一目
がやがやと賑わうオークション会場。
男共が品定めをしているのは珍しい悪魔やら獣人だった。
猫耳の女やインキュバス、様々な奴隷が売られるこの場所に、何故俺がいなくてはいけないのか。
「…ただのオークションじゃなかったのか……。」
ぼそりと呟いた男、黒亞奏は呆れていた。
仕事の部下にいい場所があると聞いてやって来たのだが、まさか奴隷のオークションだとは思わなかった。
一通り終わったら直ぐに帰って部下を怒鳴ろう。
そう思った時だった。
「さぁさぁ皆様お待ちかね!本日の大目玉だよー!」
男が声を大きくし紹介する、ああ、これで帰れるのかと頬杖をついた。
運ばれて来たのは檻、その中には一人の男がいた。
「さぁどうです!この翡翠の髪!瞳も同じく翡翠色!しかも悪魔の中でも上級の悪魔が手に入りました!どう調教しても構いません!最初は30から!さぁどうぞ!」
うるさそうに眉を顰め顔を上げるその奴隷は、冷めた目で手を挙げていく男共を見下していた。
一瞬、視線が合う。
翡翠色の光のない瞳に俺が映っていた。
そして一言 ¨たすけて¨
「…さて、現在590!590でごさいます!他にいらっしゃらないのならこれでいきますよー?さぁ!」
「………630。」
気が付けば、俺は手を挙げ、たった一言を発する。
全員こちらを向く、そして目の前の男も、じっとこちらを見ていた。
「…ほ、ほかに居ませんね!?し、終了です!630です!」
ばんばんと終了の合図にぞろぞろと人が帰っていく。
それでも気にせずに、俺は買ってしまったあの男を、ずっと見つめていた。
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