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着信1

着信1【新入社員】

「しゃちょー!街の巡回終わりました!今日はもうデスクワークしなくてもいいですか!!」

社長室の扉を蹴り破る勢いで入ってきたのは茶髪と人懐っこい笑顔が印象的な黒スーツの男性。その男性を見て、社長とよばれた黒髪・黒スーツの男性は大きなため息と共に呆れた表情で彼を迎え入れた。

「いい加減に優しく扉を開けてくれないものかな。いつか扉が壊れてしまうよ。」

「できる限り頑張ります!で、もう上がってもいいですか?」

「上がってもいいが、その前に君に紹介しなければならない人物がいる。」

一言「来い」と社長が言うと、隣の部屋の扉がゆっくりと開いた。

開かれた扉の向こうにはまだ幼さの残る深緑色の髪の毛を持つ少年が立っていた。

髪型は短髪なのに、何故か横髪だけが異様に長く、右目を眼帯で覆っている。身長は大体160cmくらいだろうか。そんな彼の背中には身長に見合わない大きな剣が背負われていた。見た目だけでも結構な重量感がある。

「彼は宝条光。今月からこの会社の一員だ。」

そう言って社長は彼に宝条光を紹介した。

頭を下げて「お願いします。」と言う宝条を見、彼は社長を掴んで部屋の隅まで移動すると抗議を始める。

「社長?あの・・・ジョークですよね?ドッキリ☆大成功!!とかそういう感じのやつですよね、これ。」

「え?違うよ、かなり本気な感じのやつですよ、これ。」

「だって明らかにあの子子供じゃないですか。」

そう言うと、社長は笑っていた。

「おいおい、あの子は二十歳だよ。」

その言葉を聞いて彼は信じられなかった。

どう見たって彼の見た目年齢は十六歳程。かなりの童顔と、女性に近い声で幼さが残っている。

「宝条君。彼は四方翔。君のパートナーだ。」

そう言いながら社長は四方の背を押して宝条の前に立たせる。

身長の高い四方からみれば、宝条は胸元までしかなく、見下ろす形となってしまう。

逆に宝条からみれば四方はあまりにも大きすぎて、見上げなければいけない。

そんな彼らが今日からパートナー・・・なんてデコボココンビなのだろうと誰もが思ったことだろう。

「四方、上がる前に君に任務が1つある。」

「まだ任務があるんですか?もう勘弁してくださいよ。俺今日軽く16時間は外で討伐任務やってるんですよ。」

ため息と共にうな垂れる四方に社長は一枚の書類と、カードキーを四方に渡した。

それを受け取ると、四方はその意味を察知したのか、いい笑顔で「了解」とだけ言うと、宝条を連れて社長室からでていった。

宝条は四方に連れられるまま、移動すると、昇降機に乗せられた。

ボタン数がとても多く、最上階は65階まであるらしい。更には、Aと最初頭文字がつくボタンが25個。これは一体何処に繋がるのだろうかと、不思議でたまらない宝条。そんな彼をよそに、四方が60階を押すと、昇降機はぐんぐんと上がっていく。


チーン


軽快な音を立てながら、昇降機の扉が開くと、四方は長い廊下を迷いも無く突き進み、605号室の前で立ち止まった。

「ここが、俺とお前の部屋。この会社の寮は1ルーム2人制だから、悪く思わないでな。」

四方がカードキーを差し込むと、電子音が鳴り、部屋の扉がスライドして開いた。

「うわぁ・・・。」

会社の寮なんだから、必要最低限のものしか置かれてはいないのだろうと思っていた宝条は室内をみて驚いた。

室内に入ると、まず目に飛び込んできたのは広いリビング。大型テレビが壁に埋め込まれ、良質のソファーがテーブルのを囲むように配置されている。

リビングの入口前には左右に扉があり、左がキッチンで右が書庫。

「リビングの左右の壁に扉があるだろう?あれが俺たちの部屋の扉な。俺は青の扉。お前はそっちの緑色の扉な。部屋の扉は玄関に使った自分のカードキーをドアのとこのリーダーに差し込めば開くから。」

四方から自分のカードキーを渡された宝条はそれを受け取り、リーダーへ差し込んでロックを解除した。

自室もかなりの広さがあり、ベッドとデスクを置いただけではそう狭くはならない。

「こっちにクローゼットがあって、小さい冷蔵庫もあるから。郵便物とかは、こっちのデスクの横の白い箱。ここに届くから。」

一通り室内の説明を受けたあと、宝条が持ってきた必要最低限の荷物を運びいれている間に、四方は色々と用意をして、宝条を室内から連れ出した。

まず向った先は50階『インフォメーションフロア』。

「ここはこの階層全体がインフォメーションになってるんだ。まぁ、一般社員は入れないけれど、俺たちみたいな『戦う社員』専用って言ったらいいかな。俺たちは一般社員とは違って、色々規定もあれば、保険も違ってきたり、契約の内容も違う。それらの説明を受けたり、相談したりするのには一般インフォメーションフロアじゃできないからな。で、今回はこちらです。」

そう四方に言われ案内された窓口へと行くと、受付の女性が複写式書類を出してきた。

「これは・・・?」

「ああ、これはね、よく会社員は首から社員証をさげているだろ?あれの代わりに俺たちは手の甲にIDチップを埋め込むんだ。埋め込まれたIDチップには俺たちに振り当てられたID番号が登録されていて、社員証をいちいちスキャンしなくても、赤外線で自動スキャンするから、ロックされている場所もスムーズに解除できるってわけ。あとは、市街地にいる自警団とは俺たち同盟を組んでいるから、彼らに会いにいくには必要になってくるものだから。詳しい説明はまたその時にさせてもらうね。」

宝条が書類に必須項目を全て書き終わると、四方が一度確認し、受付の女性へ渡した。

女性も一度目を通してから、カウンターの横に置いてある機械の中へその書類を投函すると、電子音と共にラミネートされたカードが出てきた。

「こちらを研究科の睦月へお渡しください。すぐにIDチップの移植を行えます。」

そう言って手渡されたカードを受け取り、四方が研究科へと案内する。

その間、宝条はずっと不安に思っていたことを聞いてみた。

「・・・四方さん。IDチップを埋め込むって・・・痛いですか?」

「え?ああ、大丈夫だよ。ちょっとだけちくってするだけ。注射とあんまり変わらないよ。IDチップ自体も殆ど肉眼じゃ分からないくらい小さいし。」

それを聞いて安心した宝条は、四方と共に研究科へと向った。

「睦月さーん。新入社員のIDチップ移植お願いしまーーーーーーーす!」

意気揚々と研究科に入る四方が扉を開けると、研究に必要であろう実験器具を使いながら、理科室にあるような台の上で2人の研究員がビーカーでラーメンを食べているところだった。

1人は青髪に赤のエクステンションをつけたとんこつラーメン派の男性。1人は黒髪のぼさぼさヘアーの味噌ラーメン派の男性。

彼らは共に、突然入ってきた訪問者に食べながら一瞬硬直したが、すぐに宝条が目に入ると輝いた瞳で近寄ってきた。

「おおおっ!これが噂の新入社員!かわいいじゃないか!!」

「こらこら睦月さん。ショタ萌え症候群発症しちゃだめですよ。あんまりウザイと青酸カリ飲ませますからね。」

「いやいや違うよ、ショタ好きってわけじゃないよ。単なる変態という名のジェントルマンだよ。それ以上でもそれ以下でもないよ。うん。」

さらりと恐ろしいことを言い合う2人にかなり気が引けた宝条は思わず四方の後ろに隠れるが、四方は笑っていた。

四方によれば、この2人はいつもこの調子なのだそうだ。

いつも奇妙な発言や、不可解な行動を繰り返しているらしいが、これでもこの会社の研究員ではトップクラスの実績を持つコンビだそうだ。

「初めまして。味噌ラーメン食ってる俺が睦月。とんこつラーメンに浮気したあいつ葉月。」

「浮気じゃねーよ!とんこつラーメンお嬢様は俺の愛人だ!」

「うんうん。とりあえずよろしくね。IDチップだよね?ちょっと待っててね。準備するから。」

そう言って睦月は味噌ラーメンを葉月の食べていたとんこつラーメンの中に流し込んで片付けて、奥の部屋へと消えていった。

睦月が現われるまでは混ざってしまったラーメンに嘆き悲しむ葉月を苦笑しながら四方がなだめていた。

「準備ができたのでこちらへどうぞ、宝条光くん。」

案内された室内には機械が部屋全体に設置されていた。

これだけの機械を一斉に機動させても電気が落ちることがないという点では、流石としかいえない。

「不思議かい?これだけの機械が動かせるのが。」

「はい。・・・大学の冷暖房・空調設備と比べても結構ありますよね。」

「それはね、この会社の心臓部にコアがあってね、そのコアが動力源になっているんだ。その動力源は大学とか、一般家庭に供給されているものとは違って約6000倍。ここのコアだけでも街全体の動力はまかなえると思うよ。」

睦月がそうあっさり言い切り、機械を稼動状態にして最終準備を行う。

その間、宝条は口をあけて唖然としていた。

「じゃあ始めます。」

壁に埋め込まれている機械から、ペンタブレットのペンの部分のようなものを引き抜き、先端に試験管の中に入れていた細い針を差し込むと、宝条の手の甲へと差し込んだ。

痛みこそ一瞬だったが、本当にIDチップが入ったのかよくわからない。

「仕上げは四方君。君に任せるよ。」

「俺っすか。いいけど。」

睦月に指名されて、四方が宝条に近寄ると、彼の手をそっと持ち上げて、針の刺された場所に人差し指と中指をそっと当てる。

少し瞳を伏せがちに、ぼそりと何かを呟くと、針を刺していた場所に空いた小さな穴は塞がれ、血が止まっていた。

「わぁ・・・傷が癒えてる。」

「はは・・・。俺、戦闘医療班の人間だからさ。まぁ、戦闘医療班って俺しかいないんだけど。それじゃあ睦月さんありがとうございました。さ、宝条君行こうか。」

四方に連れられて研究科を抜けると、次に向ったのは先程のインフォメーションフロア。

窓口の女性に話しかけ、カードを渡すと、ケースを1つ受け取り、四方は帰ってきた。

詳しいことは部屋に戻ってから。そう言われ自分たちの部屋へと戻ると、四方は先程受け取ったケースを渡してきた。

「この中には任務中に必要になる道具が入っているんだ。で、とりあえず携帯はセットアップと俺の番号だけは入れさせてもらうよ。」

携帯を渡して四方がセットアップしている間に宝条はケースの中身を確認する。インカム、社員手帳、社章ピンズ、キーが2本。

「ああ、それと、宝条君のスーツだけど、サイズが無くてね・・・採寸してからじゃないと作れなくて。」

「構いません。私服でもいいんでしょう?」

「君が構わないのならそれでいいよ。スーツは冠婚葬祭で使うくらいなものだしね。式典とかではまた違う制服を着なくちゃならないんだ。そっちは無いと困るから、一応作るからね。」

了解の意で頷くと、四方が携帯を手渡してきた。既に電話帳には社長と主任の文字。

「・・・四方さんは何処に入っているんですか?」

「え?俺その『主任』。」

「ええぇっ!?見えない!!」

はっきりと本人の目の前でズバッと言ってしまったことにはっとして、宝条は顔を青ざめるが、四方はそんなこと一切気にしていないようで、逆に高笑いしながら、大丈夫だ。と言ってきた。

「俺も主任って自覚ないから別に気にしなくてもいいって。なぁ、それより、俺、堅苦しいの苦手なんだ。タメ口でいいから。後、俺光って呼ばせてもらうから。四方って気軽に呼んでよ。な?」

「はい!」

「うんうん。元気で宜しい。」

後は簡単にケースに入っていたものの説明を受けた。

インカムは登録してある対象と、ミッションナビゲーターとの通信が可能。基本的には制限範囲はないらしい。これは任務の際に必要なので必ず装着すること。

社員手帳は社訓や規則といったものが書かれているが、基本的には単なるビジネス手帳。持っていようがいまいが、あまり関係はない。

社章ピンズは会社の社員である証のもので、ピンズの色別にどの班の人間かなどを判別しているらしい。これは絶対に身に着けなければならない。

最後にキーが2本とあるが、これは特別に四方と宝条にだけ支給されている飛行型バイク『エアライダー』とスケボー型加速装置『ターボダッシュ』のキー。

「あと最後にミッションについてなんだけど・・・――――。」

四方が喋っている途中で、外から激しい爆発音が響いた。

何事かと思い、2人して窓から外の様子を伺うと、誰かの召喚獣が街中を暴れまわっていた。

「中級召喚獣か・・・でも、魔力が不安定で暴走してるな。誰だよ不慣れなくせにレベルに見合わない召喚獣なんか街中で召喚しやがって。光、行こう。初ミッションだ。」

「はい!」

2人は部屋の窓から飛び降りた。

四方は普通に落下していくが、宝条は自分の体に見合わないほど大きく、重量感ある剣を背負っているため、落下のスピードが異常に早かった。

その様子を見ていて四方は心配になった。

自分ひとりくらいなら、会社のビルに向って銃弾を放つことで、その時の反動で隣のビルへと移ることが出来るのだが、彼はそうはいかないだろう。

だが、心配は要らなかったようだ。

宝条は次第に落下速度を落とし、足音もなくふわりと着地した。

その彼の姿に違和感を感じたが、市民の悲鳴が聞こえてきたので、それ以上は深く考えなかった。

「中級召喚獣ガーランド・・・厄介だ。あの召喚獣は炎を吐く。」

「でも、切り落としちゃえば問題ありませんよね。」

「おいおいあっさり言うね。そんなに腕に自信があるのかな?」

「四方さんが手伝ってくださるなら。」

お互いにインカムをはめると、召喚獣目掛けて飛び掛った。

「仮にも召喚獣だ。殺さず仕留めるように。」

「了解。」

四方と空中で二手に分かれると、まず四方が召喚獣の足を銃弾で打ち抜き、バランスを崩させる。その隙に宝条は召喚獣の背に乗り、高く飛び上がると、空中で剣を大きく一振り。

最初は何をするつもりだ。とも思った四方だったが、よく見れば彼が何をしようとしていたのかすぐに理解できた。

彼が振り下ろした剣は空気中で振動を起し、見えない刃となって、召喚獣目掛けて襲い掛かった。

「風の刃か・・・やるな。」

召喚獣は宝条の剣によって地面に叩き付けられると、一時的に麻痺して動かなくなった。

「召喚者は何処だ!?」

「任せて。」

四方が召喚者を探そうとしていると、頭上から宝条が既に誰かを視線の先に捕らえていた。

視線の先にいたのは、1人の少年。宝条はそのまま少年に向って落下していくと、彼が手にしていた召喚獣を呼び出すための水晶を奪い取る。

「還れ!ガーランド!お前はここにいるべきじゃない!」

宝条の呼びかけに、ガーランドが反応し、光りだした水晶の中へと戻っていく。

その様子を見ていた市民一同からは歓声が沸きあがった。

「とまぁ、こんな感じでガーランドが回収されたからいいけれど。君!自分のレベルに見合わない召喚獣を呼び出したら駄目だろう!それに、街中で召喚なんて非常識すぎるぞ!」

四方がガーランドを呼び出した少年を叱りつけていた。よくよく男性の姿を見れば、魔道師養成学校の制服を着ていた。

「ごめんなさいっ!どうしてもガーランドが見てみたくって・・・でも魔力が足りないから不安定で、原型が留まってなかったし・・・暴れだして・・・。」

「・・・・・・あのなぁ、魔力が足りてないのと足りすぎてるのでは暴走してしまうって小学校の課程でも習う初歩的なことだろう!」

「まぁまぁ、四方さん。そう怒らないで。今回は発見が早くて早急に処理できたんだし。ねぇ、君ガーランドが見たいんだよね。じゃあさ、僕とちょっと街の外まで行こうか。」

宝条の言葉に少年も四方も「は?」と言ったような顔だった。





「あのね、召喚獣を呼び出すには確かに自分のレベルに見合う力が無いといけないというのもあるけれど、君はもっと大事なことを忘れているんだ。」

そう言いながら宝条がガーランドを召喚する。

今度は、きちんと原型を留めた、落ち着いた状態のガーランドが現われた。

「わぁ・・・これが本物のガーランド。」

空に現われたのは黒翼をはためかせ、橙の瞳でこちらを見つめる、黒い龍だった。

「召喚獣と友達になる。そして、心を通じ合わせる。これを忘れちゃいけないよ?」

「はい!!」

少年の返事を聞いて、もう大丈夫だと判断した宝条は、ガーランドを戻し、彼に水晶を渡した。

少年は、いつかこの召喚獣を自分の力で、きちんと召喚させてあげられるように頑張る。そう宝条に誓った。

「あ・・・お兄さんエッジの人?」

少年は、宝条の胸元につけられている社章ピンズを見て、瞳を輝かせた。

「うん。エッジ・カンパニーの社員だよ。」

「そっか!じゃあ俺、お兄さん目指して頑張る!俺もエッジに入るんだ!!」

「じゃあうんと勉強して、いつか僕の背中を押してくれる?」

「絶対!約束する!!」



それじゃあ、指きりしようか。



宝条と少年は最後に指きりをした。





永遠に果たされない約束を。




















着信1 ―――――――――― 終了 ―――――――――――


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