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【第3局】孤独の碁盤


プロ棋士となった光志の一年目は、想像以上に厳しいものだった。


自由に、楽しく打つ──そのスタイルはプロの舞台では通用しなかった。

対局では勝てず、結果がついてこない。


「……やっぱり、勝てなきゃ意味ないのか」


光志はAIロジックを取り入れ、勝率を上げる囲碁を意識し始めた。

戦績は、多少なりとも上がってきた。


しかし——なぜか、しっくりこない。


「なんだろうな……勝ってるのに、空っぽな感じ」


勝つための手。負けない手。計算された一手。

そこには、何かが欠けていた。


迷いを抱えながらも、日々の対局に向かう。

頭では勝ち筋を追いながら、心のどこかで“これでいいのか”という問いが響いていた。

光志は、まだ答えを見つけられずにいた。


その頃、中国。

ユエは代表合宿の厳しいスケジュールに疲弊しながらも、練習後に棋譜を見返していた。


「また、無茶な手を……でも、読んでるのよね、ちゃんと」

画面に映るのは、光志の棋譜だった。


「いつも、何かを探すように打つのよね。……不器用」


隣に座る魯凰が小さく笑う。


「気になるなら、連絡してみれば?」

「気にしてない」

「ふうん。でも、そのキーホルダー、まだにつけてるよな。そろそろ取り換えれば?」


ユエは無言で棋譜を閉じた。


「──さ、次の研究対局。今日こそあんたに勝つから」


魯凰は肩をすくめ、碁盤を挟んだ。

その表情には、ほんの少しだけ、諦めに似た笑みが浮かんでいた。


数日後、日本棋院の一角で光志は旧校舎時代の囲碁部の同窓会が開かれているという知らせを受ける。

顧問の長嶺先生からのメッセージにはこうあった。


『囲碁部、復活したぞ。新入生3人も入った。君の昔の棋譜を見て、入りたいって言ってきたらしい』


光志は思わず笑った。


「俺の碁、まだ誰かに届いてたんだな……」

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