5.3 アスラとオリビア③
梟の鳴き声が、アスラを過去から現実へ引き戻した。
カテラが籠の扉を開けると、茶色いまだら模様の梟が勢いよく飛び出し、部屋の中を飛び回り始める。梟は部屋の中を一周すると、アスラの肩に止まり、その柔らかな身体をアスラの頬にすり寄せながら、小さな甘い鳴き声を漏らした。アスラがここを訪ねても、この梟はカテラばかりに懐いていて、アスラにこうして甘えることはほとんどなかった。
もしかしたら、ユアの匂いが残っているのかもしれないと思いながら、アスラは指先で梟の柔らかな頬を撫でた。
「あの人が伝えに来てくれなかったら、狼爪の集落は完全にアスタリアの支配になっていたし、被害はもっと大きくなっていた。」
カテラは梟の餌を用意すると、机の上に置いた。
「ユアを母親の『蛍木』へ連れて行かなくていいの?」
そう言ったカテラの目線の先で、梟は勢いよく餌に食いついていた。
「あの様子じゃ、まだ母親に顔向けできないだろうさ。私たちの悲しみも、恨みも全部受け止めて、自分が抑えることのできなかった軍の行いに目を向けてもらわないと。」
アスラは、ユアが治療院で働くことを渋っていたのを思い出した。ユアには、すべてをさらけ出す陽の光の下で、きちんと患者…ルアーニア人に傷つけられた人に向き合って欲しいとアスラは考えていた。
だが、彼女はそれに応え、アスタリアが犯した罪を背負って、王女になるのを決意してくれる日が来てくれるのだろうかとアスラは思った。
「ユアならきっと大丈夫よ。ちゃんと患者に向き合ってくれるわ。本当に嫌だったら、最初から逃げ出しているはずだもの。」
アスラの不安を払拭するかのようにカテラは言った。
「それもそうだな。」
もしユアに王女としての覚悟ができた日が来たら、ユアを母親の墓に連れて行こうとアスラは決めた。
そして、その墓に名を刻まなければならないと思った。命を削って、ルアーニア人に危険を知らせてくれたあの人の名を。ユアの母親の名前を。
「あなたも同じもの背負っているものね…。その荷物、ちょっとだけ、分けてくれても構わないのよ。」
カテラはアスラの手を握った。
「もう十分一緒に背負ってくれているよ。」
そう言ってアスラは、大切な人と穏やかな時間を過ごせることのありがたみを噛みしめながら、夜を過ごした。




