第二話
注意:こちらはSS速報VIPに書き込んだ内容をまとめた物となっています。
作者=ゆうきゆい(仮)=>>1=◆rMzHEl9LA2です。
次の日、四時間目の授業が体育なので男子更衣室へ向かう。
歩きながら、『人類ラヴコメ化計画』において主人公というポジションに選ばれたごく普通の男子高校生である河野純一が溜息混じりに口を開く。
「――はぁ、不幸だ……」
「はぁあ? 純一! お前、あんな思いをして何が不幸だって!?」
「ちょっ!? や、やめ、く、ぐるしい……」
そう言うと河野純一の隣を歩いていた男が落ち込む河野純一の首に腕を回し締め始める。
河野純一の首を絞めるこの男の名は麦野陽介、『人類ラヴコメ化計画』において『腐れ縁の親友』というポジションに選ばれた男である。
ちなみに俺は『人類ラヴコメ化計画』において『同じクラスの親友』、河野純一、麦野陽介を含む三馬鹿の一人というポジションである。
彼が言っている『あんな思い』とは教室で突然、河野純一が転倒、クラス委員の胸に思いっきりダイブしたラッキースケベイベントのことである。
ラッキースケベイベント……それは主人公という大役を与えられた者にのみ行使できる特権である。
突然、何処からとも無くえっちな触手が召喚されたりするのもこの主人公特権によるものである。
ちなみに今回は俺が手を出したわけではなく任務の実行者は西崎律――コードネーム:黒だったりする。
コードネームの由来は腹黒の黒からであり、読み方もそのまま黒である。
黒と書いてヘイとは絶対に呼ばれることは無い。絶対に読んではいけない。繰り返す、絶対に読んではいけない。
彼女はロープやワイヤーなどの扱いに長けている為にこの手のイベントでは重宝されたりする。
故に次の任務も彼女によって行なわれる。
腕時計に目をやる。開始まで残り二分……。
「――ゼロより黒へ、目標が二分後に目的地に到着する」
襟元についた小型マイクに小声で話しかける。
すぐに片耳イヤホンから返答が帰ってくる。
『黒よりゼロへ、了解、これより任務を開始します』
西崎からの返事を聞いた俺は河野純一達を確認する。
近くでは麦野陽介が『河野純一がどれだけ報われた存在』なのかを語っている。
俺は腕時計へ視線を向け心の中でカウントを開始する。
三十秒前……。
二十秒前……。
十秒前……10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、任務開始
――河野純一が目的地の前を通過しようとした時である。
「――どわぁ!?」
一瞬にして身体に白いロープが巻きつくと河野純一は真横へと引っ張られる――そのまま、女子更衣室へ突撃する。
そう、これは『身体が勝手に女子更衣室へ』イベントの任務である。
河野純一の女子更衣室突撃、何が起きたのか理解できずに困惑している麦野陽介の様子を確認した俺は西崎に話しかける。
「ゼロより黒へ、対象、目標地点への突入を確認した。黒は引き続き女子更衣室で対象を監視、フォローを頼む」
程なくして返答が返ってくる。
『黒よりゼロへ、了解、引き続き任務を続行します』
連絡を終えた俺はまだ、状況が把握できていない麦野陽介にフォローする事にした。微笑みながら話しかける。
「……はぁ、あいつはまたみたいだな?」
「えっと、あれ? あれって……」
まだ、思考が追いついていないようだ。
だから、このチャンスを利用することにする。
「河野純一+女子更衣室=?」
そういうと麦野陽介は理解できたのか、「あっ! あぁー!」と声をあげる。
そして、口を開く。
「あぁー、もしかして、あれか?」
「いや、このタイミングでこれだと、アレしか無いでしょ?」
「だよなぁ~、あいつだから仕方が無いか……」
「そうそう、あいつだからな! 仕方ないさ!」
そして、麦野陽介の台詞に合わせるように俺も同じ台詞を言う。
「また、あいつはラッキースケベか……」と……。
***
「――見事なラッキースケベ再現だったぞ、西崎」
「貴方よりも優秀な私なら当然の成果ですが……まぁ、ありがとうございます」
いつもの様に遠慮の無い物言いで応える西崎である。
昼休み、俺は西崎と共に屋上へと赴き、先ほどの西崎の仕事ぶりを労いながら、共に昼食を取っている。
屋上のアスファルトの地面に家から持ってきたレジャーシートを敷き、俺の作ってきた二人分の弁当を西崎と一緒に食べている。
最初はそれぞれで持ってきていたのだが、毎日、コンビニおにぎりを食べていた西崎が気になったので、俺は西崎の弁当も用意する事にした。
大事な任務中に足を引っ張られては困るからだ。故に部下の健康を気遣うのも上司としては当然である。
「――ところで西崎、今日の卵焼きの味はどうだ? お前の好みに合わせて甘めに作ってみたのだが……」
「卵焼きですか?」
そう言うと西崎は弁当箱の卵焼きへと初めて箸を伸ばし、口に運ぶ。
咀嚼した後飲み込み、しばらくして口を開いた。
「相変わらず料理の腕だけはなかなかですね。問題点をあげるなら、もう少し甘さを抑えた方が私好みの味に近づきます」
「なるほど、もう少し甘さを抑えるか……」
西崎はそういうと再び卵焼きへと箸を伸ばし食べ始める。
俺は西崎の話からどれだけ砂糖を減らすか考えながら、西崎に続いて卵焼き以外の料理を食べ始める。
ふむ、美味しいとは思うがまだまだ上を目指したいものだ。
最終目標は食べただけで虫歯が吹っ飛び新しい歯が生えてくるような料理だったり、あまりの美味さに巨大化して城を破壊できるレベルである。
「まだまだ、先は長いな……」
「何がですか?」
西崎の問いに「いや、何でもない」とだけ答える。
少なくともまだ、歯が吹っ飛ぶレベルに達してない辺り、巨大化なんて夢のまた夢だろう……。
もう、G-ウィルスを再現、開発してご飯に混ぜて食べてしまおうかと思ったが考えるだけでやめることにした。
さすがに巨大化出来ても人の形が保てないのは勘弁して欲しい所である。意識もなくなるし、かゆうまな日記を書く趣味は俺には無い。
「……明日は休日ですね」
「ん? あぁ、そうだが……」
「今日、組織から新島七海の好感度を上げろと連絡がありました」
今日、携帯電話を家に忘れてしまったからな……まさか、そんな日に限って組織から連絡が入るとは……。
新島七海――『人類ラヴコメ化計画』での後輩系ヒロイン役に選ばれた女である。
河野純一への好感度は他二人のヒロインが五十と高い数字であるにも関わらず、彼女の好感度は初期値から変らずの三十である。
好感度の目安として好感度五十以上は『主人公に恋人が居ないのなら、どんなに鈍感でも嫌いにならない』という安全地帯である。
しかし、好感度五十以下はそうではない。好感度五十以上が主人公に恋している状態なら、好感度五十以下というのはまだ恋に恋している状態。
つまり、恋愛に憧れを抱いている状態で、自らが考えている恋愛像と現実の恋愛とでギャップ差があればあるほど好感度が下がってしまう危険がある。
新島七海の場合、一週間前に正装の俺が謎の男として彼女の危機を救い、立ち去る際に河野純一の持ち物を落としたことで『危機的状態を救ってくれた謎の男は河野純一である』と新島七海に思い込ませることでフラグを建て、好感度の初期値を三十という高い数字に出来た。
故に謎の男が河野純一ではないと知れば、河野純一への好感度は0になってもおかしくは無い。
組織から新島七海の好感度を上げるように任務を与えられたのは、そんな危険な状態から脱出し安全地帯へ移行することで完全にヒロインとしてのポジションを安定させるためだろう。
「――なるほど……つまり、何かしらのイベントを起こす訳か……」
「はい、その通りです」
明日は休日――デートイベントを仕込んで好感度を一気に上げようという作戦、西崎の言いたいかったことはこんな所だろう。
西崎が続きを話し始める。
「新島七海は私と同じ部活に所属していますので、新島七海に対して部の買出しをお願いします」
「休日の買出しか……買出しをデートイベントにするのか?」
西崎は俺の問いに「はい」と答える。
「買う品物が多いので男手が必要になるといい、河野純一を男手として利用します」
「なるほど、休日に二人で買出し……即席の買出しイベントか」
新島七海も河野純一と一緒に買出しが出来ると知れば、簡単に了承するだろう……。
俺の仕事は河野純一を部室に連れて行き、必要なら河野純一を説得することか……だが、あのお人好しなら深く考えずに了承するか。
「わかった、放課後、俺は河野純一を部室に連れて行く。それ以外の下準備は西崎に全て任せるが問題ないな?」
「はい、問題ありません。デートらしいルートを通る買い物リストを作成します」
「あぁ、その代わりデート当日のイベントは俺が全て担当しよう。お前は休日を満喫するといい」
西崎は「ありがとうございます」とだけ答えると後片付けを始める。
もうすぐ、昼休みが終わる。俺も西崎と一緒に片づけを手伝い、一緒に屋上を後にするのであった。
***
放課後――俺は授業が終わるとすぐに行動を開始した。河野純一を連れ出す為である。
すぐに俺は帰り支度を始める河野純一もとへ行く。
「河野、少しいいか?」
「ん? どうした?」
河野純一は教科書をカバンに入れるの止め、こちらを向く。
俺はさっそく本題に入ることにした。
「河野、明日は暇だったりするか?」
「いや、残念ながら家でゴロゴロする予定しかない」
河野純一のこの答えは予定通りである。
すでに組織の情報収集能力により調べはついており、河野純一の明日の予定が無いことは確認済みである。
そして、河野純一の性格上、困ってる相手は放っておくことは出来ない事も……。
「実は、西崎に買出しの手伝いを頼まれたのだが、買う物が多くてさ、男手が俺だけじゃ足りないんだよ」
俺が困ったようにそう言うと河野純一は察しがついたらしく、二つ返事でOKしてくれた。
あとは当日、何かしらの理由をつけて途中から俺が居なくなれば問題ない。
あとは若い二人が買い物リストの物品を買いながらデートコースを回るという算段だ。
デートコースを回りながら、様々なイベントを満遍なく加えてやれば、好感度アップ間違いなしだろう。
河野純一に部室で明日の買出しについての説明をするからと告げ、部室へと向かう為に教室を出たところで――
「あ、あのっ! あ、明日の買出し、わ、私も一緒に行っていいですかっ!」
――呼び止められた。
声の主、俺達が部室へ行くのを阻むように目の前に女が現れ突然、呼び止められた。
この女……『明日の買出し』と言わなかったか?
何故、この女が明日の買出しを知っている?
教室で話していたから、この女も教室に居て話を聞いていたのか?
しかし、この女は俺のクラスの人間ではない。
では、この女は教室の外で俺達の話を聞いていたのか?
何者だ、この女は……。
俺は女が何者なのかを確認する為にじっと女の顔を観察する。
女はそんな俺の態度で自らの発言がオカシイと思ったらしく慌てている。
手をばたばたと振ったり、「あの、そのですね」と言っては慌てる姿をじっくり観察して思い出す――綺麗な長い黒髪の小柄な女、俺はこの女の正体を確認のために女に問う事にした。
「もしかして、昨日、不良に絡まれてた子?」
その言葉を聞いた女――ニセあずにゃんはパッと笑顔になり元気に「はい!」と答える。
俺の言葉に河野純一が反応して聞いてくる。
「昨日?」
「はい! 昨日、危ない所を先輩に助けてもらって……あ、あの! 明日、部活の買出しに行くんですよね? 私も一緒に行ってもいいですか?」
何を言っているんだ、このニセあずにゃんは……一緒に買出しに行く?
そんな事になれば、途中で俺が抜けても新島七海と二人っきりにならない。
どうする……ニセあずにゃんが河野純一に惚れるようなイベントを仕込むか?
いや、駄目だ……そうなれば、新島七海の不安定なフラグが完全に消滅してしまう……。
なら、どうする? 俺が二人から離れる時にニセあずにゃんも一緒に連れて行くか?
駄目だ、そんな事になれば、明日、イベントを仕込むことは100%不可能だ。
クソッ……昨日、巻き込んでおいて、またしてもニセあずにゃんと関わる事になるのか?
おのれ、ニセあずにゃんめ……またしても、貴様のせいで台無しだ!
そんな風に思考している河野純一からとんでもない言葉が飛び出した。
「いいぞ。なぁ、この子も一緒に行ってもいいだろ?」
「えっ?」
今、河野純一はなんて言った?
一緒に行く? ニセあずにゃんと?
頭が混乱する。どうすれば、 ニセあずにゃんを断れるのか考えないと……。
そして、河野純一の一言によって逃げ道が塞がった。
「丁度、人手が足りないって俺に声かけたんだから、人手は多い方がいいだろ?」
ニセあずにゃんを断る事が出来なくなった。
連れて行かなければ、人手が足りている事が河野純一にバレてしまう。
つまり、俺に選べる選択肢はもはや一つしか無いのだ。
俺、河野純一、新島七海、ニセあずにゃんは明日の休日に買出しに行く事になった……。
注意:こちらはSS速報VIPに書き込んだ内容をまとめた物となっています。
作者=ゆうきゆい(仮)=>>1=◆rMzHEl9LA2です。