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ベータの俺でいいんすか  作者: 山端のは


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5 絶体絶命

 アルファとオメガの親からベータが生まれるのは珍しくない。

 それでも親たちは、ベータの子をアルファの家庭に嫁がせたがる。娘ならなおさらだ。

 そのために理由をつけてはパーティーを開く。


 いったいなぜ、そんな華やかな場所で着ぐるみダンスを?

 しかし、そういう突飛な思い付きを実現するのが、俺たち便利屋なのだ。

 さいわい、メインイベントってわけじゃなく、ゆるく興を添えて欲しいってことらしい。


「おい、壺河様親子がいるぞ。マズいマズい!」

「絶対に着ぐるみ外したりするんじゃないぞ」

「わかってますって」


 今は建物の陰でヒソヒソもぞもぞと出番を待っているところだ。

 アルファの中でも壺河様は絶対遭遇したくない人だ。俺だってバレたら確実に揉める。

 俺は深呼吸して胸をさすった。

 幸か不幸か、踊る場所は庭の一角だ。

 何かあっても逃げやすい。……たぶん。


 そうこうするうちに音楽が鳴り始めて、俺たちは大きく手を振りながら入場した。

 着ぐるみのアドバンテージもあって、それなりに視線が集まった。

 

 よし踊るぞ!

 

 最初の振り付けをバシッと決めたのは残念ながら俺だけで、そのあとも先輩たちはわりとぐだぐだだった。

 ちっとも音を聞けてないし、周りも見えてないからぶつかったり転んだりしている。


 そんな中、俺だけ完コピの全力ダンスを披露したもんだから、なんかそういう趣向かなって思われたっぽい。

 

 じゃじゃーんとラストポーズを決めたときには、まばらな拍手をもらえた。

 良かった。ブーイングじゃなくて。


 着ぐるみらしく大げさなお辞儀をして、手を振りながら退場すれば今日のお仕事は終わり!

 まあまあいい結果じゃないかな。

 俺を連れてきてよかっただろってあとで先輩たちに言ってやろう。


 やれやれさあ帰ろうと裏へ回り、ホッと一息ついたそのときだ。


「待ちなさい!」


 背後から少女の声が聞こえて、やましいことのある俺たちは、そろって肩をビクつかせた。

 先輩がすかさず俺の前に出る。


「な、何かご用でしょうか」

「どいて、あなたじゃないわ。ほら、どいて! そうあなた」


 え? 俺に話しかけてる?

 俺はゾッとして身構えた。


「あなたのダンスなかなか良かった。ほかの人は全然ダメだけど」

「え?」


 声を出しそうになって、横から小突かれる。

 返事の代わりに、俺は頭のうしろに手をやってペコペコお辞儀をした。

 

 終わったらさっさと撤収する手はずだったのに、ダンスのキレがよすぎて引き留められるなんて想定外だ。


「あなた、名前はなんていうの?」


 はい、詰んだ。

 答えても答えなくても問題になるヤツ。

 裏に回ったとはいえ、まだ敷地内だ。それに警戒すべきは壺河さんだけではない。

 このパーティー会場には、俺の顔を見ただけで怒り出す人がたぶん複数人いる。


「お、おいらはライだらぃ!」


 声やポーズをできるだけ公式に寄せる。来る前に念のため着ぐるみのプロフィールを確認しておいてよかった。

「そうじゃなくて!」


 横で先輩たちが笑いをかみ殺してんのがツライ。あとで絶対からかわれる。

 っていうか一蓮托生だろ、少しは助けてくれよ!


「私はあなたの名前を聞いているの」

「お嬢様、我々はただの便利屋ですので」

「もういいわ! だったらその頭、取ってしまいなさい」

 

 などと手を伸ばしてくる。

 いったい何が彼女をそうまでさせるのか。


「あ、いや、ちょっと待って!」

「お待ちくださいお嬢様!」


 先輩たちもここにきてようやく慌て出した。

 それでも、お嬢様に触れるわけにはいかないので意味もなくわたわたしているだけだ。

 このままでは着ぐるみの頭部をもぎ取られてしまう。


 うわっ、もうダメだ!

 首にすーっと風が入ってきて、俺はこの後起こるであろう乱闘を覚悟した。

 しかし、観念して目を固く閉じたそのとき、ポスっと頭部が押し戻された。誰かが止めてくれたんだ。


「確かに彼の踊りは素晴らしい出来だったけど、無理強いはよくないな」

「あ!」


 礼知(あやと)さんだ。

 聞き間違えようもない。ほっとして名前を呼びかけて、俺は急いで口を閉ざした。


 彼の声は咎めるというよりは、笑いを堪えているようだった。そのせいか少女の小さな悲鳴も、華やいだものだった。

 

「あの、違うんです、和倉さん。私、人を探していて!」

 と、そのとき迫力のある声が割り込んだ。


「そこで何をしている!」

 その声を聞いて、胃のあたりがギュッと痛くなった。壺河氏ご本人の登場だった。

 だけどそこで礼知さんがすっと前に出た。そのせいか、壺河様の怒りがしぼむ。


「礼知君、こんなところでなにを」

「彼らのダンスが面白かったので、スカウトしていたところです。次はうちで踊ってもらおうかと」

「和倉さんもパーティーを主催するんですか!」


 きゃっと胸の前で両手を握るお嬢さんだけでなく、壺河様も前のめりだ。一瞬目をギラッとさせた。

 年が結構離れているように思うけど、ロックオンされちゃってるんだな、礼知さん。


 礼知さんは苦笑して「いえ、社内のイベントで」と答えた。あからさまに落胆する壺河親子を放置して礼知さんはさりげなく撤退を促してくれた。


「ああ、君たちはもう行っていいよ。詳しい話はまたあとで」


 俺たちはいっせいにお辞儀をして、みんなでわらわらバンに乗り込んで、逃げるように会場をあとにした。



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