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005⚫️ブリーフィング:被膜寿命と帰港線

「艦長、ミーティングです。お目覚めください。」

「・・・う・・わかった。ありがとう。」

中央モニターに被膜摩耗マップが紅く浮かぶ。

対象はセラミック・トップの外板である。

深層巡航を続けても、酸の海は“噛む”ことをやめない。


作戦士官が端的に始める。

「状況三点。

第一:外板トップコート残厚、平均138 μm。臨界120 μmに接近。舵先・推進器前縁は摩耗指標0.82。

第二:電気防食。アノード電流配分、区画E-3が9%不足。電源の燃料流用で凌いでいますが、長くは持ちません。

第三:追尾反応は消失。ただし外洋に敵センサー網。通信沈黙、EMCONの継続を推奨します。」


「技術面はどんなっているか。」

整備長が指差しで上書きする。

「水素発生型の腐食が前縁で進行中。高流速部のエロージョン・コロージョンが支配的です。推進器は交換待ちモジュール二基を確保済みですが、船外作業の“許容帯”が必要です。飛沫帯に出れば一気にやられちまう。海面直下・低波高のタイミングが不可欠であります。」

「帰港は必須、ということだな。」

「はい。ドック回転に間に合うよう、今夜の酸性嵐の縁を掠める潜航可能帯を使えば、32時間後に港湾シェルターへ入れます。」


気象プロットへ視線を移す。

水色の等値線、危険域の緑ハッチ、そしてこちらへ伸びる赤い帯。

「嵐の核はどの程度か。」

気象士官が渦の芯を拡大する。

「酸性霧の酸度指数、Index 7.3。深層は緩いが、海面近傍は濃縮霧+強風で上部構造が30分で白化するという状況です。熱対流が弱く深海は安定。溶存酸素の薄い層へ入れば酸素還元速度は鈍ります。」

「つまり、深く長く、潜らねばならないということか。」

「はい。ただし渦の前縁に伴う上昇流で音線、アコースティック・レイの屈折が変化しています。敵の受動ソナーに拾われにくくなる反面、こちらの探知も落ちます。熱躍層、サーモクラインを二段跨ぎ、負の勾配帯を使うコースを推奨!」


天候は予報対象であると同時に行動可能帯である。

被膜の残り、電源のやりくり、嵐のタイミング。

どれかを外せば、艦は“削り取られる”。

「方針を決める。撤収だ。補修と再塗装を最優先。

航法、潜航可能帯を固定。港湾シェルターβ-12に入る。

整備、帰投中にアノード配分の最適化、前縁パーツ交換の甲板作業計画を起案。

作戦、敵センサー網の空隙を再計算。電波沈黙を維持。

全員。二時間シフトで休養回転。動け。」

「イエス、マム!」


航跡は、海図上のモニターで赤い帯を横切る細い糸になった。


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