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ヌヴェル10 秘密基地の思い出

作者: 寺澤樹生
掲載日:2026/08/29

雨が降ると思い出す。子どもの頃の秘密基地を。とりわけ激しい雨が降ると。


秘密基地は、鎮守の森の裏山の麓にあった掘っ立て小屋。数人の仲間で集い、忍者ごっこや戦争ごっこをしてよく遊んだ。

その小屋は、周りを木に囲われているから人目にもつかない。まさしく正真正銘の秘密基地だった。

家から遊び道具を持ち込み、小学校が休みの度に集い、僕たちは遊び惚けた。

あんまり騒がしく遊ぶものだから、鎮守の森の神さんに申し訳ないなと境内の雑草引きをやったこともあった。

あれは誰が言い出したというわけでなく、自然と皆でやっていたように思う。

いわゆるボランティアみたいなことが、遊びとは別にとても楽しかったと記憶している。


そんなある日、森の木々が新芽を噴き出した頃、鎮守の森で熊を見掛けたという噂が広まった。鎮守の森には危ないから近づいてはならないと学校だよりが出され、親からは絶対に行ってはならないと厳しく言われた。

それでも、僕たちは皆の目を盗んで秘密基地に集まった。それがまたスリルがあって楽しかった。


梅雨に入り、雨の日が続いた。そして大雨も降った。大雨は三日続いた。

梅雨の晴れ間となった日曜日。僕たちは久々に秘密基地に集った。

皆で“すごい雨だったなぁ”“うちは雨漏りが大変で”とひとしきり騒いでいると、戸を叩く音がした。

開けてみると、そこに招かれざる客がいた。熊だった。“俺の縄張りで何をしている”みたいな目をしていた。

熊に出会ったら、慌てて逃げちゃいけないと言われていたが、そんな悠長なことを言っている場合ではなかった。

僕たちは、大声で叫びながら、必死に走って逃げた。熊は追いかけてこなかった。


後日、鎮守の森の裏山が土砂崩れになったと聞いた。僕たちの秘密基地も土砂に流されたらしい。

ちょうど僕たちが遊んでいた日、熊に出会った日だった。

それから熊の姿は見かけなくなり、暑い夏の陽ざしの中、今まで通りの日常に戻っていった。


あの熊は、鎮守の森の神さんが、ここにいたら危ないから早く出ていけと僕たちに告げるために姿を変えて現れたのではないかと僕たちは考えた。

それから秘密基地に集まらなくなった僕たちは、誰が言い出したというわけでなく、小学校が休みの度に境内に集い、雑草引きや落葉掃きをするようになった。

やがて僕たちの成長とともに、それは消滅していったが。


今でも、雨が降ると思い出す。子どもの頃の秘密基地を。とりわけ激しい雨が降ると。


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― 新着の感想 ―
寺澤先生の体験談なのでしょうか。 本当にクマ姿の神様が居るかも知れない…… しかし、そんな話しをすると、頭がイカれてしまっている人と思われてしまうので、人には言えないこともありますよね。 小説の中な…
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