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3.1母の最期

街から光が消えた真夜中に、三人は城の裏門へ続く暗い道を走っていた。夜空には、虫に食われたような欠けた月が輝いて、三人の足元を薄く照らしている。


「本当に戦いが起きるの。」


ユアは走りながら母に尋ねた。


「分からない。でも、お父さんが亡くなってすぐに王の騎士団が解体された。その後、私たちに残されたのはたった数名の兵士だけ。騎士団だった兵士のほとんどは、アスタリアから追い出されるか、軍に吸収されてしまった。」


母は息を切らしながらユアの問いかけに答えた。


「ネリアスが裏で何を考えているのかは分からない。だけど、耳に挟んでしまった以上、このまま放っておくわけにはいかない。」


「オリビア、急げ。」


裏門へ着くと、三頭の馬を連れた一人の兵士が母の名を呼んだ。真っすぐな長い髪に涼やかな目をしたその男は元・王の騎士団の第二隊長のジンだった。


「見張りは、気を失っている。その間に早くここを抜けろ。」


そう言ったジンは、ユアとエテルに馬を引き渡した。門の近くには二人の兵士が倒れこんでいた。

ユアが馬に乗ろうとした時、母はユアの腕を軽く掴んでそれを引き留め、ユアの深い茶色の瞳を真っすぐに見つめた。


「私は、ただの町医者に過ぎなかったけれど、それでもアスタリアの王の妃として、あなたのお父さんの隣に立っていたの。彼が守ってきた平和を簡単に壊すわけにはいかない。」


母はユアの胸にかけられた朱色の笛をそっと握ると、ユアを真っすぐ見つめた。吸い込まれそうなほどに黒い大きな母の瞳に、まだ少し幼さの残るユアの顔が映り込む。


「ネリアスはあなたの摂政という立場を利用して、国の政治を思うままに動かしつつある。けど、この笛を手にしている以上、あなたがこの国の統治者なの。この国の行いの責任があなたにあることを忘れないで。」


そう言った母の声は、凛としていて美しかった。母は優しい微笑みを浮かべると、ユアの背中に腕を回して優しく抱きしめた。母の衣服に染み付いた薬草の香りと柔らかな体温がユアの身体をそっと包み込んだ。


「エテル、本当に私たちと一緒に来てくれるの。」


母はユアを促すと、エテルのほうを振り返って言った。


「ついていきます。ユアに助けられて、生かされた命ですから。隣に立っていたいんです。」


エテルは母の問いかけに迷いなく答え、馬に跨った。


「ありがとう。」


母はエテルに礼を言うと、ジンと向き合った。


「本当に行くんだな…。」


ジンは母に歩み寄ると、そう言った。母はジンの言葉に力強く頷いた。


「ありがとう。私たちをここから逃がす手伝いをしてくれて。このことがネリアスに知られれば、あなたたちは、きっと問い詰められる。私たちが門を抜けたら、レイラと一緒にすぐにアスタリアから逃げて。」


「ルアーニアの集落に着いた後はどうするんだ。もし、本当にネリアスが戦いを起こす気なら、ルアーニアの領地も危険だ…。」


「まだ、考えていない。でももし、本当にアスタリアがルアーニアを攻めてくるのなら、ルアーニア人の人たちと一緒に立ち上がるわ。その時は、あの子に文を預けて、あなたたちに助けを求める。だから、どこかで必ず生きて、また助けてくれたら、うれしい…。」


そう言った母の頭の上では一匹のフクロウが飛んでいた。


「当たり前だ。」


ジンは答えると、母の身体を強く抱き寄せた。


「騎士団のほとんどは国を追い出されたが、ノクトの意志は王の騎士団にも宿っている。俺はここを出たら、みんなを集めてここへ戻ってくる。だから、オリビア、生き急ぐなよ。」


ジンは周りにかろうじて聞こえる程度の声量でそう言った。母はジンの身体を抱きしめ返すと、頷き返した。


「先の関所はレイラがすでに門を開いているはずだ。そのまま突っ切れ。」


ジンは自身が握っていた馬の手綱を母に差し出した。


「本当にありがとう。レイラにもそう伝えて。」


母はそう言うと、ジンから受け取った馬に乗って駆けだした。ユアとエテルもジンに別れの言葉を述べると、母の背中を追いかけて、暗い街に姿を消した。



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