6.
「もし、このまま結婚になっちゃったらどうしよう……」
つむぎは頭を抱えた。
結婚。
今まで漠然と結婚式を思い浮かべるだけで、現実的なことは一ミリたりとも考えたことがない。
新垣ともし結婚することになったら、当然、生まれた時からずっと暮らしてきたこの土地から離れることになる。
異動がなければ、旅行でちょっと訪れただけの東京近辺の街で暮らすことになるだろう。
「どうしよう。料理ができない」
カレーとか肉じゃがとかグラタンとかハンバーグとか。
小学生でも出来るようなものしか一人で作ったことがない。
それも母に用意してもらった材料を切って刻んで熱しただけだ。
毎日献立を考えて、朝昼晩一人で料理を作る?
そんな経験はほとんどしたことがない。
つむぎの母は、パーフェクトな主婦だった。
子育てをしながら料理教室や裁縫教室に通い、地域ボランティアに子ども会とPTAの役員をこなし、お菓子もパンも手作りで、父の釣って来た魚を捌き、なんなら縁起物の鰤一体を出刃包丁と金槌を使って解体できる。
つむぎが子どもの頃に着ていた服のほとんどは母の手製で、七五三の着物も彼女が縫った。
独身の頃は華道茶道を嗜み、生徒同士の茶会も仕切ったりしていたと言う。
正直、回遊魚のような人だ。
常に何か事を為していて、気が利いて、頭が回る。
のんべんだらりなつむぎと大違いだ。
つむぎは料理も何もかも母にお任せするのに慣れ過ぎて、母も飲み込みの悪いつむぎに教える時間がもったいなくて何事もさっさと済ませてしまう。
つまり母と真逆なつむぎは、家族や親族たちから『ちょっとこの子取り換えっ子じゃない?』と首を傾げられるくらい異質だった。
そんなわけで、現在のつむぎの家事スキルは『母の助手』。
掃除洗濯は叱られてちょっと手伝う程度。
さらに料理は指示されて刻んで鍋をかき回す程度の、いわば『歩兵』クラスだ。
なのに、職場では『いいお嫁さんになりそう』と同性からも言われる。
何を間違えたのだろう。
「どうしよう。めちゃくちゃハリボテなのに……」
背負ってしまった百万匹の猫たちが、憎い。




