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ベータの俺でいいんすか  作者: 山端のは


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11/13

11 なんで渋い顔してるんだ

「いいか、くれぐれも、くれぐれもっ! 失礼なことをするんじゃないぞ。品物を扱うときは手袋をつけろ。壊してしまったときは絶対に隠すな。すぐに謝るんだぞ!」


「わかってますよ」


 チーフときたら、朝からずっとこの調子だ。そろそろ出かけたいな。

 さりげなく壁の時計をチェックしたら、見咎められてしまった。


「本来なら、おまえみたいなのは表に出せないんだ。和倉様からご指名いただいたからといって、いい気になるんじゃないぞ!」


「遅刻は失礼に当たらないんですか? このままだと俺、約束の時間に遅れそうなんですが」

「さっさと行けえっ!」


 唾を飛ばす勢いで怒鳴られて、俺は上着をひっつかんで駆け出した。

 バス停から緩やかな坂を上っていくと、やがて緑の屋根が見えてくる。


 今日も楽しみだな!

 ここには、ありとあらゆるものがパズルみたいに押し込められている。

 陶器、彫刻、絵画、アンティークレース、古書、家具や食器の類。

 倉庫へ移動するにしても、先に虫干ししたほうが良さそうなものもある。


 急がなくていいということだったので手入れをして、写真を撮って番号を振り、箱に詰める。

 大きなものは人を呼んで梱包してもらい、倉庫に運んでもらうという流れにした。


 ちなみに記念すべき目録の第一号は、玄関にどーんと置いてあった木彫りのクマだ。

 アレがあると物を出し入れできないから、うっかり愛着を持ってしまうまえにお別れだ。


 作業は大変だけど気は楽。

 毎朝、礼知さんのオフィスに顔を出し屋敷のカギを借り、帰りに返却する。礼知さんからの指示はこれだけだ。


 問題があるとすれば、鍵を返したあとのことで――。

 自社に戻ると先輩たちが俺の帰りを待ち構えているんだよ。


「きたきた榎並、これ集計頼むわ」

「悪いけどこっちも。明日までに申請書出しといてもらえるか?」

「数字合わねえ、突合手伝え」


 目の前に次々差し出される書類を見て、さすがの俺も顔をしかめた。


「いいっすけど。たまには自分でやってくださいよ。俺だってまとめなきゃならないやつがあるんですよ」

「おまえが困ってるとき、どんだけ助けたと思ってる」

「う、はい。その節は……」


 すぐ飛びそうな俺のクビが繋がってるのは、先輩方が大いにかばってくれたおかげだしな。

 そうして俺は、昼間はお屋敷の整理、夜は事務仕事をすることになった。


 忙しいけれど楽しい日々だった。

 礼知さんのおじい様は相当な目利きだ。コレクションを見ているだけでも面白い。


 俺は手に乗せたまんまるい猫の置物を見て思わずうなった。

 猫の要素を極限まで減らしているのに、ちゃんと猫だとわかる。


「この子はやっぱり、座布団に乗せたい感じかな」


 目録のための写真だけど、無味乾燥なものにはしたくない。いいものだからさらによく見せたい。どうせなら魅力的に撮ってやりたい。

 そんなわけで、箱にしまう頃にはすっかり愛着が湧いている。しまい込まれるだけじゃなく、いつかちゃんと使ってもらえたらいいな、なんて。



「礼知さん、目録こんな感じで作ろうと思うんですけど、どうですか?」

 ある程度テンプレートができたところで、俺は目録の見本を印刷して持って行った。

 同時に、パソコンの画面も見せる。


 写真は正面・側面・背面、それに銘や箱も。素材や用途で検索もできるようにした。

 印刷するときはすっきりしたカタログ風に。ついでにポストカードに加工できる仕様は……ちょっと遊びすぎかも。


「うん。すごくいいね」

 そう言いつつも、礼知さんは顔を曇らせた。


「だけど彗、これはいつどこで作ったの?」

「カギを返したあと、会社で、ですけど」

「そうとう時間がかかっただろ」


「最初だけちょっと。けど、枠組みさえ作っちゃえばあとはもう入力するだけなので。そんなんでもないです。写真は昼間撮ってますし」


 なんだろ。なんで礼知さんは渋い顔してるんだ?


「あ! もしかして、いくらなんでも時間かけすぎでしょうか。それとも、うちの社にデータを置いてちゃまずかったですか!?」

「うーん、そういうわけじゃないけど」


 そう言いつつ、礼知さんはまだどこか不服そうだった。




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