あんたはお利口、あたしは利口
冷静になると、オンデンは気づいた。
アルニカは奨学金を理解していないだけだ。
きちんと話せばわかってくれるはず。
彼女は僕より頭がいい。
もし男の子だったら、医学生になれただろう。
オンデンは、多忙の合間を縫ってアルニカを探した。
その頃、彼女は昔の同僚から押し付けられた赤ん坊と、安宿で暮らし始めた。
赤ん坊は名無しで、何をしても泣きじゃくる。
『お前には何も無い。だから皆無=カイム、カイム・キーン』
だが数日後、アルニカは、訪ねてきたたちの悪い元客に、腕に抱えた幼い息子ごと酸をかけられ、殺害された。
ちょうどあと一歩の差で部屋を訪ねてきたオンデン・バートルは、目を瞠った。
「アルニカ……?」
無音。倒れている彼女と、鼻をつく薬品の臭い。
オンデンは最初、自死かと思ったが、気絶していたカイムが泣きじゃくり、我に返った。
真相は錯綜していたが、結局はアルニカの緊縛技術を見た無知なショーオーナーが、見様見真似で事故死を起こし、その身内から恨みを買っての襲撃だった。
アルニカは客を取っていたため、一時誤報が流れた。
研修医だったオンデンは後に医師となり、アルニカの遺児カイムを引き取った。
(画面上に白文字のテロップが浮かぶ)
「このノンフィクション映画の収益の大部分は、アルニカ・キーンの遺児カイム・キーンの治療費に宛てられています。視聴者の寄付も、孤児院や治療支援に使用されます」
インタビューシーン。オンデンはカメラの前に座る。
「正直……最初は、カイムのこと、あまり好きじゃなかったんです。
いや、正確には、うっとうしいとさえ、思っていた。
守るべき子供がいなければ、アルニカはもっとまともな職に就けただろうし……あの襲撃からも、一人で逃げられただろうって、そう思っていました」
(言葉を切り、視線を落とす)
「でも……医師として働きながら、孤児院に通って、カイムの治療費の寄付を呼びかけるうちに、気づかされたんです。
単に事件の真相を追いかけるだけじゃなく、そもそもこの社会の仕組みが、こういう悲劇を生んでいるんだってことに……。
貧困、現場と制度の乖離、利権の絡み合い……それが、アルニカを、カイムを、そして、わが国だけではない、世界中で多くの人々を傷つけているんだと」
(声が少し詰まる)
「アルニカ……彼女は、本当に勇敢だ。頭も良かった。
でも、この社会では……それさえも、救われるものではなかったんです。
カイムも、同じく……ただ犠牲になっただけじゃない。
僕は……ふたりを助け切れなかった。
きっと、運良く間に合っていたとしても。
それを知ったとき……ようやく、この社会の病理を目の当たりにしたんです」
(画面上にテロップが浮かぶ、淡い青い背景)
「視聴者の寄付により、カイム・キーンの治療は継続され、孤児院の支援活動も行われています」
カイムは学校で、亡き母アルニカの遺言を語る。
「あんたはお利口、あたしは利口」




