正体不明
バギオと出会ってから更に数週間。
マナとバギオはお決まりとなったように早朝の街を駆け巡り、お互いを背に乗せ合って腕立て伏せをしたり、図書館から借りてきた―――――と言うより借りてきてはいけない棚にあったものを目を盗んで拝借してきた――――武術の本を参考に組手を行ったりもした。
マナは一度、バギオがなぜ冒険者や軍を目指しているのかと聞いたことがあったのだが、その返答がズバリ『座学や商業は俺に向いてない、それよか暴れ回るほうがいい』と言っているに等しいもので、それを聞いた彼女は盛大に呆れた。
尤も、“ビースト・アーマメント” を手に入れたいからという理由で目指しているマナも、十分に呆れられると思うのだが。
さて、バギオも言っているようにこの星にもサラリーマンのような職業や商業は有り、何でも屋のような職業である冒険者と、街の警邏をしたり危険な種の魔物が繁殖してしまった際に主に動く軍、これらと比べてその商業は人気がないのかと言われると・・・実はそうでもない。
冒険者は、以来にもよるがリスクとリターンが合わないことも多く、魔物が当たり前のように徘徊しているこの星では、魔物討伐依頼でさえ “危険な猛獣を狩る” 事と変わりがないのだが、魔物にもテリトリーがあるため、藪さえつつかなければ基本的に出てこない。
加えて言えば、定期的に入る依頼も痒い所に手が届かないから仕方なく政府が出した、ぶっちゃけ “掃除機で吸い取れない厄介なゴミの掃除” のようなものが大半のため収入が全く安定せず、命の危険もあるので実のところ不人気職と言ってもいいくらいなのだ。
次に軍。これもまた、冒険者程ではないにしろ人気が無い。
惑星・アルガンドは地球よりも大きいが、その中にある国は実は2つしかない。
というのも、マナやバギオの生まれる数年前には大小合わせて7つは国があったらしいが、その中の内1つの国が資源獲得という理由でに3つも国を理不尽に飲み込んで強大な勢力となってしまったその国を討伐するために、3つの国が連合を組み数年に渡る戦の結果連合が勝ったものの、統括者達の暗殺も手伝って規模的に言えば2つの国が残ったような状態となり、現在の様にたった2つしか国がないという状況になってしまったのだ。
この国が二つしか無いという事と、軍の不人気はどう関係あるのか?
同盟を組んでいるため攻め寄せてくる敵も居らず、日本に近い意識を持っているからか犯罪も余り起きない。
彼らは地球人よりも丈夫なうえ、この星で普及している主な武器は、政府が管理し不用意に持ち込むことを禁じている、そもそもがサイズのでかい “ビースト・アーマメント”であるため、他の街は兎も角マナ達の街では死者が出た事が、ここ数年では全く無い。
つまり危険がないという事になり、戦前・戦中では豊富にあった仕事の種類も、今では警邏か護衛か事務仕事が主となっているのだ。
が、犯罪などしょっちゅう起きる物ではないのに、どんな時だろうと警邏をクソがつくほど真面目に、しっかりやらないと減給だの反省文だのをかせられる事になるので、プライベート以外はしょっちゅう気を使わなければいけない仕事など、不人気でもしょうがないだろう。
戦国や三国の時代じゃないんだから、盗賊だって勿論居ない。
しかも先に挙げた通り、軍には冒険者のように命をかける “魔物討伐” があるため、戦が無くなったのになんで命かけにゃならんのだ、そんな事するくらいなら上司にペコペコしながらサラリーマンやってた方が増しだ・・・・・と思うのも仕方ない事だ。
同盟外の外国という他の国があるからこそ自衛隊や軍隊があるのだから、彼らは軍というよりも政府お抱えの冒険者と言ったほうが、案外シックリくるかもしれない。
だが、不人気とは言えマナやバギオのように目指す者達がいるのもまた事実。目指すものが居なければ廃れてしまうだろうから、不人気とは言えそれなりに人は入ってくるのだろう。
・・・だがまさか政府も、ビースト・テクノロジー目的や座学回避のためにそれを目指す者が混じってくるなど、想像もしていないだろうが。
ともかく特訓を一通り終えた彼女らは、一旦地べたに座ってスポーツドリンクを煽り、マナは軽く、バギオは抑えることなく笑み、弾んだ様子で言葉を交わす。
「・・・・楽しみだよね、五年後」
「ああ! 楽しみだぜ五年後!!」
・・・様子から見るに、彼らは座学をあまり真面目にやっていないのだろう。でなければ、ここまで夢に満ちた目はしない。
だが、冒険者はともかく軍に入るにはそれなりの頭脳が必要なので、別に全部聞き流しているわけでもない・・・筈だと信じたい。
談笑する彼らの周りにも健康のためにランニング――――というかもはやパルクール―――をする人達が何人も見えるが、彼らのような十歳の子供は見かけない。
十歳といえばまだまだ親に甘えたい盛り、バカやって騒ぎたい盛り。中身が高校生なマナと、自立心の強いらしいバギオが例外なだけであり、どちらかといえば、これが当たり前な方だろう。
明らかに同年代より強くなってきているマナとバギオ。
地球と同じ空を見上げ、ふと頭に浮かんだ事をマナは口にした。
「・・・体術は、なんとかなりそうだけど・・・」
「まぁ、武術の本かっぱらってきたからな」
「・・・でも、武器の扱いはどうしようもない」
「それなんだよなぁ」
“ビースト・アーマメント” は勿論のこと、日本よりは規制が甘いものの、基本的に武器類の携帯や所持は、日本と同じように禁止されている。当然子供が持つなど以ての外である為、彼らが特訓で磨けるのは体術のみとなってしまう。
冒険者は名を上げないと良い依頼は来ないし、名を貫いているだけあって階級制である軍もまた、頭脳か体捌きが良くなければずっと下っ端扱いであろう。
いくら同年代を抜いているとはいえ、才能あるものが出てこないとも限らないし、同じ年に仕事に就こうとするのは同年代ばかりではない。
ならここらでいっちょ差をつけてやりたいというのが彼らの考えなのだが、マナの家もバギオの家も政府関係や冒険者関係からは縁遠い位置にいるので、正直な所どうしようもない。
「入ったからにゃ凡百で終わりたかねぇんだけどなぁ・・・」
「・・・う~ん・・・」
う~んう~んと、元・唯の高校生と十歳の子供が、平均以下の頭脳を唸って考えていると――――――
「君たちは、軍に入りたいのか?」
「え?」
「・・・?」
後ろから声をかけられた。その人物は一切の気配なく、いつの間にやら後ろに立っていた為、子供である彼女らも流石に驚いて後ずさる。フード付きケープをかぶっているから尚更だ。
「だ、誰だお前!?」
「・・・・っ!」
「おっとと、驚かせてしまったかな? ・・・大戦時の癖が抜けないな・・・」
男にしては背が低く声が高い、おそらく女性であろうその人物は、やらやれといった感じで頭を振りながら、自分への呆れをを込めたような声色でつぶやく。
彼女は明らかに不審者なのだが、あまりにも私は不審者ですと言わんばかりの格好をしていたからか、それとも彼女の持つ独特な雰囲気に絡め取られたか、マナ達は逃げようともせず立ち尽くしていた。
「それでどうなんだ? 名実が伴わない職種や、あんな廃れた名ばかりのような組織に、君達は入る気なのか?」
「あ? 何言ってんのか知らねぇけど・・・入る気だよ! そのために特訓してんだ!」
「ふむ・・・そこのお嬢さんはどうだ?」
「・・・目的のために、入る気です」
「そう、か・・・」
女性は暫く悩むように顎に手をやり、幾分か調子の上がった声で彼らに本と、マナには銃のような、バギオに手甲のような、あるものを手渡した。
「・・・?」
「なんだこれ?」
訳の分からぬままに受け取った彼らへ、女性が驚愕すべき事を告げる。
「“ビースト・アーマメント” の基本的扱いの乗った本と・・・縮小させて擬似的に再現した、所謂『練習用』の “ビースト・アーマメント”だ」
「なぬぅっ!?」
「うそっ・・・!?」
思いもよらぬところからの、今一番切望している贈り物に驚き、ついで疑うマナ達に、女性は今度は調子を下げて言葉を続けた。
「偽物だと思うなら捨てても構わないし、入る気が途中で失せたのなら破り捨ててもいい。だが、もし君達が五年後にギルドか本部に来る気が本気であるなら・・・書かれている事を存分に学び、反復することだな」
「・・・・は、い」
「・・・お、おう」
思わず頷いてしまう雰囲気を醸し出す彼女は最後に僅かに微笑むと、軽く手を上げてケープを翻し、瞬く間に去っていってしまった。
それらを手元に置いたまま固まっていた彼女等だったが、先に正気に戻ったマナが、ポツリ呟く。
「・・・・とにかく、あの人が言った通り偽物なら捨てればいいし、見るだけ見てみよう」
「・・・そうだな」
この後とても特訓する気になれなかったマナ達は、とりあえず今日はこれで解散しようと、本と武器を手に家へと向かい、それらを隠しながら自身の部屋に持ち込んだのだった。
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「・・・あの少女と少年は・・・中々の人材だったな。もし、彼らがこのまま立ち上がってくれたのならば――――――――
この星の『二つの危機』に対応しうる、力の一つがまた埋まる・・・期待しているぞ、少女達」




