母さんは絶対的な力を持っている?
訂正しました。
朝とは、小鳥の鳴き声で起きることが出来る唯一の時間だと言えるだろう。
しかしそんな起き方をすると、学校がある日は地獄を見ることがある。僕の経験上の話でね。
では今日は何曜日だ?カレンダーを見るとなんと、土曜日ではないですか!
これはもう寝るしかない!
土曜の二度寝は世界一~!!
「さてと……ぎゃっ!!」
布団に入って目を瞑った時だった。おでこに重いチョップを食らってしまった。
しかもその重いチョップの持ち主は皆さんご存知の咲夜先生だ。
「貴様、土曜だからとたるんでは駄目だぞ」
どうやら低血圧で不機嫌なのだろうか顔がうとついている。
「先生、低血圧なら寝てて良いんですよ?僕も今から低血圧になって昼まで寝るんで」
流石は僕。低血圧な先生に心配をしているようでしていない。
しかし、先生の低血圧は異常だ。
さすがに寝た方がいい。
僕は布団に入り込もうとした時、先生に呼び止められた。
「何?き、貴様は今からでも低血圧になれ、りゅのか?」
僕は言葉の選択を誤ったのかも知れない。
朝の七時に説明するような話ではないし、それに先生もそんなにコクリコクリと寝落ちしかけるなら休日ぐらいゆっくりしてください。呂律が少し回ってませんよ。
「先生、流石に休日まで真面目すぎますよ。休日ぐらいゆっくりしてくださいよ」
「なに……ぐぅ……ふぁ……!?……いっていりゃん……ぐぅ」
「ほらほら、もう寝かけ寸前じゃないですか。自分の部屋に戻ってちゃんと寝てください」
僕がそんな事を言っている間に、先生は座りながら船をこいで寝てしまっていた。
まだ僕の隣の部屋に昨日引っ越しをしてきたばかりで、片付けるのが大変だったらしく。
昨日は殆ど寝ていなかったらしい。
そんなの低血圧関係無く寝てしまう。
先生は真面目故にピュアで低血圧で見た目より女の子らしい。
そんな先生が僕の担任だ。
しかし此処は僕の部屋。
先生を隣の部屋に移さなくては行けない。
布団から抜け出し、座りながら寝ている先生の後ろに立つ。
「先生?僕はただ先生の部屋に先生を戻すために先生の脇を抱えますけど………セクハラで訴えないでくださいね?」
先生は僕の言葉が分かったのか、頭をコクリコクリと上下に振ってくれた。
よし、運び出そう。
先生が起きる前に。
寝ていても先生を移動させるのはかなりの苦労を強いられた。
まず僕の部屋のドアを開く音で『……と』と先生は呟き。
次に廊下で『……り』と呟き。
先生の部屋の前で『……が』と呟き。
最後は先生の部屋で『……何故……鶏ガラ……になりたいん……だ』と寝言とは思えない事を呟きになられた。
正直、起きてるんじゃないかと錯覚に陥るところだった。
てか鶏肉から鶏ガラにランクダウンしてるのか?
僕は肉を削がれて、骨で出汁を取られる人生なんだろうか。
僕の人生がさらに不安の陰が濃くなった気がする。まぁ、それについては追々として………。
僕が今居る所は女性の部屋で良いんですよね?
先生には失礼だが女性の部屋の筈なのにまるで男の部屋に居る感じがする。
周りを見てみると、家具は黒を基調としていて、たまに白物があるくらいだ。
女性らしい物は化粧系統ぐらいだろう。
すこし興味は沸いたが、此処は担任の部屋であり、女性の部屋でもある。
僕は先生をカーペットの有るところに寝かせて先生の部屋を出た。
「はぁ……女の人の部屋って緊張するな~」
担任は担任だけど女性は女性だ。
まさか僕の初女性の部屋は担任に取られてしまった。
それもこれも低血圧のせいにしておこう。
低血圧と言えば、話の発端から一時間が経過している事が廊下の時計で分かる。
八時だ。
充分に二度寝を熟睡することが出来る時間帯じゃないですか。
これはもう二度寝だな。
「さてと……ほごぉっ!?」
僕の部屋のドアを開けようとしたときだ。
朝と同じ様な事が僕の後頭部に起きていた。
これって何て言うんだっけ……デジャブ?
「いつつ……先生、起きるの早すぎじゃないですかって……なんだソウか」
僕は後頭部を擦りながら振り向いた。
僕の後頭部にダメージを与えたのはソウこと蒼子だった。
そして朝から笑顔を絶やさないで挨拶してくる。
「おはようっす!荷稀君」
「あぁおはよう。じゃあお休みなさい」
挨拶を交わして自分の部屋のドアノブを捻った時にパコンとスリッパで頭を叩かれた。
「っつ~。何すんだよ!」
「スリッパで頭を叩いたっす」
と言って、ソウが持っていたスリッパは健康スリッパだった。
良く見たら少し赤い何かが付いているような気もしない。
「あっ、私のスリッパに血が……」
「やっぱり血だったんだ……」
「うん血っす」
この時、血が出るほど殴られて頭が覚めたのか、一つの疑問が生まれた。
何で此処にソウが居るんだ?
ちょっと待てよ?此処のアパートって僕と先生以外の住居人は居ない筈だろ?
まさか、
「あらあら。蒼子ちゃん、そこに居たんですね~?」
ほんわりとして柔らかな聞き慣れた声が、ソウの後ろに延びる渡り廊下の奥の玄関から聞こえた。
母さんだ。
「おばさん!私もおばさんのこと探していたっすよ!」
ソウもその柔らかな声で気づき、後ろを向いて手を振る。
「あらあら、ごめんなさい。お姉さん少し迷っちゃっいまして……」
と言いながらエプロンを翻し、此方に向かってくるが途中で分かれ道の方へと曲がってしまった。
「あっ!おばさんこっちすよ!?」
すかさずソウが連れ戻してきた。
「あらあら?おかしいですね~。このアパートに来ると何時も迷っちゃうんです」
僕はここで物申した。
「母さん。かなりの方向音痴なんだからジッとしててよ」
「ほ、方向……ですか……?」
母さんは少しビクッとなりながらも笑顔を絶やさず小首を傾げた。
僕はこの母が方向音痴なのは昔から知っている。
昔から知っていると言ったが、本当の母さんじゃないらしい。
この人は御島津 世羅僕の育ての親だ。
何時もニコニコしててほんわり柔らかい口調で、歳は分からないが見た目は淡い茶髪のロングに、昔から変わらないプロポーション………僕の中では疑問の一つだ。
小さい頃から見ている筈なのに何も変わっていない。
だが、僕が小学六年生の頃に、『背が延びたんですよ~』と喜んでいた事は覚えている。
あれは何だったのだろう。
「それに歳なんだし、ゆっくりしてなよ」
それを聴いて母さんはさらにビクッとなり、白くなっていた。
「お、お母さんはまだまだピチピチの二十代……ですよ?」
「またまた冗談でしょ?今の今まで変わったようには見えないけど三十入ってるでしょ?」
まったく、変わらないは変わらないけど流石に……ねぇ?
やれやれだぜ。
と手のひらを上に首を横に振っていたら、
「まだまだ……二十代、なんですよぉ……私はまだ二十代、なんですよぉ……?荷稀くん」
と、片腕を掴まれ母さんを見ると、笑顔は笑顔だが、目が薄目になりながら此方を見ていた。
「は、はい……マザー」
「よろしい♪」
また何時もの笑顔に変わったと思いきや、標準移動をした。
「蒼子ちゃん?」
「な、なんすか?」
母の笑顔と体育会系の笑顔の対決だ。
両者、数秒見合い。
先制をしたのは母さんだった。
「私はぁ……お姉さん、ですよ?おばさん、じゃなくて………お姉さん、ね?まだ二十代、だからね?」
僕に教えを授けてくれた時と同じで、ニッコリした笑顔だが薄目でソウに教えを説いている。
この精神攻撃にソウは……
「い、イエス……ドータ」
蛇にでも睨まれた顔をしながらブツブツと呟いていた。
この勝負の勝者はお母様のようだ。
あの薄目に勝てる者が居るのか、
「ふぁ……何事だ……?」
僕の隣の部屋の扉が開き、眠たげな先生出てきた。
居た………と言っていいのか?咲夜先生だぞ?先生の事だからピュアなハートで『そうなんですか!?私も二十代ですよ!』とか良いそうだな。
「………むぉ?これは……黄塚さん……おはよう、ございましゅ」
「おはようございます。咲夜先生」
にっこりと笑顔で対応するお母様に対して、先生は何時ものキリッとした大人な感じじゃなく。
どちらかと言うと幼い少女が夜中に起きてしまって眠たそうに襖から出てくる風景が先生から感じ取れる。
それに髪はボサボサで結っていないし。
あの完璧な風貌さが全く無い。
そんな咲夜先生に対してお母様は、
「咲夜先生ダメですよ?朝はきちんと起きて、シャキッとしないとダメですよ?」
「………はい、お母さん」
てなづけた!?
いや違うはずだ!!
あれは先生のピュアなハートがお母様をお母さんと誤って認識してしまったに違いない!!
「さ、朝御飯にしましょうね?」
「………はい」
母さんが咲夜先生に手を差し出し、先生も片手で目を擦りながら母さんの手を握って付いていってしまった。
「………ソウ」
「………なんすか?」
「………母さんって凄いんだね」
「そうっすね」
二人で食堂へと向かっている筈の二人を見て呆けた。
すると母さんから電話が来た。
『荷稀くん。食堂って何処だっけ?』
僕はそれを聴いて項垂れた。
次回はプロフィールです