091⚫️狂気そのもの & 092⚫️できることを行うための、自制心と自尊心
091⚫️狂気そのもの
わたしたちとは、また違う人材が必要だ。
目的のためには、手段を選ばぬような。
無茶苦茶な、狂気じみたヤツ。
軍人って、規律重視を叩き込まれているからな。
う〜ん・・・そんな41人目、どこかにいるかあ?
・・・あっ!そうか!いるじゃない!
まさに狂気そのものの、あいつ!
マチルダにはクルー補充の特権が与えられているのだ。
092⚫️できることを行うための、自制心と自尊心
「どうした?先に敬礼するのか?」
「バーバラ大佐、貴官は先任だ。シニア・ゲスト・カーネルには礼を尽くさんとな。」
初対面のマチルダに、バーバラは少なからず戸惑った。
こんなヤツだったのか。う~ん、意思の強そうな目をしている。
思ったより美人だな。わたしのほうがもっと美人だが・・・。
「で、この豪華な留置場に何をしに来たのだ?差し入れなら、間に合っている。お前んとこは贅沢だぞ。喰いたいといったものを、何でも調達してくるんだからな。」
「お気に召して何よりだ。」
「お気に召してなどおらんわ!貴様、もう一度、勝負しろ!あんな卑怯な‘黄色い悪魔’を使うとは、言語道断!応援団!いや、後のはちがうな・・・。ともかく、なんだあ、あれは!感知できないうえに、ロボットに変形する、しかも、わけのわからん歌と曲で戦意を削ぐ!正々堂々、真正面から来んかあ!」
マチルダは苦笑すると、テーブルを挟んで席についた。
「実は、あなたにお願いがある。・・・ああ、心配ない。盗聴・盗撮はフェイクを流している。わたしがここにいる間は、何を話しても問題ない。言いたいことがあるなら、思いっきり言える。わたしをひっぱたく、というのなら、それも可能だ。」
バーバラは勢いを躱された格好で、不承不承、着席する。
「・・・つまり、お前の艦に乗れ、というのか?」
「そうだ。あくまでも依頼だ。あなたが拒むのは自由だ。」
「だが、ここから出て海へもどることができる、ということだな。何を企んでいるのだ?」
「・・・わたしの夫は戦場で散った。今さら、過去をどうこう言うつもりはない。恨みを晴らす、ということでもない。だが、このまま大戦が続けば、子どもの代まで害が及ぶ。」
「お前・・・シビリアン・コントロールを跳び越えるというのか・・・?」
「この見かけだけの、仮にも充足したように見える生活環境。国民は裏の事情を知らんからな。養豚場で飼育されて、いずれ出荷されるとは、豚は思ってもいない。同じだ。」
「人はパンのみで生きるにあらず、ということか。」
「そうだ。わたしたちの政府もあなたたちの政府も、‘パンとサーカス’を与えて存続している。だがな・・・人はそれらだけでは、満足せんのだ。」
「ふん。わたしにお前の下に入れ、ということだな。」
「指揮権はわたしにある。だが、階級は同じだ。それなりに尊重させてもらうつもりだ。あなたは、このまま、‘雪原のカバ’、‘砂漠のアライグマ’、‘無人島のコメディアン’でいいのか?その情熱と才能を、歴史の隅に埋もれさせたままにするのか?」
「くっ・・・カバにもアライグマにも、ましてやコメディアンなど、ごめんだ!」
「喧嘩の相手は政治と利権の中枢部だ。命がけでというのは、おもしろいとは思わんか。」
「ふん!そのような口車に乗るような・・・乗るようなわたしだ!乗ってやる!恩に着ろ!」
「交渉成立、決まりだな。よろしく、バーバラ大佐。」
「ふん、握手などという慣れあいはせんぞ!」
ドアの外にいるボビーは、このやり取りを聞きながら微かに笑っていた。




