情報収集
地球とは違う場所・・・いや、違う次元というべきか。そんなとある世界のとある街で、窓から外を見ている、齢十歳程の少女がいた。
彼女の髪色はとても奇妙で、例えるなら何も書かれていない真っ白なキャンバスに、少し左側にずれた位置に太く青い線をまっすぐ書き入れたような、そんな配色だった。
左目部分は、其方のみ長めの髪により隠れて見えない。
目の色はダークチェリーで、今はまだ幼さゆえの可愛さに押されるが、あと5年もたてば美しさも引き立ってくるであろう、十二分以上に整った顔付きをしている。
少女は何かに浮かされたように窓の外を見続け、時に嬉しいことでもあったのか僅かに含羞み、また窓の外を熱心に見綴るという行為を繰り返した。
少女でなくとも驚くであろう、そして先に別次元と上げた理由。それは・・・・・
「そらとぶ、はんきのさかな・・・」
魚のような、機械と生き物の中間のような、そんな物体が幾つも幾つも街を泳ぎまわり、日本のモノとはまた違う造形のビル群の間を横切っていく、という事だ。
日本は愚か、アメリカやロシアでも絶対に見かけないであろう光景は、見るものを釘付けにしてもしょうがないだろう。
だがしかし、これ以上に奇妙な事が他にもある。
これ以上のものはないくらい珍妙な光景が広がっているにもかかわらず、歩く人々は全く見向きもしない。感動したような表情で、熱心に見続けている少女の方がおかしいかと思うくらい、まるでそこにあるものが『ごく当たり前のもの』かのように、見事なまでのスルーを決め込んでいるのだ。
そして、道行く人々の方にも問題があった。
右手と左手で大きさが違うならまだいい方で、上半身が大きくて腕が長くゴリラのようになっている者、右腕のみが骨のようでそれが異様に長い者、気持ちの悪いほどに胸と身長のバランスが合っていない者、挙句の果てには頭部が人の形をしていないものまでいる。
世界に百人ひとがいるとして、少女の様に普通の人間の形をしているものを約五十人だとすると、残り五十人は上にあげたような異形を持っている者達で構成されているようだった。
しかし彼らはそれを気にもせずに、若者は屯し大人は急かされるように歩き、現代日本とあまり変わらないような光景を作り出している。
熱心に見ているのは、青ラインの少女のみだ。
異常なまでに普通を貫く彼らとは正反対・・・異常なまでに光景を目指する少女。
何故、少女だけこの光景を珍しい物のように見続けているのか?
それは―――――少女が元はこの世界の人間ではなく、別の世界の人間だとこと・・・彼女、否彼は、元は現代日本に生きていた、樋口純という、一人の人間だったということなのだ。
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元・樋口少年、現・マナ少女は、奇想天外な景色を見ながら自分が生まれた時の事について思い返していた。
輪廻転生――――一度死にあの世へ運ばれた魂が、別の存在として再びこの世に生を受けて誕生する・・・仏教やヒンドゥー教などがその考えで有名だが、実はどの宗教にもそういう考えが存在している、魂という概念についての一種のメジャーな捉え方の一つである。
それをまさか自分が体験するとは、そしてその体験がわずか数秒単位のものだとは思いもよらなかったマナだが、憧れが目の前にあるためか “その輪廻転生が実在したおかげでこういうふうに憧れていた光景を見る事ができたのだから、あの強烈に痛い事故にも感謝して良いかも” 、とまで考える始末である。
それはともかく! とばかりに、ファンタジー世界に来たのならば情報が必要だと、マナは幼いながらに本を読み、親に聞き、テレビをみやり、この世界の情報をかき集めた。
まずこの彼女がいる星は “アルガンド” と言い、ファンタジー世界ではお馴染みの存在である、魔物が徘徊している星でもあった。
通貨単位は、硬貨が “レゴン” 、紙幣が “スパーラ“ であり、大体の紙幣価値や体系は日本に似通っている。
この星の中心となっている文明は “ビースト・テクノロジー” と言うもので、とある科学者が生き物のような機会を作り出せないかと思いつき、そこから生まれた『機獣』から発展していったテクノロジーらしい。
『機獣』の体の中には球体のような『核』と呼ばれるものがあり、その『核』は『機獣』の持つ強力な武装等を動かす強力なエネルギーを持っているらしく、これがなければ『機獣』の強みは、現代でいうレアメタルで構成された機械のような “外殻” のみとなってしまい、武装は見てくれだけのお荷物となってしまうらしい。
もっと言えば、その強力な武装を動かせるほどのエネルギーを持った物体を生み出した、とある科学者もかなりすごい人物なのだが。
そして“ビースト・テクノロジー” の中で最も発展しているものが、『機獣』の武装を主とし作り出された武具――――通称“ビースト・アーマメント” である。
『機獣』の持っている武装を自分達も使えないか、という考えから生み出された代物で、遠近さまざまな種類のものがあるのだ。
改良に改良を加えた結果、現在では遠近両用のものが主流となっている。
調べ終えたマナは、この星に存在していた “ビースト・テクノロジー” を見て狂喜乱舞した。
前世・・・即ち樋口少年だった頃には、ファンタジーものとスペースオペラものをよく読み、強い影響を受け憧れていた為、ファンタジー技術+最新技術という、大好きなものを上手い具合にドッキングさせたものを見た彼(今は彼女)が、狂ったほど喜んだのも仕方の無いことと言えるだろう。
唯一最大の悩みとして、“見ている分” には楽しいが、“実際に体験する” となると辛い、『性転換』が自身の身に起きてしまったことなのだが・・・それも今では気にならないくらい、彼女はウキウキしていた。
(調べたとこだと、“ビースト・アーマメント” は冒険者ギルドか軍に所属すれば、初級のものだけど貰えるらしいし・・・ああ、早く五年後が来ないかなぁ・・・)
五年、あと五年経てば望みのものを受け取ることができるのだ。
軍に所属するか、冒険者となるか。悩むマナだが、残り五年の間に決めればいいと、ウキウキを止めずに足をパタパタさせ、ニンマリと笑う。
彼女は知らない。
調べ物をする際に、一番重要である “現在の状況” と、 “歴史” を調べ損ねていたことに。
この星に、ある危機が迫っているという事に。




