光の記憶
本作は科学的な仮説とスピリチュアルな視点を組み合わせたフィクションです。実在の地名、施設、科学用語、仏教用語が登場しますが、物語独自の解釈を含んでおり、実在の団体や研究機関とは一切関係ありません。
科学と心、そして「光」が織りなす不思議な物語をお楽しみください。
第一章 光の存在
科学者に憧れる碧が、いつものように
「だからぁ、人間もただの原子の集合体なんだよっ!」
と熱弁を振るっている。その隣で不思議ちゃんの凛は、宙を舞う花びらを目で追いながら
「ふ〜ん、そうなんだぁ。でも、これにもちゃんと心があるんだよ、ね」
と小さく呟いた。徹夜明けの私は、そんな二人のいつものやり取りをぼんやり聞いていた。
だが、不可解な言葉がきっかけで、私たちは『科学』と『心』、そして『見えない存在』が交錯する世界へと迷い込んでしまった。
私の名前は、結城茜。不思議ちゃんこと七瀬凛と科学者に憧れる橘碧は、私の幼なじみで、今日はお花見も兼ねて近くのお寺を参拝する事になっている。
三人姉妹のように育った私たちは、本来の家族よりもたくさんの時間を共にしてきた。姉妹で言えば次女の私は、長女三女のそれぞれの考え方や話が楽しくて仕方がない。
「へぇ、そうなんだ。原子って何なの?」
「原子っていうのはね、元素の最小単位で、陽子と中性子と……」
「なんだか難しそうね。それよりこの花の名前は何ていうのかしらね」
私たちは、のんびりおしゃべりしながら、柔らかな緑の中をお寺に向かって歩いていく。
「そろそろ見えてくる頃かな」
「先週は平均気温が高かったから開花が早まったかな」
「お花いっぱい咲いてるのかな、楽しみ〜」
開発が進んだ住宅街からほど近い小山の上にひっそりと佇む慈光庵は、ツツジで有名なお寺だ。境内には色鮮やかなヤマツツジや淡いむらさき色のツツジ……樹齢が古そうな大木などが見事に調和を保っている。
山門に差し掛かった時、住職の法月さんが前方から静かに歩いてくるのが目に入った。
「法月さ〜ん、また来たよ〜」
と、凛は山門で手早く手を合わし軽くお辞儀をしてくぐり、早足で法月さんの元へと駆け上がって行った。
「いつもの事ながら嬉しそうだねぇ」
「相談したい事でもあったのかな?」
私と碧は、法月さんに向かって軽く会釈をした。
読経が終わると、
「今日も法月さんに聞いてほしいお話があるんです……」
と、しびれた足をさすりながら凛は話しかけている。
「ゆっくりで大丈夫ですよ。さてさて、どんなお話しかな?」
落ち着いた静かな声の法月さんは、凛と私たちに向き直った。
「お友達が事故で入院したから、お見舞いに行ったんです。一時的に心肺停止したらしいけれど、今は順調に回復していて……もう少ししたら退院できるらしいのだけど……」
「それは心配だったでしょう。ご回復を祈りましょう」
「あの〜、何ていうか……。身体は回復していて退院できそうだったのだけど、事故の影響なのか、言動がちょっと……。え〜っと、幻覚というのか……幽霊が見えるようになったみたいで……」
「なるほど、そうでしたか」
「お友達は、凛と違って今まで幽霊を見たことがなくて、信じてもいなかったの。だから、動揺が激しいみたいなの……」
「幽霊だって!?そんなのが居るはずないよ。きっと脳の誤作動だよ」
と、すかさず碧が話に割って入る。
「動揺してるのは気の毒ね。幽霊を信じない碧と話しが合うかもしれないね」
と私が話した後、
「凛ちゃんは、どうしたら良いかと思っていますか?」
法月さんは静かに尋ねた。
「私は、今まで幽霊は見たことがあるけど、お友達がいう光の存在っていうのが分からないのです。だから、どうしたら良いのか……。全然分からなくて……」
「なるほど。どうやら……凛ちゃんとお友達が見ているものが違うのでしょうか」
「法月さんは凛の話を信じるのですか?幽霊なんて居ないのに……。茜は、どっちの味方?」
「えっ、私?私は……凛がいう幽霊も、お友達がいう光の存在も、碧がいう脳の誤作動っていうのも全部信じるかなぁ」
「ズルい回答しないで、2択!敵か、味方か?さぁ、どっち?」
「まぁまぁ、皆さん落ち着いてください。私からの提案を聞いていただけますか?」
法月さんは、静かに続けた。
「凛ちゃんはお友達の事が心配ですね。そして、幽霊とは違う光の存在……。幽霊を信じない碧ちゃんとお友達は話が合いそうですね。そして、茜ちゃんは謎解きが大好きですよね。どうでしょう、3人でお友達の所に行ってみませんか?」
「3人でお見舞い?」
「うわぁ、いいかも」
「謎解きしたいな……昨夜の仮説と考察に似てるかも……」
それぞれの思いが声に出てしまった。
「仏典によると仏様は光り輝く御姿をなさっているらしい。凛ちゃんのお話は、私も大変興味深いと感じましたね。しかし無理する必要はありませんよ」
法月さんの言葉に、3人は顔を見合わせた。
第二章 深まる謎
1節 不可解
「さぁ、行こうよ」
「ちょっと待って……心のシャッターを……」
と、言ってる凛の背中を押しながら碧は病院に入って行く。私は可愛い花束を持ちながら、二人の後を追った。病室の前に着くと
「あれ!?おかしいな。もうすぐ退院って聞いてたのに……。面会謝絶って……」
「気楽に来ちゃったけど、何かあったのかな?ねぇ、碧は何してるの?あっ、どこ行くの?」
「うん……ちょっとナースステーションを探してくる」
病室の前の私たちを置いて、碧は1人でぐんぐん廊下を進み、突き当たりの角を最短距離でクイックに曲がり、姿を消してしまった。
しばらくすると、年配の女性と何やら話しながら碧が戻ってきた。どうやら、面会室で力無く座り込んでいるのが遥華のお母さんだとナースステーションで教えてもらったらしい。
「あっ、凛ちゃん。来てくれたのね……ありがとう。そちらは?」
「いえいえ。おばさんの横にいるのが橘碧で、この子は結城茜です。遥華とおしゃべり出来るかと思って友達と一緒に来たんですけど……」
「それは、どうもありがとう。私は遥華の母です」
と、丁寧に挨拶を交わした。
「それよりも面会謝絶って、どうしちゃったんですか?」
お見舞いの花束を私に持たせたままで、凛が心配そうに尋ねている。
「病室に入れないし……ここでは何だから、食堂に行きましょうか?」
と、遥華のお母さんが言い、4人で移動する事になった。
食堂には清潔感があるが冷たい印象のテーブルとイスが整然と並んでいる。入り口に近いテーブルのイスを引きながら『どうぞ座って』というように私たちに手で合図しながら、彼女はイスを引いて力無く座った。
テーブルを挟んで彼女と凛が向き合い、私と碧は凛の隣に静かに座った。碧は分厚い手帳とペンをテーブルの上にに置き、腕組みをしている。テーブルの下で、私は渡しそびれた花束を凛の膝元にそっと置いた。花束に気づいた凛が、目で『ありがとう』と言い、直ぐに向き直って彼女の言葉を待っている。
「…………」
「……ええっと……」
「おばさん、大丈夫ですか?良かったら……どんな事でもいいので話してください……」
「凛ちゃん、それがねぇ……。遥華が昨夜、知らない人が病室に入って来たと騒いで、廊下を走り回ったらしいの。今は鎮静剤で眠っているけど、このままだと違う病棟に移る事になるかもしれないって……だんだんひどくなってるみたいで……」
と、疲れ果てた顔で弱々しくかすれた声で話した。
「おばさん、遥華がどんな話をしていたとか、何か気になった事はありますか?私たち、少しでも力になりたいって思っているんです」
と、凛が話している横で、即座に私たちは大きく頷いた。
凛の友人は、遥華という名前で、事故で頭部を強打し意識不明の状態で病院に運ばれたらしい。外傷はなくCT等の検査の結果、脳しんとうと診断され、意識が戻ればすぐに退院できるだろうという事だったらしい。
しかし、何故か遥華は、意識が戻る事がなく痙攣発作が起こり、一時的に心肺停止状態になった。医師は、改めて見落としがないように全身の様々な検査をしたが、やはり検査結果に何も異常が見当たらないと首をかしげた。
遥華は、意識不明のまま1週間が過ぎていた。付き添いのお母さんは、毎日手を握ったり、擦ったり、話し掛けたりしていた。
そんなある日、面会時間が終わりに近づき、
「遥華、また明日ね。早く目を覚ましてね」
と言って帰ろうとした時、
「う〜ん、お母さん?起きたよ……。目が覚めたよ……。やっと身体に戻れたよ……」
と言いながら、何の前触れもなく意識を取り戻した遥華が身体を起こして抱きついてきた。昏睡の原因が不明という事もあり、すぐには退院許可がでなかったが、間もなく退院できるという話になっていた。(ちょうど、この頃に凛が遥華のお見舞いに訪れていた)
しかし、意識を取り戻した日は気付かなかったが、その後少しずつ不可解な異変を感じるようになったという。例えば、
「ねぇ、お母さん。私、ちゃんと聞いてたよ。早く目を覚ましてねって、お母さん言っていたでしょう?」
「そうよ、何度も話しかけたわ」
他にも、
「私の手を握ったり、擦ったりしてくれていたでしょう?」
「えぇ、そうね……」
『まるで、どこかで見聞きしていたかのような話をしてるの?気のせいかしら?』
そして、
「お母さんを泣かしてしまって、ごめんなさい。身体に戻れなくなっていたの……」
『えっ!?なぜ知ってるの?それに、戻れないって、どういう事なの?二人っきりの病室で、涙したことがあったが、誰も知らないはず……。昏睡状態の遥華以外は……』
「昨夜は騒動があったし、一体何が起こっているのか、どうしたら良いのか分からないの」
と不安そうにため息をついた。テーブルの1点に視線を落としたままだった彼女が、夢から覚めたようにハッとした顔をした。悪夢のような受け入れ難い現実に戻ってきたようだ。
「あっ、私ったら……ごめんなさい。ちょっと待っててね。飲み物を持ってくるわね」
と申し訳なさそうに席を立った。
私たちは、彼女が離れていくのを確認してから、顔を見合わせた。
「やっぱり脳しんとうの影響か、心理的要因が大きいんじゃないかな?」
「遥華は、おばさんに光の存在って話しをしなかったのかな?」
「医者が原因を特定できないって事は、謎だよね?……どうする?」
「医者に任せるのが一番じゃないの?」
「私、昨夜の事は……遥華がいう知らない人って、幽霊じゃないかなと思うんだけど」
「幽霊!?」
「幽霊なんて居ないってば」
私たちは、遠くで紙コップをトレーに乗せている彼女の姿を見ながら呟いた。
「後で、しっかり作戦を練ろう!」
と小声で囁くと、みんな同意して大きく頷いた。
2節 作戦会議
ペンを置き、バタンと手帳を閉じた碧は、目を閉じて腕組みしている。対照的に凛は、キョロキョロと辺りを見たり、急に振り返ったりしていて落ち着きがない。
「大丈夫?」
「ううん、心のシャッターが直ぐに開いちゃう……困ったなぁ。法月さんの所に行きたいな」
「感情が高ぶったからかな?」
凛の話では、病院という場所がら幽霊が沢山いるが、ほとんどが生前のルーティンを繰り返しているだけらしい。
幽霊が見えない私にとっては、凛が見えている別の世界や幽霊は謎だらけで、好奇心と興味、疑問によって仮説や考察のテーマの宝庫になる。
例えば、凛と私のように、なぜ幽霊が見える人と見えない人がいるのか。見える人と見えない人の特徴、状態、条件などをリストアップして比べたり、心霊写真といわれるものなら幽霊が見えない人にも見える事になるのか……などなど。夢中になって仮説の考察をして徹夜する事がよくある。
『先程の話によれば、前回は遥華が光のかたまりを目撃した事、その時も幽霊の存在は否定していたという事。
昨夜の騒動では、遥華のいう知らない人が実際には誰にも確認できなかったという事か。それから……』
「よしっ、一つずつ一緒に考えてみよう!茜は考える事が多過ぎて頭が回らなくなってきた?それとも、また徹夜したとか?」
と、碧が私たちを覗き込んでいた。
3節 別視点
私が凛と幽霊の話をしていたからか、不機嫌そうに見える碧が話し始める。手元の手帳のメモを私たちに見せながら、
「まずは、確実な現象や事実を見て、その後可能性がありそうな事を考えてみようと思うの。ここに書き出した項目……付け加える事はあるかな?」
「すごい!要点が分かりやすいね」
「……幽霊の項目が……ない……よ」
『事故、脳震盪、痙攣、心肺停止、昏睡、原因不明……』の項目の中で、『原因不明』という部分で碧の手が止まった。ペンでトントン叩きながら
「検査で異常や問題がなかったのに……原因不明か……これは、どう理解すれば良いのかな……」
と、また腕組みしながら目を閉じてしまった。これは自問自答しながら考えを巡らせる時の碧の癖だ。
「ねぇ、他にもメモがあるんでしょ?ちょっと見せてほしいなぁ……ダメかな?」
科学的情報が書かれているのではないかと想像すると好奇心を抑えきれず、独り言のように思わず私の口から出てしまった。
「別に、いいよ」
と、あっさり返事が返ってきた。私は、期待値マックスで早速ページをめくってみる。
『生命の起源 原始地球 バイオフォトン 量子 素粒子 電磁気 光子 DNA 信号の切り替え 臨死体験 宇宙との繋がり (パソコン)』
など、面白そうな単語が並んでいた。私が知っている単語と知らない単語。特に『宇宙』や『生命の起源』って文字をみるだけで心が躍ってしまっている。
「面白くないでしょう?」
「全然そんな事ない!!どうしよう……ワクワクが止まらない~!」
碧は、何も聞こえなかったかのように前のページをめくり、
『遥華の言葉(戻る?) 知らない人(可能性低 幽霊?) 光の存在?』
と、書き加えた。凛と私は顔を見合わせてニッコリした。
第三章 始まりと終わり
1節 作戦会議2
病院の冷たい空気を纏ったままでは、まともに思考を巡らせることもできない。碧の提案で、私たちは病院から少し離れた喫茶店に足を踏み入れた。昼時を少し過ぎた店内は、人がまばらで落ち着いた雰囲気だ。窓からは午後の日差しが差し込み、テーブルの上では、ホットチーズサンドが美味しそうに湯気を立てている。
「はぁ……ようやく、まともに息ができるようになった気がする」
凛が、ふ~っと息を吐きながら、頼んだフルーツサンドを一口頬張る。
目の前では、碧が既に手帳を開き、私たちがおしゃべりしている間にも、先ほど確認した遥華の母からの情報を簡潔にまとめあげていた。
私は温かいカフェオレを一口飲み、頭の中で散らばっていた遥華の言葉や、碧のメモに書かれた魅力的な単語たちを一つずつ拾い集めていく。ここからが、私たちの「謎解き」の始まりだった。
「そう言えば、『臨死体験』ってメモに書いてあったけど、ついに碧もオカルトに興味が出てきたの?」
期待を込めて私は、碧に聞いてみた。
「あぁ……オカルトじゃなくて。もしかしたら科学的に考察出来るかもって思ったんだよね。これも凛や茜の影響かな」
「えっ、科学的に!?」
「ちょっと、もう一度手帳のメモを見せてくれる?」
私は、急いでテーブルの上の料理や飲み物をササッと移動させて、真ん中にスペースを開けた。碧は、手帳を広げて置き、私たちは改めてメモの項目に注目した。
「オカルト脳の私がひっかかる単語は、『臨死体験』だけだよ。他は小難しい科学的な専門用語に見えるけどね」
「世の中の大抵のことは物理的に数式で表せるものなんだ。日々の研究や検証で新しい発見もあるしね……」
「へぇ〜、じゃあ『臨死体験も』誰かが科学的に研究とかしてるって事?」
「そうだよ。……実は私もその1人なんだよね」
「えぇ〜!?」
意外な碧の返事に、私たちは驚いた。
「でも……いつも……幽霊はいない……って言うよね?」
「うん、そう言ってるよね」
凛と私は、『臨死体験』が天国に行った、一時的に透明になって生き返る、魂となって天井から見下ろしていたとか、浮遊していて人をすり抜けた……とか。うまく言えないけど、何となくそんなイメージを持っていた。
メモの『量子、素粒子、光子』を順番にペンでなぞりながら
「量子……。素粒子、光子……。それが粒子や波の性質やエネルギーを持っていて……」
「ちょっと待って、待って!」
「急に難しい事言われて、頭が痛くなりそうだよ」
私たちは、いきなり始まった碧の科学的説明や知識について行けず、慌てて待ったをかけた。
「ちょっと、すみませ〜ん。食器を片付けていただけますか?」
と、私は店員を呼んだ。これで慌てた拍子に食器を落下させる心配がなくなるはずだ。すぐに店員がやってきて、飲み物以外の食器を静かに運んでいった。
「碧ったら、急に専門用語使って説明するんだもん。びっくりしちゃったよ」
「そうだよ。私は拒絶反応を起こしそうになったよ」
碧は『ごめん、ごめん』と手を合わし、3人はそれぞれの飲み物に手を伸ばした。
自然は好きだが物理や数学が苦手な凛と好奇心から得ただけの偏った知識の私に理路整然と説明していく碧。
「それで、パソコンをイメージして考えてみればいいの?」
「そう、取り合えず簡単なイメージでいいよ」
「えぇ?全然分からないよ」
凛の泣き言は聞こえなかったかのように、碧は『臨死体験』の仮説を続けた。
「身体と幽霊をパソコンの本体と記憶情報に例える。
横たわる身体はパソコンが休止中……或いは停止中と考え、その情景を見聞きしている幽霊は、バックグラウンドで記憶しているソフトウェアとする……分かる?」
「何となく……ぼんやりだけどイメージできたかも」
「だから、昏睡状態の遥華が病室の様子を見たり聞いたりした記憶があるってこと!?バックグラウンドで?」
「そうそう!」
「なるほどね、イメージできたら分かりやすいかもしれない」
先程、食堂で碧が『原因不明』って項目でトントンしてたのも、パソコンに例える話に繋がるとは思いもしなかった。人と幽霊を機械的に考えるところも碧らしさかもしれない。
「じゃあ、やっぱり幽霊はいるじゃん」
「そうなるよね?」
と、オカルト仲間が増えたようで嬉しくなって私と凛はニッコリした。
「いや、私は幽霊とは違う存在だと考えているんだよね……今は……」
碧は続けて、『幽霊』という言葉をあえて使っているのは、私たちに専門用語の拒絶反応があるからだと言った。そして碧の考えているものは、光を発する存在らしい。
遥華が語ったという『光の存在』と、確か法月さんも興味持っていたのを思い出した。
「遥華のいう『光の存在』と碧の考える『光を発する存在』は、同じものなの?」
「うん。今は、恐らく同じだと仮定して考えているよ」
「メモの項目で言えば、どれの事?」
「これの事でこれとこれが繋がっていて……」
と、手帳を指差して聞くと、碧は『バイオフォトン、光子、DNA』の項目をペン先でなぞっている。凛と私は覗き込んで、
「ん~~、難しそう……」
「……?私はパス!ケーキ頼んでいい?」
私と違って凛の興味は、ケーキに移ったようだ。私たちは、『OK!』と手で合図しながら、2人で考察を続ける事にした。まず、私が初めて目にした『バイオフォトン』というものについての説明が始まった……かと思いきや、以前2人で考察した話だった。
「茜とは前に、『原始地球』の『生命の起源』について一緒に考察した事があったよね、覚えてる?」
「もちろん!!すごく楽しかったよ……で、それが何なの?」
「実は、あの時の考察が今回の件に繋がるかもしれないって……何となく私は思うんだよね」
「えっ、どういう事?全然違う話じゃんかぁ」
2節 生命と光
『原始地球』の『生命の起源』という考察する(私にとってはほとんど妄想になる)のは、時間がいくらあっても足りないくらい壮大でロマン溢れるテーマだ。碧は科学的な理論や検証実験の結果を話すことが多く、証明されていないことや自分の仮説は口に出さないことがある。そんな時は、決まってあの……腕組みと目を閉じるポーズになる。
一緒に研究している助教授にも話せない仮説が煮詰まると、私が大抵のことは興味を持つ事を知っている碧が打ち明け話にやってくる。
私の好奇心を刺激する話題の時は、2人で盛り上がり、そうでない時の私は聞き役に徹しているので、正直細部の内容はあまり覚えていない。だからこそ、碧は私の記憶の再確認が必要なのだろう。
ビッグバンによって宇宙が誕生した事、プラズマの雲の中から『光子』や『素粒子』が形成された事、『原始地球』約46億年前の地球は高温で生命が生存不可能だっただろう……という話は、かろうじて私の記憶に残っていた。
そして、『生命の起源』については、今思い出しても胸が躍る。ある程度冷えてきた地球に初めての生命が誕生したのはいつだろう?どんな条件が必要だろう?物質から細胞という生物になったのは?物質と生命の違いは『DNA』の有無なのか?……など次々と疑問が出てきた。地球の話がいつしか宇宙の話になって、あまりにも壮大過ぎて考察も行き詰まってしまったものだ。
碧が言うには、これらの考察を逆方向にしてみようというのだ。つまり、今までの最小は、細胞か『DNA』で考え次第に脹らみ、やがては宇宙となっていった。逆というのは、宇宙からではなくていいので、細胞や『DNA』から更に小さく考えてみようということらしい。
つまり、細胞を細かく見ていくと、ミトコンドリアや核が見えてくる。RNAやDNA、タンパク質やアミノ酸、元素や原子、陽子、中性子、電子、『光子』といった『素粒子』へと、どんどん小さくなっていく……。
「ちょっと……待って、待って。頭がパンクしそうだよ」
と凛に続き、今度は私が両手を挙げて降参した。ちょうどその時、凛が頼んでくれていたケーキが3つ運ばれてきた。
「凛、グッジョブ!!」
と、私は凛の手をギュッと握り、助け舟が来たタイミングの良さにも感謝した。
「美味しい〜!!脳が喜んでる〜!!生き返る〜!!」
「難しそうな話ししてたね、私にはチンプンカンプンだわ。まだ続くの?」
「うん、もう少しかな……」
と、碧も少し疲れたようにケーキに手を伸ばした。
「難しいことは分からないけど、目に見えるものを顕微鏡で見てみるって感じ?」
「凛ったら、聞いてないフリして実は聞いてたね!?」
「BGMのようにだけどね……」
と凛が笑顔で答えた。碧は、凛の食べかけのケーキを指差した。
「小さくなるって……言ってみれば、このケーキ。小麦粉とか卵や砂糖が材料に入ってるよね」
「うん、それは分かるよ」
「これを科学的に考えると、炭水化物やタンパク質って言い換えられるんだよ」
「それも分かるよ。コンビニで裏面に原材料や栄養成分とかカロリー書いてあるよね」
「そう!それが科学的表示で、栄養成分は……口で咀嚼し唾液という消化液と胃に向かうよね。消化管を通過しながら小腸まで数種の消化液と混ざり、血管を通過できるくらい小さくなるの。通過できるサイズになってやっと吸収できて、血管をめぐって栄養が全身に行き渡るようになる。人の身体でも、科学反応してるんだよ」
一気に熱弁を振るう碧に、のんびりと凛が言う。
「小学校の理科の授業みたいね」
「そう、科学も物理も身近でよくある現象なんだよ」
「そうそう、だから面白いんだよね」
「ふ〜ん、そうなんだぁ」
碧の説明を楽しそうに聞いてる凛を見て、なぜだか私は嬉しくなった。
「そういえば、碧は幽霊が光っていないって言ってたでしょ?でも、暗闇でも幽霊が見えるって事は光っているからじゃないのかなぁ?」
「……なるほど、という事は……」
と腕組みをして碧は呟き、動きが止まったがまだ目は閉じていない。凛と私は顔を見合わせて、碧を見つめた。
『バイオフォトン』とは、『DNA』の複製やストレスがかかった時などに放出される『光子』のことらしい。生命活動をしている細胞や『DNA』が発する光は、とても微弱な光なので特殊な高感度の機器でしか確認できないという。
碧の大学でも研究されているらしいが、『バイオフォトン』は肉眼で見えないのはもちろん、存在さえ疑われるほどの微弱な光だから、検証実験も大変なのだという。
碧が言うには、高感度の特殊なカメラで人間を撮影したら、人のカタチに光っている『バイオフォトン』が確認できるそうだ。それは、人が見えるはずもなく通常のカメラなどにも写ることは無い微弱な光のかたまり……『バイオフォトン』つまり『光子』のかたまりだ。
これが、目に見えないとしても存在していて……遥華がいう『光の存在』で、光らないが幽霊といわれるものではないかと、碧の仮説と考察の内容を話してくれた。
碧の仮説によると、一般的に幽霊や魂と言われているものは、『生命エネルギー体』ではないかと考えている。これは、心や意識、記憶などの目視できないものなのではないかと考えている。大胆な発想過ぎて、この仮説は碧の頭の中だけに留めていたらしい。
しかし、遥華の事があって、直感的にバラバラのピースが一気にまとまり、繋がるような気がしたという。
それが、碧の『生命エネルギー体』という独自の仮説によって、不可解な現象が当てはまり繋がるのだと熱く語った。
「……何となく、碧の言ってる事が分かってきたような気が……」
「……分からないなぁ。」
「私自身も整理できていないから、今度大学で話し合ってみようかな?」
第四章 繋がる光
1節 仮説の再考
広々とした校内は、青々とした芝生と木々の近くにベンチがあり、ちょっとした公園のようになっている。重厚で立派な建物の前には、こじんまりした噴水とオブジェがディスプレイされている。
「わぁ、こんなにも素敵な所で研究してるんだね。凛も一緒に来れば良かったのに……」
「凛なら、ここより慈光庵の方が喜ぶでしょう」
と、法月さんの所に行った凛の話をしながら、碧と私は研究室に向かった。階段を登り静かな廊下を歩きながら、やはり『バイオフォトン』って言葉の響きだけでも難しく感じる……。でも未知の領域って感じもして、私は期待値が上がり続けていた。歩みを止めた碧が、目の前のドアをサッと開いた。
「ここだよ……ようこそ、わが研究室へ!」
部屋の壁は、歴史を物語っているように淡いベージュ色で、元々は白かったのだろう。透明な壁で仕切られた小部屋が2つと大きめな部屋があり、全ての部屋の様子が見える造りになっていた。
「あれ、いないな……神崎さんは?」
と碧は白衣を羽織りながら、計器の数値を記録している仲間に碧は声をかけた。碧たちを出迎えに行ったとの事で、どうやら入れ違いになったようだ。
「待ってる間に、この間のおさらいをしようか?」
「うん、分からないことや質問したいことも出てくるかもしれない……そうしよう!」
碧が話す『バイオフォトン』と光の存在や『生命エネルギー体』という新たな言葉を含めて、それぞれの関係性や繋がりが、私には難解過ぎた。さっぱり分からない時は、疑問や質問さえも思いつかないので、一つずつ言葉と概念の説明してもらう事にした。
「一言で言うと、私の仮説だと不可解な現象が科学的に説明できるかもしれないってことで……」
『生命エネルギー体』という碧の概念は、個体の身体を物質であり器と考える。器の中に『生命エネルギー体』という意識や記憶などの情報のかたまりが内包されていると考えるらしい。
例えば、見える肉体の中に見えない身体があり、それぞれ別の働きをしつつも相互作用して調和がとれている、という。
この概念を使えば、パソコンに例えると、身体がパソコン本体で、『生命エネルギー体』が記憶などの情報となる。
そして『臨死体験』というのを当てはめて考えると、通常は2つで一つの身体が一時的に別々の動きをした後、元の状態に戻った……と考えているらしい。
また、器としての身体は、血流やイオン化などでの『電磁気』信号の回路であり、意識や記憶などの情報はDNAからの光信号の回路となる。つまり『バイオフォトン』の回路の『生命エネルギー体』となる。
「ん~~、分かるようで分からないかも……」
「そうだよね。私も生存の証拠となる『バイオフォトン』が『臨死体験』や死後の幽霊と同じかどうかという部分が自信ないな……」
いつもは熱弁を振るっている碧が珍しく自信なさげにため息をついた。静かな部屋の中に、コツコツと規則正しい音が近づいてきた。
「あら、早かったのね」
と飲み物を手にした女性がドアを開けて入ってきた。シンプルな紺色のワンピースに黒いハイヒール、ゆるくカールした柔らかそうなロングヘアの彼女は、私に気付き軽く会釈した。
助教授とだけを聞いていた私は、何となくメガネをかけた男性を勝手にイメージしていた。
だから、上級生かと思うほど若々しく、薄化粧でありながら魅力的な彼女が、その助教授だと私が認識するまで数秒かかってしまった。
「助教授の神崎蓮子です」
「は、はい……結城茜です。よろしくお願いします」
「もう1人の友人(凛)は、学校よりもお寺の方が良かったらしいです」
私たちは、簡単な挨拶をしながら窓際に置かれたソファーに座った。
2節 仮説の深堀り
「碧さん独自の仮説の話だったわね、楽しみだわ」
と神崎さんは、目を輝かせている。碧は、私たちの時とは違って、専門用語を多用しながら事実や現象、『生命エネルギー体』の概念の説明を始めた。碧の仮説と矛盾点になりそうな部分、いずれは検証実験に挑みたいと話している。専門家同士の話は理解力が高い為か、テンポが早い。
【碧の仮定する概念】
・生命の二元的側面:身体と生命エネルギー体 物理的に認識する肉体は、電磁気信号の複雑なネットワークによって機能する。脳や心臓のような筋肉や臓器は、血液中の塩分が通電性を高める事で全身に電気信号が効率的に伝達する。身体のシステムは全てこの電磁気信号が基板となる。
・生命エネルギー体:意識や思考、感情、記憶といった非物質的な側面を司る存在 これを光信号のネットワークであると仮説する。バイオフォトンは細胞から発せられる微弱な光であり、光が水に集まりやすい性質を持つ。水が生命エネルギー体の情報を保持、伝達する。物理的に作用しない。意識などで過去、現在、未来への時間的環境も自由に行き来ができる。
・DNA:2つのシステムの共通設計図 マクロな身体とミクロな生命エネルギー体は、DNAという共通の基盤によって同時に作られると仮定する。DNAは身体という電磁気信号システムの詳細な物理的設計図であるだけではなく、意識や記憶、生命エネルギー体の基盤となる『光信号の設計図』も含まれる可能性がある。
話し始めた時は、3人でソファーに座って、碧が手帳のメモを指さしていた。夢中になっている2人は、私の存在を忘れて立ち上がりホワイトボードの前で記号や数字を書いたり消したりしながら熱心に話し込んでいる。2人の会話についていけない私は、ポツンとソファーに座りながら、缶コーヒーについた水滴を指先でくるくると意味もなく円を描いている。そんな時、突然ポケットが振動し、コーヒーをぶちまけてしまうくらい驚いた。
「ヒマしてるでしょ?」
と、凛が電話の向こうでいつものように見透かしている。小声で話しながら私は廊下へと急いだ。
【碧の仮定と臨死体験】
・臨死体験と『信号の切り替わり』 通常時生命エネルギー体の微弱な光信号は、身体の電磁気信号のノイズの中に埋もれている。内在しているが存在感が皆無である。身体が危機的状況になる臨死体験によって、電磁気ノイズが消え、光信号に切り替わる。
・幽霊の存在:本来の姿への回帰(?)残留:死後分解がすすむDNAや細胞のネットワークに生命エネルギー体の情報パターンが残留磁性のように一時的に残っている。残像のようなものが幽霊として知覚される現象の一因ではないか。
・知覚 幽霊が水場で目撃例が多いのは、水が光を集め、情報を媒介しやすい性質を持つ為かもしれない。
・目撃者の条件 共感能力の高い人や五感が鋭い人。
「つまり、ここまでの話だと……DNAの設計図には物理的なものと非物理的なものの2つがあって、同時に作られる。器としての身体の物理的な回路は電磁気信号で、非常時に光信号に切り替わるということね」
「そうです。臨死体験はこれで説明がつきます。ただ……死後の幽霊となると、残像や残留エネルギーくらいしか思いつきません」
ひと通り『生命エネルギー体』と光の関係性という仮説を説明し終えた碧と神崎さんが、時間を持て余している私のソファーの横に戻ってきた。
「この仮説を考えるきっかけになったのが……入院中の友人がとった不可解な言動だったのね?」
神崎さんは、すっと天井に視線を移し、ポツンポツンと数カ所を指さしている。私は、やりきった感を纏う碧の肩を『お疲れさま』の気持ちを込めてポンポンと軽く叩いた。
3節 発想の転換:始まりと終わり
科学的会話について行けない私は、オカルトだけど質問してみた。
「あの〜、筋違いの話かもしれないですが……幽霊って世界各国で目撃や体験例があるのは、何かがあるって事になりませんか?例えば、寒気を感じる、鳥肌が立つ、暗闇なのにぼんやり見える、というのは……碧の説明にあった目撃者の条件にある五感や共感能力が高い人に当てはまりませんか?」
「身体から抜け出した『生命エネルギー体』が物理的に他人の身体に接触してる?」
「と、すれば……憑依現象も、他の身体に入り込んだ『生命エネルギー体』が意識や行動を乗っ取ると考えられますね」
「しかし、死後分解がすすむ中で、その『生命エネルギー体』のシステムやネットワークが維持できるのでしょうか?」
「磁石と釘のように、くっついた事がある釘とくっついた事がない釘の違いのように、身体のネットワークとして形成された分子と周りの分子に違いがあるとすれば……維持しやすい或いは再形成しやすいかも!?」
「だから、光を集めやすい水場や湿気が多い所で幽霊の目撃例が多いの!?」
「という事は、生者も死者も『生命エネルギー体』を使っているって事になるのかな?」
「と言うよりも、宇宙に偏在する原初の生命エネルギー体が自らを具現化するためにDNAを創造し身体という器を作ったのが生命の始まりと考えると、どうかな?」
「それって、身体を持たない生命体が地球環境で生存する為や物理的作用の為に身体を創ったってこと?」
「確かに……それなら生者と死者が『生命エネルギー体』を使い、分解によって維持できなくなった幽霊は一定の条件で再形成するか消滅すると考えることができるかもしれない」
「というか順番が……身体が死を迎える時『生命エネルギー体』は、器から解放され本来の光信号の姿に戻る?」
神崎さんと碧の会話に入ろうとタイミングを見計らっていたが、テンポが速すぎた。
二人の話によると……始まりであり終わりである生命、終わりは新たな始まり?……やばいな、頭がこんがらがってきたぞ。
やはり科学的会話について行けない私は、ソファーに座ったまま、時折、二人の熱気を帯びた議論に耳を傾ける事にした。
碧の仮説は、単なる物理的な現象だけでなく、意識や記憶、さらには「幽霊」といった不可解な現象にまで説明の光を当てようとしている。それは、この世界の常識を根底から覆すような、途方もない可能性を秘めているように思えた。
神崎さんが、ふと私の方を振り返り、優しく微笑んだ。
「結城さん、私たちもまた違う視点から議論を深めていきましょうね」
その言葉に、私は漠然とではあるが、自分もこの壮大な探求の一部に関われるかもしれない、という微かな予感を感じた。まだ何もかもが不確かなままだったが、目の前には、私たちが知る世界の扉を、さらに大きく開く可能性という鍵があるのかもしれない。
第五章 それぞれの光
あれから数日が経った。私は相変わらず碧の研究室に通い詰めては、彼女の口から飛び出す難解な科学用語と、それをさらに深掘りする神崎さんの専門的な話に、日々頭を悩ませていた。
それでも、生命の根源や宇宙の真理に迫るような彼らの探求は、私の中で新たな好奇心の扉を大きく開き続けていた。
そんなある日の午後、凛から連絡があった。
「ねぇ、今、時間ある? ちょっと面白い話があるんだけど」
私は二つ返事で了承し、いつものカフェで凛と待ち合わせをした。私が凛の向かいに座ると、彼女は得意げに微笑みながら、法月さんとの会話を話し始めた。
「法月さんがね、お寺でお経に書かれているという面白い話をしてくれたの。それによると、仏様のお姿はね、光り輝いているんだって。しかも、私たちが住んでいるこの宇宙とは違う、別の宇宙に住んでいるって書いてあるらしいのよ。お経ってすごいよね」
凛の言葉に、私は思わず息を呑んだ。碧の仮説と、法月さんの仏典の話が、一筋の光で繋がったように感じられた。光、そして異なる宇宙……。
「それって、碧が言ってた『生命エネルギー体』とか、『光信号』の話と繋がらない?」私が問いかけると、凛はうんうんと大きく頷いた。
「そうなのよ! 法月さんも、もしかしたら昔の人たちは、その『光の存在』を仏様や神様って呼んでいたのかもしれないって言ってたわ」
そして凛は、遥華の見舞いに行った時の話を始めた。遥華は、相変わらず夜中に誰かの気配を感じて怯えることがあったという。しかし、凛のある行動によって状況は一変したらしい。
「遥華が怖がってる『誰か』が私にもはっきり見えたの。だから思い切って、遥華の近くにいる理由を聞いてみたらね……実は遥華を心配して見守っている、ご先祖様の守護霊さんだったのよ」
凛は得意げにそう告げた。法月さんの教えを受けて、遥華の傍にいる存在と話し合ったのだという。
「遥華がびっくりしないように、なるべく姿を見せないで……そっと見守ってあげてほしいってお願いしたらね、ちゃんと頷いてくれたの。それからは、以前のように遥華はぐっすり眠れるようになったんだって」
凛の言葉に、私は安堵のため息をついた。科学では説明できない現象も、凛が言うように……時には慈愛に満ちた存在によるものなのかもしれないと思った。
そして碧がいうように……光の存在が、ただのデータではなく、感情や意思を持つ存在であるなら、それは決して不可能なことではないように思えた。
その夜、私たちは三人で、町の郊外にある小高い山に集まっていた。年に一度の流星群を見るためだ……地元のニュースで流星群のピークは過ぎたと言っていたが、それでも数十分おきに、夜空を横切る光の筋が私たちの目を釘付けにした。
「すごい……」
私は思わず息をのんだ。漆黒の空にきらめく無数の星々。その間を、一瞬の輝きと共に駆け抜けていく流星たち。
隣では、碧が小さな望遠鏡を覗き込み、凛は空を見上げながら静かに微笑んでいる。
「これだけの光が、はるか昔からずっと、この宇宙を旅してきたんだよね」と私は小さく呟いた。
碧がすぐに付け加えた。
「そして、私たちの中にも、同じような光が宿っている。形は違えど、宇宙のあらゆるものが光で繋がっているのかもしれないね」
私には、その言葉が、以前よりもずっと鮮明に胸に響いてきた。法月さんの仏典の教え、遥華を見守る守護霊の存在、そして碧と神崎さんが語る『バイオフォトン』という生命の光。それぞれ違うように見えて……しかしその根底には、確かに「光」という共通の概念が流れている。
私は、夜空にきらめく無数の光たちを見上げながら……果てしなく遠い宇宙に、そして私たち自身の内側に想いを馳せた。始まりも終わりも、きっと全ては繋がっている……この広大な宇宙のどこかで。確かに輝き続けている光の存在に私たち自身もまたその一部として繋がっているのだと、深く感じた夜だった。
完
初めて書いた物語なので、分かりにくかったと思います。目に留めていただき、ありがとうございました。




