。
夕飯を済ませて早めに部屋へと戻ったマナは、ベッドの下から本と練習用“ビースト・アーマメント” を引っ張り出す。
まだ本物か偽物かどうかも分からないし、捨てるぐらいならば確かめてみようと、彼女は本を自分の眼前に掲げる。
今まで彼女が知り得てきた “ビースト・アーマメント” の情報は主に四つのみで、一つは目は、 “核”の可動には『ルバンチウム』という物質が一定量必要であること。
二つ目は、“核” に注ぎ込む『ルバンチウム』は入れる量を一定量を超えると、それ以上はいくら追加しようとも稼動時間は伸びないため、多く入れても駄目な事。
三つ目は、一旦入れてしまえばかなりの長時間稼動させることが可能で、もし切れたとしても副武装により戦うこと自体は可能だという事。
四つ目は、ナイフタイプと呼ばれるものでもそれなりの長さと大きさがあることである。
もしこれ以上の『納得できる』ことが書いてあったりすれば、その時点でこれは本物だという考えに頭は傾くし、練習用のものも試してみて何らかの反応があれば『シロ』だという事になるだろう。
一縷の望みをかけるように、マナはそっとページをめくった。
「おぉ・・・」
まず飛び込んできた用語の数々に、マナはたじろぐように声を漏らす。書いてあることはマナが学んできたことに更に踏み込むような物もあって、俄然信ぴょう性が湧いてきた。
「・・・『武装の種類や場合によっては、ルバンチウムを多く入れた方がよいが、ルバンチウムは様々なものを動かす原動力でもあるので、時と場合を考える必要があり――――』」
しばらくは黙読していたマナだったが、気分が高まってきたのか自然と声に出して読み始めた。
他にも『出力次第では半年間供給いらずの武装もあれば、加減しても一週間で切れるものもある』だの、『近距離の武装はエネルギー消費が少ない』だの、『ビーストという名の通り生きていると同義といってもよく、本人に合わせて武装や“核”も成長していく』だのと、マナが今まで知り得なかった情報がわんさか乗っており、彼女の気分の高まりは、座ったまま小刻みに躍らせるほど高くなっていた。
「わ・・・刀みたいな物まであるのか・・・! 銃も近未来的なものから過去の産物まで・・・!」
次第に読書から感想へと変わったマナの言葉は、一人だということも相まってか意外と滑らかに紡がれる。
謎の女性が言っていた様に基本的な扱い方は載っており、近距離は樋口少年だった頃の中学生時代に嫌々やった記憶のある、剣道や空手に準ずるような武術が基礎となっていて、遠距離はガンシューティングゲームもかくやというような、一部の複雑な扱いまで載っている。
一通りの読書が終わったマナは、女性が渡してくれたもう一つの物・練習用“ビースト・アーマメント” に目を向ける。
その銃は機械的な彫り込みのある長方形の立方体の右端を四角くくり抜き、そこから左に少しズレた位置から持ち手とするため折り曲げたような形をしている、本に書いてあったことを信ずるなら “ブロクッス” タイプの中であり、曰く “初心者から玄人まで扱える代物” らしい。
(“練習用から出る弾丸は、半実態的な閃光弾のようなもの”・・・って本にも書いてあったけど・・・練習用とは言え試し射ちをするのは気が引けるなぁ・・・)
半実態の閃光弾、本によれば当たれば痛いことに変わりはないが、本物と比べると何十分の一の威力しかないため危険は然程ない、とかかれていたのだが、元々こういうものと馴染みの無い日本人であったマナは、少々扱いあぐねていた。
夢のモノが目の前にあるかもしれないといっても、それを何の考えもなしにぶっ放てるか、と言われれば、前世での常識や倫理観の事もあり、ちょっと無理という考えが募って手が伸びにくくなる。
きっかり十秒悩んだあと決心したらしいマナは、銃を手に取ると窓を開け銃を空へと向けて、引き金というよりはスイッチに近いトリガーへと震えている指をかける。
そして――――――
「Shoot・・・!」
お気に入りだった《アポロ・パブリック》の主人公の決めゼリフと共に、指を引いた。
発砲音など無いはずなのに空気を震わせ、銃口から鮮やかでも濁っているわけでもない、曖昧な色をもつ光の玉が宇宙へ問直線に登ってやがて消えていく。
その光の玉の通った跡をしばらく見続けていたマナだったが・・・徐々に、徐々に震えだし・・・銃を握っていない左手をグッと握って嬉しさを抑えきれないといった感じで笑顔を浮かべる。
その後でまた3発ほど射ち、一発限りの騙しでないことを確認したあとで、マナは感嘆の声色で呟いた。
「本物だ・・・本物なんだ」
超人的な身体能力よりも、人外の様相を持つ人類よりも、自身の望んだ “ファンタジー” を手にして、マナはこれ以上はないといった感じで喜んでいた。
「これこそっ・・・ファンタジー・・・!」
もしマナが本当に少女だったのであれば、両足揃えて飛び跳ねていそうなほど嬉しそうに体を震わせ続け、もしバギオが試していないのならば早く教えてあげようと思いながら、銃をくるくる回しながらベッドに腰掛ける。
ベッドの上でも座りながらポンポンはねるマナ。
と、そんな彼女の耳に階段を上がる音が入ってきた。
「やばっ・・・!」
過保護な親の事だ、 これらを見たら何でこんな物をと怒ったり疑う前に、危ないからと取り上げられてしまうだろう。
ベッドの下に隠してこれから親が言うであろうことを予想しパジャマを用意して、ベッドに座ったまま開けっ放しの窓を見つめる。
「マナ、お風呂入ったから入っちゃいなさい」
「・・・うん、わかった」
「あら、また外を見てたのね。本当に好きなのねこの街が」
「・・・うん、好き」
彼にとっては親もちょっと他人扱いよりなのか、どことなく不器用に返していた。
母親が部屋を出ていくのを見やり、ベッドの下にしまった “物” をさらに奥へとやるってから、パジャマを抱えて風呂場へと向かった。
――――――明日武器を使った訓練を行う事と、バギオの“ビースト・アーマメント” が一体どんなものなのかという、楽しみを内に抱えながら。
・・・・余談だが、アルガンド人の家は仕組みや形などは違うのに、一日三食や風呂のといった生活文化が似通っていたのも、マナは感謝せずにはいられなかったという。




